第3章
1
封魔が研究員達に連れていかれてから一週間。
神蘭は部屋に取り付けられている簡易キッチンで朝から作業していた。
「よし、出来た!」
出来上がったのはサンドイッチとスープで、容器に入れたあと、布で包む。
「んぅ?お姉ちゃん?」
その時聞こえてきた声に振り返ると、眠そうな少女が立っていた。
「ごめん、起こしちゃったかな」
「ううん」
首を横に振った少女に、神蘭は笑みをこぼす。
「そう……。でも、まだ眠いなら寝ていてもいいよ、由良」
神蘭の言葉に少女ー由良はこくりと頷く。
由良は一週間前に保護した少女で、神蘭に懐いていた為、今は一緒に生活していた。
「私は少し出掛けてくるから、目が覚めたら残ってるの食べて」
「うん……」
再び頷いた由良の頭を撫でると、神蘭は部屋を出た。
部屋を出た神蘭がやって来たのは神界軍の本部で、何度か来たことのある封魔の部屋のドアを叩く。
(あれ?)
いつになっても中から返事が返ってこないことに神蘭は首を傾げる。
(結構早く来たつもりだったんだけど、いないのかな?)
そう思いながら、自分が持ってきたサンドイッチとスープを包んだ布を見る。
彼がいないなら、一週間前助けてもらったお礼と命令に逆らったお詫びに持ってきたこれらは無駄になってしまう。
それともいつかのように疲れて眠ってしまい、気づいていないだけなのだろうかと思いつつ、試しに扉に手を掛けて少し力を加えてみれば、鍵は掛かっていなかったらしく扉は開いた。
中に入ると、封魔の姿はない。
その代わり、彼の部下である星夜と楓が椅子の背に凭れて眠っていた。
その二人を起こさないように中へ入り、部屋を見回してみる。
部下の二人はいるのに、部屋の主である封魔はやはり何処にもいなかった。
「「ん……?」」
気配に気付いたのだろう、眠っていた二人が身じろぎ目を開く。
「あなた……」
「えっと、ごめんなさい。勝手に入ってしまって……」
目を覚ました二人と目が合い、何となくばつが悪くて苦笑いする。
「と、ところで、封魔……さんは?」
そう聞くと、星夜と楓は複雑そうに顔を見合わせた。
「……まだ戻ってきていない。研究員達に連れていかれて、……それっきりだ」
「えっ?まだって……。じゃあ、今は治療班とか」
「……いない。それは既に確認した。……治療班には移っていないそうだ」
「……それで研究員の所にも行ってみたけど、門前払いされて何もわからなかったのよ」
「だから、待ってるしかないんだけどな」
そう言って、星夜は溜息をついた。
2
「…………」
星夜と楓から話を聞いた神蘭は、訓練の時間が迫っていることもあって本部を出た。
(直属の部下である二人が追い返されるんじゃ、私が行っても会えないよね)
そう思いながら訓練場に向かおうとしたところで、前から誰かが歩いてくるのに気付き、神蘭は何気なく視線を向ける。
「!!」
その人物が先程帰ってこないと言われていた封魔だということに気付き、思わず足を止める。
「封魔さ……」
自分の足でしっかり歩いてくる姿に安堵しつつ声を掛けようとしたが、その異様な姿にそれを止める。
よく見れば、彼の服は誰のものかわからない血で赤黒く染まっていた。
「ちょ……、怪我して……」
慌てて近付いて様子をみようとしたが、それより前に今まで向けられたことのない冷たい視線を向けられ、動きを止める。
「……どけ、邪魔だ」
そして、発せられた言葉は視線と同じくらい冷たい、感情を感じさせない平坦な声だった。
「……っ、邪魔って……。あの二人、心配してたよ。帰ってこないって……。戻ってきてたなら、どうして……」
「…………」
それでも何とか声を絞り出した神蘭を無視して封魔は歩き出す。
「ちょ、待って……」
「封魔」
まだ話は終わっていないと止めようとした神蘭の声に別の声が被さる。
視線を向けると、総長が立っていた。
「次の任務だ。行けるな?」
「ああ」
封魔が頷いたのを見て、総長は紙の束を取り出し、彼に渡す。
「最初は南。次が東、最後が北の村だ。報告は纏めて聞こう」
「……行ってくる」
「待って!」
受け取った紙の束を仕舞い、直ぐに踵を返そうとする封魔に、神蘭は声を上げ、持っていた布の包みからサンドイッチだけ取り出す。
今の会話からして今日戻ってくるかも怪しい封魔に、これだけでも渡しておきたかった。
「これ、移動している時にでも食べて」
「…………」
そう言って差し出したが、彼は受け取ろうとしない。
ただ冷たい視線のまま、それを見ているだけだった。
「……せっかくだ。持っていきなさい」
「わかった」
総長の言葉に漸く受け取ってくれる。
だが、その後もそれをしまうことなく唯見ている封魔に、違和感を覚える。
「お前の食事だ。持っていって、好きな時に食べなさい」
そう言って、総長は本部に戻っていく。
それを見て、封魔も踵を返して去って行ったが、残された神蘭の中には違和感のようなものが残っていた。
(何だろ?何かがおかしい気がする?)
総長と封魔が去って行った方を交互に見ながら、そう思う。
短い時間だったが封魔の様子は色々とおかしかった。
(何だか感情がないみたいだった。それに……)
サンドイッチを渡した時にそれが何だかわからないという様子だったのが気になる。
(あれは、最近反発していた私が渡した訳がわからないというよりも、サンドイッチが何なのかがわからないみたいだった。……一体、どうなってるの?)
そう思って考えてみたが、答えはわからないままだった。
封魔が研究員達に連れていかれてから一週間。
神蘭は部屋に取り付けられている簡易キッチンで朝から作業していた。
「よし、出来た!」
出来上がったのはサンドイッチとスープで、容器に入れたあと、布で包む。
「んぅ?お姉ちゃん?」
その時聞こえてきた声に振り返ると、眠そうな少女が立っていた。
「ごめん、起こしちゃったかな」
「ううん」
首を横に振った少女に、神蘭は笑みをこぼす。
「そう……。でも、まだ眠いなら寝ていてもいいよ、由良」
神蘭の言葉に少女ー由良はこくりと頷く。
由良は一週間前に保護した少女で、神蘭に懐いていた為、今は一緒に生活していた。
「私は少し出掛けてくるから、目が覚めたら残ってるの食べて」
「うん……」
再び頷いた由良の頭を撫でると、神蘭は部屋を出た。
部屋を出た神蘭がやって来たのは神界軍の本部で、何度か来たことのある封魔の部屋のドアを叩く。
(あれ?)
いつになっても中から返事が返ってこないことに神蘭は首を傾げる。
(結構早く来たつもりだったんだけど、いないのかな?)
そう思いながら、自分が持ってきたサンドイッチとスープを包んだ布を見る。
彼がいないなら、一週間前助けてもらったお礼と命令に逆らったお詫びに持ってきたこれらは無駄になってしまう。
それともいつかのように疲れて眠ってしまい、気づいていないだけなのだろうかと思いつつ、試しに扉に手を掛けて少し力を加えてみれば、鍵は掛かっていなかったらしく扉は開いた。
中に入ると、封魔の姿はない。
その代わり、彼の部下である星夜と楓が椅子の背に凭れて眠っていた。
その二人を起こさないように中へ入り、部屋を見回してみる。
部下の二人はいるのに、部屋の主である封魔はやはり何処にもいなかった。
「「ん……?」」
気配に気付いたのだろう、眠っていた二人が身じろぎ目を開く。
「あなた……」
「えっと、ごめんなさい。勝手に入ってしまって……」
目を覚ました二人と目が合い、何となくばつが悪くて苦笑いする。
「と、ところで、封魔……さんは?」
そう聞くと、星夜と楓は複雑そうに顔を見合わせた。
「……まだ戻ってきていない。研究員達に連れていかれて、……それっきりだ」
「えっ?まだって……。じゃあ、今は治療班とか」
「……いない。それは既に確認した。……治療班には移っていないそうだ」
「……それで研究員の所にも行ってみたけど、門前払いされて何もわからなかったのよ」
「だから、待ってるしかないんだけどな」
そう言って、星夜は溜息をついた。
2
「…………」
星夜と楓から話を聞いた神蘭は、訓練の時間が迫っていることもあって本部を出た。
(直属の部下である二人が追い返されるんじゃ、私が行っても会えないよね)
そう思いながら訓練場に向かおうとしたところで、前から誰かが歩いてくるのに気付き、神蘭は何気なく視線を向ける。
「!!」
その人物が先程帰ってこないと言われていた封魔だということに気付き、思わず足を止める。
「封魔さ……」
自分の足でしっかり歩いてくる姿に安堵しつつ声を掛けようとしたが、その異様な姿にそれを止める。
よく見れば、彼の服は誰のものかわからない血で赤黒く染まっていた。
「ちょ……、怪我して……」
慌てて近付いて様子をみようとしたが、それより前に今まで向けられたことのない冷たい視線を向けられ、動きを止める。
「……どけ、邪魔だ」
そして、発せられた言葉は視線と同じくらい冷たい、感情を感じさせない平坦な声だった。
「……っ、邪魔って……。あの二人、心配してたよ。帰ってこないって……。戻ってきてたなら、どうして……」
「…………」
それでも何とか声を絞り出した神蘭を無視して封魔は歩き出す。
「ちょ、待って……」
「封魔」
まだ話は終わっていないと止めようとした神蘭の声に別の声が被さる。
視線を向けると、総長が立っていた。
「次の任務だ。行けるな?」
「ああ」
封魔が頷いたのを見て、総長は紙の束を取り出し、彼に渡す。
「最初は南。次が東、最後が北の村だ。報告は纏めて聞こう」
「……行ってくる」
「待って!」
受け取った紙の束を仕舞い、直ぐに踵を返そうとする封魔に、神蘭は声を上げ、持っていた布の包みからサンドイッチだけ取り出す。
今の会話からして今日戻ってくるかも怪しい封魔に、これだけでも渡しておきたかった。
「これ、移動している時にでも食べて」
「…………」
そう言って差し出したが、彼は受け取ろうとしない。
ただ冷たい視線のまま、それを見ているだけだった。
「……せっかくだ。持っていきなさい」
「わかった」
総長の言葉に漸く受け取ってくれる。
だが、その後もそれをしまうことなく唯見ている封魔に、違和感を覚える。
「お前の食事だ。持っていって、好きな時に食べなさい」
そう言って、総長は本部に戻っていく。
それを見て、封魔も踵を返して去って行ったが、残された神蘭の中には違和感のようなものが残っていた。
(何だろ?何かがおかしい気がする?)
総長と封魔が去って行った方を交互に見ながら、そう思う。
短い時間だったが封魔の様子は色々とおかしかった。
(何だか感情がないみたいだった。それに……)
サンドイッチを渡した時にそれが何だかわからないという様子だったのが気になる。
(あれは、最近反発していた私が渡した訳がわからないというよりも、サンドイッチが何なのかがわからないみたいだった。……一体、どうなってるの?)
そう思って考えてみたが、答えはわからないままだった。