其々の路
1
継承式が行われる当日。
朝から城の中は準備で慌ただしくなっていて、そんな様子を見ながら、花音は朝食の席についていた。
(いよいよ、か)
継承式は午後から行われることになっている。
神蘭達はまだ来ていないが、時間に間に合うように来ると連絡があったのは聞いた。
だが、風夜からは何も連絡がないと風華が落ち込んでいたのも知っている。
(本当に来ないつもりなのかな?少しは顔を見せてくれればいいのに)
来ないだろうと思いつつ、夜天達にもそう伝えていたが、やはり会いたいという気持ちはあった。
「よかった。なんとか間に合ったわね」
継承式が始まる二時間前、現れた聖羅がそう言ってほっとしたように笑う。
彼女の後ろには一緒に来た神蘭達の姿もあった。
「もう少し早く来る予定だったんだけど、ちょっと準備に時間が掛かってしまってね。……神麗」
「はい。……あなた達には先に渡しておこうかしら」
「「?」」
聖羅から視線を受けた神麗が水晶のようなものが付いているブレスレットを渡してくる。
「これは?」
「私達との通信機能がついているの。お互いに連絡がつけば、色々役に立つこともあると思ってね。まぁ、あなた達は手首に二つつけることになってしまうけど」
「いえ、ありがとうございます」
「態々人数分用意したのか。ご苦労なことだな」
素直に受け取った花音とは違い、余計な一言を付け加えた光輝に花音は苦笑した。
2
継承式が始まる一時間前、国や一族の代表として式に出ることになっている光輝達とは違う場所で、花音は始まるのを待っていた。
(もうそろそろだね)
城の前広場に集まり、その時を待っている人々を見ながら思う。
「…………!!」
その人々を眺めていた花音だったが、不意に集まってくる人々の流れに逆らうように離れていく人物がいるのに気付いた。
「白亜、追いかけて」
「ピ?」
「早く!」
「ピイイイ!」
花音の声に反応し飛び上がった白亜が、その人物を追いかけていく。
それを見失わないように花音も走りだした。
(えっと、この方向の筈なんだけど)
途中で見失ってしまったらしい白亜と合流し、花音は立ち去った人物を探していた。
マントとフードで姿を隠していた為、はっきりと見たわけではないが、思い当たる人物はいる。
「……だよ。……のか」
花音が辺りを見回していると、僅かに声が聞こえてきた。
(この声!!)
その声には聞き覚えがあり、花音が声のした方へ向かうと、双子のようにそっくりな二人が向かい合っていた。
「なんだよ。せっかく時間をもらえたのに、結局顔も出さないで戻ってきたのか。大体、継承式だって始まってないんだろ」
「言っただろ?俺は《死んだ》人間なんだ。いつばれるかわからないのに、長居出来るか」
「だから、ちゃんと姿を隠せるものを用意したんだろ」
「馬鹿いえ。こんな格好してたら、逆に悪目立ちする」
「……ああ。確かに、もう見つかってたみたいだな」
そう言って、二人の内の一人ー風牙が視線を向けてきた。
「花音!?」
「あははははは……」
気付いていなかったのか、少し驚いている様子の風夜に花音は苦笑する。
「……でも、結局来たんだね」
「無理矢理休みにされて、連れてこられたんだよ。おまけに時間まで戻れないようにされた」
「それじゃあ」
「それでも俺は、継承式に出るつもりはない」
「……頑固だな」
そう風牙が呟いた時、花火が上がる音が聞こえてきた。
「あ……」
「始まったみたいだな」
「花音、戻らなくていいのか?」
「うーん、いいや」
「「はっ?」」
花音の言ったことに二人は少しだけ目を見開く。
「多分、皆も私がいないこと、気付いてないと思うし、終わる前に戻れば大丈夫だよ」
「なら、この頑固者の説得手伝うか?」
「ふふ、そうしようかな」
ニヤリと笑って言った風牙にそう返すと、風夜は勘弁してくれというように溜め息をついた。
3
「あ、終わったみたい」
「ちっ」
どの位の時間が経ったのか、継承式の終わりを告げる花火が上がり、花音は呟き、風牙が舌打ちする。
「おい、こら。舌打ちするな」
それを聞いて、少し目を据わらせた風夜に、花音は笑う。
「なんか少し会わない間に凄く仲良くなったみたいだね」
「「…………」」
言った途端、二人は無言になってしまい、花音は今度こそ声を出して笑ってしまった。
「花音……」
「ご、ごめん」
「ったく……、まぁ、とにかくもう戻ってもいいだろ?」
「ま、待って!」
終わったことで帰ろうとした風夜に、花音は慌てて引き止めるように声を上げた。
「風華ちゃんがね、風夜に会いたがってたの。……少しだけでも、無理かな?」
「言ってるだろ?《死んだ》俺は国民に見つかるわけにはいかないんだよ」
「でも……」
それでも何とか食い下がろうとしている花音に気付いたのか、風夜が溜め息をつく。
「……わかった。会うわけにはいかないが、俺が来ていたことが分かればいいんだろ」
「……なるほど。それもありか」
そう言って、風夜と風牙は何か企んだように笑った。