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其々の路

1
「さぁ、ここよ」
そう言って神麗が立ち止まったのは、研究所のような建物だった。
「入って」
言われて中に入った途端、埃っぽい空気に花音は思わず咳き込んだ。
「けほっ、けほっ」
「っ、おい、何だよ。これ」
「うふふ、ごめんなさい。先ずは掃除からみたいね」
「「おいっ!」」
悪いとは思っていなそうな神麗に夜天と光輝が声を揃える。
それに花音は思わず笑ってしまった。
数時間後、掃除を終えた時には、夜天と光輝は疲れ切ったらしく椅子に座り込んでいた。
「ったく、なんでこんな……」
「あはは、お疲れ様」
「うふふ、でも頑張ってくれたから、綺麗に片付いたわ。ありがとう」
そう言って神麗は花音達の前に、三つの腕輪を置いた。
「これ、封魔さんがつけてる……」
「封ちゃんのに似てるけど、これは測定機よ。これであなた達の力の質や強さを調べてから、あなた達に合ったものを作るわ」
「測定って、どの位するんだ?」
「そうね。一週間くらい計測させてもらって、三人分出来るのは更に一週間は掛かるかしら?」
「少なくとも二週間は神界にいなければならないってことか」
神麗の答えに光輝は溜め息をついた。
「仕方ないよ。それで付けてるだけでいいんですか?」
「ええ。後は勝手に計測してくれるから。二週間好きなように過ごして」
そう言い、神麗は笑った。
2
「好きに過ごせって言われてもな」
「何をしろって言うんだよ」
次の日、神麗の研究所を出て、夜天と光輝が呟く。
そんな二人の声を聞きつつ、花音も特に目的もないまま歩いていく。
「あ、いたいた」
その時、聞こえてきた声に足を止めると、星華と昴、千歳が掛けてきた。
「何かあったの?」
「いや、ただ……、神麗さんが色々案内してやってくれって」
「二週間あるんだもの。何もないのは退屈でしょう?」
「だから、行きたいところがあるなら、何処でも連れて行くぞ」
「それなら」
昴、千歳、星華の言葉に、花音はある場所が浮かんだ。
「……ここだ」
花音が案内を頼んだのは、前に神界に滞在していた時、命を奪われてしまった神族の少年の墓がある場所だった。
途中で購入した花を供え、そっと手を合わせる。
少ししてまた何処か別の場所へ行こうと思った時、幾つかの足音が聞こえてきた。
その方向を見ると、神蘭、鈴麗、龍牙、白夜の姿があり、其々が小さめの花束を持っていた。
「……報告ですか?」
「……ああ。取り敢えず、戦いが終わったことを伝えておこうと思ってな」
星華に答え、神蘭が言う。
「……やっぱり、封魔様は来てないんですね?」
「……まぁ、いつものことだ」
千歳に龍牙が肩を竦める。
「報告ってこの場所でか」
光輝の言葉に神蘭達は少し複雑そうに笑った。
神蘭達四人のあとについていくと、花音達が来ていた少年の墓に比べて立派な石碑が建っている場所へと来た。
「ここは?」
何故か少し雰囲気が違う気がして、花音は神蘭を見る。
「……私達の一代前の闘神達が眠っている場所だ。彼等は私達の師でもあったから、報告くらいはしておかないとな」
「そういえば、前に一代前の人達は生きてるか死んでるかわからないって言ってましたよね?でも」
神蘭に返しながら、再び石碑を見る。
墓があるということは『死』を認めたということではないのだろうか。
そう思っている花音に気付いたらしい鈴麗が苦笑した。
「私達はまだ納得出来ていない部分もあるんだけど、軍としては亡くなったことになってるのよ。気持ちの整理をつける為にもって総長達がね」
「まぁ、その二人の息子であり、一代前の闘神達とも仲間だった封魔は一度もここに来たことないし、その時のことも話そうとはしないけどな」
「…………」
付け加えるように言った白夜に、花音は少し考え込む。
黒姫を倒し全てが終わった筈なのに、何故かもっと得体の知れない何かが動いているような気がした。

「はい、どうぞ」
計測に一週間、その結果をもって神麗が作業に入って更に一週間。
完成したらしい三つの腕輪を持って神麗が出てきたのは、神界に来てから二週間後の昼だった。
「つけてみて」
言われて、手首にそれをつける。
「どう?気分悪くなったりしない?能力も使えるかしら?」
「はい。大丈夫です」
力を押さえつけられるような違和感はあるが、少しすれば慣れるだろうとそう返す。
「力も問題なく使えるみたいだな」
「なぁ、これをつけていれば、本当に大丈夫なのか?」
光球を手に出し答える光輝の横で夜天が聞き、神麗は頷いた。
「ええ。あなた達の場合、これをつけていれば大丈夫なようにはしたわ。ただ、長時間外していたら、効果はなくなってしまうから気をつけてね」
そう言った神麗に花音達は頷く。
「さてと、この腕輪が出来た以上、あなた達はもう帰るんでしょう」
「まぁ、俺たちだけいつまでも不在という訳にはいかないからな」
「でも、刹那君は先に帰っちゃってるし、どうやって帰ろうか?」
「それなら、軍が使ってる門を使わせてもらえばいいわ」
「使わせてもらえばって、勝手に使えるのか?」
「一応、軍属の者が一人付かないといけないことにはなってるけど、神ちゃん達も一段落ついてるだろうから、問題ないはずよ。それじゃあ、行きましょうか。少しでも早い方がいいんでしょう?」
そう言った神麗と共に花音達は、軍本部へと行くことにした。
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