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決戦の時

1
花音達が最上階に着いた時、見えたのは神蘭と聖羅の後ろ姿とその先にいる黒姫の姿だった。
三人の周りの床は既に割れたり、大きく傷付いたりしていて、激しくやりあっていたのがわかる。
「……あら、もう来たのね。もう少し時間が掛かると思っていたから、先にこの二人を始末するつもりだったのに」
花音達に気付いた黒姫がそう言って笑う。
「でも、此処まで来るのにだいぶ力を使ったみたいだし、私が有利なのは変わらないわ」
「随分な自信だな。力を消耗しているのは、お前も同じじゃないのか?」
「ふふ、それでも私の方が優位よ。だって、これがあるもの」
風夜の言葉に笑って返し、黒姫は小さな瓶を取り出した。
その瓶の中には、黒い液体が入っている。
「ふふ、これはある人から貰ったのだけど、これを飲めば私の力は今より強くなるそうよ」
そう言う黒姫に僅かに封魔が反応したのがわかる。
「よせ、それはっ」
はっとしたように彼は声を上げたが、黒姫はそれをそのまま飲んでしまった。
次の瞬間、黒姫は瓶を取り落とし、その場に崩れ落ちる。
かと思うと、彼女の身体に異変が起こり始めた。
身体が徐々に巨大化し始め、異形の者へと変わっていく。
「な、何……?」
「……まずいな。出るぞ!」
巨大化する黒姫の姿が天井に達するのを見て、このまま此処にいるのは危険だと判断したらしい風夜が叫び、花音は彼に抱えられる。
その状態で踵を返した風夜に続いて、神蘭が聖羅を庇いながら、風牙と封魔がその後ろについて部屋を飛び出す。
その直後、変化し続ける黒姫の身体から黒い触手のような物が何本か出て来たのが見えた。
2
狭い城の中から花音達が出てきた時には、その間にも巨大化し続けていたのだろう黒姫に耐えきれなくなったらしい城が崩壊し始めていた。
天井を突き破り、外から見えている黒姫の顔は、既に彼女の元の姿とはかけ離れていて、口は裂け、目も鋭くつり上がり、紅くなっていた。
「一体、何が?」
『ふふふ、あははははは』
そのまま笑い出したかと思えば、狂ったような笑みを浮かべたまま、見下ろしてくる。
それと同時に、城を突き破るように触手が飛び出してきた。
「ちっ!」
舌打ちした風夜がそれを切断しようと風の刃を放つ。
しかし、逆にそれらが薙ぎ払われ、触手を傷付けた様子もなかった。
それどころか、勢いを増して、花音達に襲い掛かってきた。
「くっ!」
その内の一本が花音に向かってきたのを風牙が抱え込んで避ける。
次々と襲い掛かってくる触手に、花音達はそれを避け続けるしかない。
『あはははは』
防戦一方になってしまったのを見て、黒姫だったものは笑い続けている。
「これじゃあ、きりがないわ。本体を叩かないと」
そう言って、聖羅が神蘭と封魔を見る。
「二人共、援護して」
「「はい」」
二人が頷いたのを見て、聖羅が飛び上がり、それに続いた神蘭と封魔が聖羅を狙う触手を切り落とそうとする。
その時、黒姫だったものがニヤリと笑ったのがわかった。
3
「!!待て、戻って来い!」
風夜もそのことに気付いたらしく、三人を止めるように声を上げる。
だが、それは遅かったようで神蘭と封魔が斬りつけた触手に黒い電気が流れ、二人の身体を打った。
「「うわあああ!」」
「神蘭!封魔!」
それを見て、聖羅が動きを止め、振り返る。
その彼女も後ろから捕らえられ、同じように電気を浴びせられる。
「うあああっ!」
「ちっ!何やってんだ!」
苦鳴を上げる三人を見て、風牙が助けようとしたのか翼を出す。
だが、それを風夜が止めた。
「待て、風牙。直接攻撃したら、彼奴らの二の舞になる」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「花音、狙えるか?」
「えっ?」
風夜に言われ、花音は少し戸惑いながら捕まっている三人を見た。
距離的には問題はない。
黒姫の邪魔が入らなければ、今の花音なら三人を捕らえている触手を狙って、助けることは可能だろう。
「……わかった。やってみる」
そう返して、弓を構える。
触手なら光属性の矢で大丈夫だろうと、矢をイメージして力を集中させる。
助けるならまずは聖羅からだろうと狙いを定めた時、触手が襲いかかってきた。
「わわっ!」
それで集中を解いてしまい、作った光の矢も四散してしまう。
チャンスとばかりに触手が何本か向かってきたが、それらは風夜が張った結界により阻まれる。
(よしっ、もう一度!)
内心で呟き、もう一度狙いをつけようとする。
だが、触手が電気を帯びた状態で結界に何度も叩きつけられる。
「っ……!」
風夜が必死で防いでくれているのはわかるが、これでは攻撃するどころか三人を助けるのは難しい。
その時、花音の横に来ていた風牙が小さく笑った。
それを不思議に思って、花音が彼を見ると、その視線はまた違う方向を見ている。
「……ナイスタイミング」
「えっ?」
風牙の呟きに花音が首を傾げた時、「バチバチィ」と激しい音を立てた雷撃と激しく燃えている炎が結界に叩きつけられていた触手を消し飛ばした。
4
「おい、無事か!?」
「何とか間に合ったか……」
触手が消えたのを確認した風夜が結界を解いたのとほぼ同時にそう声が聞こえてくる。
それは火焔と雷牙の声で、城に直接来ていなかった仲間達が来たのだとわかる。
「俺達の所は片付いた。あとは、此奴だけだ」
言いながら、夜天が黒姫の変わり果てた姿を見る。
「それにしても何なの。この姿」
「完全に別人じゃないか」
近くに来た水蓮と大樹も同じように見上げて言った。
「一体、何であんな姿に?」
「わからない。あの姿になる前に、何か液体を飲んでたんだけど」
「おい!話してる場合か!」
凍矢に答えていると、龍牙の声がして、今の状況があまりよくなかったことを思い出す。
(そうだった。早く三人を助けないと)
状況は変わっていないが、先程まではいなかった仲間達が合流している今、状況をひっくり返すチャンスでもあった。
「刹那くん、協力して!」
「わかった!」
雷牙や火焔達が捕らえようとしてくる触手を払ってくれるのを見ながら、刹那に声を掛ける。
それに彼が頷いてくれたのを確認して、花音は先ずは聖羅を助ける為に弓を構えた。
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