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決戦の時

1
封魔と風牙を残して先に進んだ花音達。
最上階に近付くにつれて、花音にも黒姫の力が感じ取れるようになってきていた。
「……だいぶ、近くなってきたわ」
「……いよいよですね」
そう話す聖羅と神蘭の会話からも緊張感のようなものが混じってくる。
それを聞きながらも先を急ごうとしていると、前を進んでいた風夜が急に立ち止まった。
「止まれ」
「「「!!」」」
短く言った声に立ち止まると、彼は何かを探るように先を見ていた。
「……この先から幾つもの気配を感じる。そんなに強い気配はないが、数はかなり多いな」
言われて花音も気配を探ってみる。
すると、黒姫の強い力に隠れてはいるが、確かに幾つもの魔力を感じた。
「……自分の所へ辿り着く前に数で押して、私達を消耗させるつもりか」
「あの女の考えそうなことね」
二人の会話を聞きながら、花音は風夜を見る。
彼は少し何かを考えているようだったが、決意したように口を開いた。
「……奴等は俺が引き受ける。道は切り開くから、一気に抜けろ」
「……わかった」
「そうね。全員で黒姫の思い通りになることはないわ」
風夜の言葉に、神蘭と聖羅はすぐにそう返したが、花音は正直迷っていた。
自分がこのまま黒姫の所に行っても、あまり役に立てる気がしない。
それなら、風夜と共に残って彼の負担を少しでも減らして、一緒に向かった方がいいと思った。
2
多くの気配を感じる場所を前に風夜が手に力を集める。
「……行くぞ」
準備が出来たのか思いっきり開いた扉の先へ向け、彼は風の刃を放つ。
それによって魔族が消し飛ばされ、出来た道を神蘭と聖羅は駆け抜けていく。
そんな中、風の刃から逃れた魔族達が攻撃体勢に入ったのを見て、花音は弓を構えると矢を数本放ち、それに怯んだ魔族達に風夜が斬りかかり、その命を奪っていった。
「花音、お前も早く……」
「ううん」
魔族達を相手にしながらそう言ってくる風夜に、花音は首を横に振ると、死角から彼を狙っていた魔族に向けて火の矢を放ってから、風夜を真っ直ぐ見た。
「私は此処に残って、手伝うよ。それに」
そう返して、先程神蘭達が駆け抜けていった辺りを指す。
神蘭達の姿はもう見えない。
それどころか体勢を立て直した魔族達に、二人は囲まれていた。
「ね?これじゃあ、もう二人を追い掛けられないよ」
そう言った花音に仕方ないというように風夜は溜息をついた。
「……わかった。それなら、協力してもらう。但し、無理はするなよ」
「うん。援護は任せてよ!」
そう返せば、もう一度溜息をついてから、風夜が床を蹴り、魔族達の中へと切り掛かっていく。
その際、小さくだが聞こえた「任せた」という言葉に花音は小さく笑うと、風夜の動きに注意しながら、雷と時の珠を取り出し、火の珠と同じ様に弓にはめ込んだ。
そして、風夜の隙をついて攻撃しようとする魔族に向けて、先ずは時の矢を放ち動きを止めると、続けて攻撃力の高い雷と火の矢を上空に向けて放った。
動きを止められた魔族達は火に焼かれ、雷に打たれていく。
その間にも風夜は次々とそれ以外の魔族を倒していく。
背後をそんなに気にしていない様子の彼に、花音はそれだけ自分を信頼してくれているのだと嬉しくなった。
それからどの位の時間が経ったのか、どの位の数の相手をしたのかはわからなかったが、確実に数は減ってきている。
疲れが溜まり始め、改めて気を引き締めなおしていると、一度距離をとり花音の近くに着地してきた風夜が振り返ってきた。
「花音、大丈夫か?」
「うん。まだ大丈夫だよ」
「言っとくけど、こいつらで終わりって訳じゃないんだぞ」
「大丈夫だよ、本当に」
「……そうか。なら、あと少しだ。さっさと片付けるぞ」
「うん!」
風夜に頷くと、彼は再び魔族達に向かって行き、花音もまた弓を構えなおした。
3
「や、やっと終わった」
風夜が最後の魔族を倒したのを見て、弓を下ろし、花音は一息つく。
神蘭と聖羅を先に行かせてからどの位の時間が経ったのかはわからないが、かなりの時間は経ってしまっただろう。
(早く二人の所に行かないと!)
今の戦闘での疲れはあるが、先に行かせた二人のことが気になる。
「よし、行こう」
そう言って、風夜の方を見ると、彼は花音が進もうとしているのとは逆の方を見ていた。
その表情は、僅かに笑みを浮かべている。
「……来たな」
花音が不思議に思っていると、小さく呟いたのが聞こえ、此方に近付いてくる足音が二つ聞こえてきた。
警戒する様子のない風夜に、花音も視線を向けると、そこには下の階で別れてきた風牙と封魔の姿が見えてきた。
「風牙!封魔さん!よかった!」
多少の傷を負ってはいるものの、元気そうな二人の姿に花音も表情を明るくする。
「そっちも終わったのか?」
「ああ。少しだけ手こずったけどな」
「っていうか、お前達は何をしていたんだよ?」
辺りを見回して、風牙が聞いてくる。
「見ての通りだ。数ばかり多くてな。時間が掛かった」
答えながら、風夜は肩を竦める。
「神蘭と聖羅様は?」
「二人は先に行ったよ。私達も今、追い掛けようとしてたの」
「そうか」
封魔が呟いた時、上の階から爆発音が聞こえてきた。
「今の!?」
「ああ、急ぐぞ!」
言った風夜に頷き、花音達は走り出した。
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