其々の路
1
光の街に戻ってきてから数日。
花音は机に向かって書類を片付けている光輝の所へ紅茶とクッキーを持ってきていた。
「はい。そろそろ少し休憩したら?」
「ああ。あとこれだけ片付けたら」
そう返した光輝が見ていた書類に印を押して、息を吐く。
「終わりそう?」
「ああ。明日からは漸く通常の量に戻りそうだ」
「ごめんね。私も早く手伝えるように頑張るから」
疲れた様子の光輝に、花音はそう返す。
戦いが終わってから、花音は光の街のことや世界のことを勉強してはいたが、光輝の仕事を手伝うにはまだ知らないことの方が多く、もう少し時間が掛かりそうだった。
トントン
クッキーを数枚摘んで紅茶を飲んだ光輝が一息ついた時、扉がノックされた。
「入れ」
「失礼いたします」
光輝の許可を得た男性が入ってくる。
「何だ?」
「先程風の国から使者が見えまして、これを」
そう言って、一通の封筒を差し出してくる。
その封筒はしっかりと綴じてあり、風の国にいた時に何度かみたことのある風の国の印が押してあった。
受け取った光輝が封筒を開け、中の紙に目を通す。
「これは!」
「何が書いてあったの?」
「王位継承式についてだ。日程とか詳しいことが決まったらしいな」
言いつつ、差し出された紙を花音は受け取り、目を通す。
その紙には継承式を行うのであろう一週間後の日付と時間が書かれていた。
「いよいよか。数日前には行くようだから、また仕事が溜まりそうだな」
溜め息混じりに光輝は言ったが、その表情は何処か明るいものだった。
2
「花音ちゃん、いらっしゃい!」
継承式が行われる三日前。
風の国に到着した花音と光輝は、風華に迎えられていた。
「花音ちゃん達が一番乗りだよ」
「……まぁ、夜天も仕事に切りがつかないみたいだったしな。間に合うようにするとは言ってたけど」
「うん。空兄様も継承式の準備以外にも仕事が多くて大変みたい。
あとね、継承式には神蘭さん達も来てくれるって」
「えっ?」
「はっ?」
不意に風華が言ったことに、花音は光輝と同時に声を上げた。
「来てくれるって、どうしてそれを?」
「うん?えっとね、何日か前に様子を見に来てくれて、少しでも時間が取れれば来てくれるって」
嬉しそうに言う風華に、花音も笑みを零す。
だが、風華はすぐにその笑みを寂しげなものへと変えた。
「……ねぇ、花音ちゃん」
「どうしたの?」
急に表情を変えた風華が気になり、優しく問い掛ける。
「風兄様は来てくれるかな?」
そう言った風華に何と返そうか迷う。
『風の国の第二王子は《死んだ》』
『もう風の国に戻るつもりはない』
別れる時の風夜の言葉を思い出し、もし来たとしても国民に姿を見せることはしないだろうと思う。
つまりそれは自分達にも姿を見せることはないということだろう。
だが、風華の言う『来る』というのは勿論会いに『来てくれる』かということなのだろうから、変に期待を持たせるようなことは言いたくなかった。
3
「うわー、凄え、凄え!」
「凄~い」
継承式が行われる前日、風の国の中は祭のような騒ぎだった。
幾つも出ている屋台を見ながら、紅牙、蒼牙が声を上げる。
「なあなあ、黄兄、何か買っていい?」
「僕、彼方に行ってみたい」
「はいはい」
紅牙、蒼牙が黄牙にそう言って、彼を引っ張っていこうとする。
それを苦笑しながら見ていた花音だったが、ふと上空を何頭かの飛竜が飛んで行ったことに気付いた。
「あっ」
「漸く来たみたいだな」
同じ様に気付いたらしい光輝が言うのを聞きながら、近くにいる朔耶を見る。
「朔耶君、悪いけど……」
「ああ。一度城に行くんだろ?彼奴らには伝えておくよ」
「ありがとう。行こう、光輝」
「ああ」
内容も言わない内に答えた朔耶に礼を言うと、花音は光輝と共に城へと向かった。
風の城へと入ると、そこには丁度来たところらしい夜天達の姿があった。
「やっと来たか」
「まぁ、これでも急いで終わらせてきたんだよ」
声を掛けた光輝に夜天がそう返す。
「そっちは結構早かったみたいだな」
「元々街だから国に比べると楽だしな。それにお前達と違って、既に光の街として出来上がってるからな。俺の仕事量が一番少ないんだろう」
前半を夜天達に、後半を凍矢達に向けて光輝が言う。
「まぁ、確かに私達は一族を呼び戻してから、街を再興させてた訳だしね」
それを聞いた星夢が苦笑する。
「そういえば、風夜からは何の連絡もないのかい?」
大樹に聞かれ、花音は風華がいないことを確認してから口を開いた。
「……来ないんじゃないかな?もし来たとしても、私達の前には姿を見せないと思う」
それは風夜に会いたいという様子の風華には、はっきりとは言えないことだった。
光の街に戻ってきてから数日。
花音は机に向かって書類を片付けている光輝の所へ紅茶とクッキーを持ってきていた。
「はい。そろそろ少し休憩したら?」
「ああ。あとこれだけ片付けたら」
そう返した光輝が見ていた書類に印を押して、息を吐く。
「終わりそう?」
「ああ。明日からは漸く通常の量に戻りそうだ」
「ごめんね。私も早く手伝えるように頑張るから」
疲れた様子の光輝に、花音はそう返す。
戦いが終わってから、花音は光の街のことや世界のことを勉強してはいたが、光輝の仕事を手伝うにはまだ知らないことの方が多く、もう少し時間が掛かりそうだった。
トントン
クッキーを数枚摘んで紅茶を飲んだ光輝が一息ついた時、扉がノックされた。
「入れ」
「失礼いたします」
光輝の許可を得た男性が入ってくる。
「何だ?」
「先程風の国から使者が見えまして、これを」
そう言って、一通の封筒を差し出してくる。
その封筒はしっかりと綴じてあり、風の国にいた時に何度かみたことのある風の国の印が押してあった。
受け取った光輝が封筒を開け、中の紙に目を通す。
「これは!」
「何が書いてあったの?」
「王位継承式についてだ。日程とか詳しいことが決まったらしいな」
言いつつ、差し出された紙を花音は受け取り、目を通す。
その紙には継承式を行うのであろう一週間後の日付と時間が書かれていた。
「いよいよか。数日前には行くようだから、また仕事が溜まりそうだな」
溜め息混じりに光輝は言ったが、その表情は何処か明るいものだった。
2
「花音ちゃん、いらっしゃい!」
継承式が行われる三日前。
風の国に到着した花音と光輝は、風華に迎えられていた。
「花音ちゃん達が一番乗りだよ」
「……まぁ、夜天も仕事に切りがつかないみたいだったしな。間に合うようにするとは言ってたけど」
「うん。空兄様も継承式の準備以外にも仕事が多くて大変みたい。
あとね、継承式には神蘭さん達も来てくれるって」
「えっ?」
「はっ?」
不意に風華が言ったことに、花音は光輝と同時に声を上げた。
「来てくれるって、どうしてそれを?」
「うん?えっとね、何日か前に様子を見に来てくれて、少しでも時間が取れれば来てくれるって」
嬉しそうに言う風華に、花音も笑みを零す。
だが、風華はすぐにその笑みを寂しげなものへと変えた。
「……ねぇ、花音ちゃん」
「どうしたの?」
急に表情を変えた風華が気になり、優しく問い掛ける。
「風兄様は来てくれるかな?」
そう言った風華に何と返そうか迷う。
『風の国の第二王子は《死んだ》』
『もう風の国に戻るつもりはない』
別れる時の風夜の言葉を思い出し、もし来たとしても国民に姿を見せることはしないだろうと思う。
つまりそれは自分達にも姿を見せることはないということだろう。
だが、風華の言う『来る』というのは勿論会いに『来てくれる』かということなのだろうから、変に期待を持たせるようなことは言いたくなかった。
3
「うわー、凄え、凄え!」
「凄~い」
継承式が行われる前日、風の国の中は祭のような騒ぎだった。
幾つも出ている屋台を見ながら、紅牙、蒼牙が声を上げる。
「なあなあ、黄兄、何か買っていい?」
「僕、彼方に行ってみたい」
「はいはい」
紅牙、蒼牙が黄牙にそう言って、彼を引っ張っていこうとする。
それを苦笑しながら見ていた花音だったが、ふと上空を何頭かの飛竜が飛んで行ったことに気付いた。
「あっ」
「漸く来たみたいだな」
同じ様に気付いたらしい光輝が言うのを聞きながら、近くにいる朔耶を見る。
「朔耶君、悪いけど……」
「ああ。一度城に行くんだろ?彼奴らには伝えておくよ」
「ありがとう。行こう、光輝」
「ああ」
内容も言わない内に答えた朔耶に礼を言うと、花音は光輝と共に城へと向かった。
風の城へと入ると、そこには丁度来たところらしい夜天達の姿があった。
「やっと来たか」
「まぁ、これでも急いで終わらせてきたんだよ」
声を掛けた光輝に夜天がそう返す。
「そっちは結構早かったみたいだな」
「元々街だから国に比べると楽だしな。それにお前達と違って、既に光の街として出来上がってるからな。俺の仕事量が一番少ないんだろう」
前半を夜天達に、後半を凍矢達に向けて光輝が言う。
「まぁ、確かに私達は一族を呼び戻してから、街を再興させてた訳だしね」
それを聞いた星夢が苦笑する。
「そういえば、風夜からは何の連絡もないのかい?」
大樹に聞かれ、花音は風華がいないことを確認してから口を開いた。
「……来ないんじゃないかな?もし来たとしても、私達の前には姿を見せないと思う」
それは風夜に会いたいという様子の風華には、はっきりとは言えないことだった。