決戦の時
1
「……あれ?」
「気が付いた?」
花音が気が付いた時にはベッドに寝かされていて、近くから琴音の呆れたような声が聞こえてきた。
身体を起こし視線を向ければ、声と同じように呆れた表情で彼女が立っている。
「全く……、刹那が迎えに行って漸く帰ってきたかと思えば、四人中三人が意識を失うってどういうことよ?」
「あははは、ごめん。なんかみんなの顔を見たら、安心しちゃって。風夜と封魔さんは向こうで結構無理してたから」
「まぁ、その辺りのことは神蘭から聞いたわ」
「そっか。……そうだ、風夜達は?」
「休んでるわ。刹那もね。あの後、今度は私達全員を街に連れてきてダウンしたのよ。だから、まだ少し休んでいたら?」
「ううん。私はもう平気だから。三人の様子を見てくるよ」
花音はそう答えると、ベッドから下りた。
琴音と別れ、まず花音がやってきたのは封魔の部屋だった。
許可を得て中に入ると、彼の姿しかなく、花音は首を傾げた。
「あれ?」
「何、首を傾げてるんだ?」
「えっと、てっきり神蘭さん達がいると思ってたから」
「ああ。あいつらなら、これからのことを話し合ってる。黒姫のいる城の場所もわかったしな」
(そういえば、そうだった)
色々と酷い目にあったが、それが分かったのは収穫だとは思う。
ただその前で出会ったフードの人物が何者なのかと疑問は残っていた。
「……花音」
「な、何?」
「城の前で会った女、覚えているな?」
丁度思い出していた時に言われ、コクリと頷く。
「……今は奴のことは忘れろ。そして、誰にも言うな」
「えっ?」
「奴の言う通り、今の敵は黒姫だ。奴等はまだ動かない。だから、まだ言うな」
そう言う封魔に少し引っかかりも覚えたが、あまりに真剣な表情をしている彼に溜め息をついて口を開く。
「……わかりました。でも、一つだけ。封魔さんには心当たりがあるんですね?」
「……ああ」
「……そうですか」
「……悪いな。いずれ奴等は動く。……その時、またお前達を巻き込んでしまうかもしれない」
ー『あなた達はいずれ私達の所へ来る。絶対にね』ー
その時、封魔の言葉と女の言葉が繋がった気がしたが、今は考えないことにした。
封魔の部屋を出た花音は、次に刹那の部屋を訪れていた。
「花音、起きたのか」
中に入ると、彼は読んでいたらしい本を置いて、花音を見た。
「うん。刹那くんはもう大丈夫なの?」
「ああ。俺はただ力を使い過ぎただけだからな」
「そっか。ありがとうね、助けに来てくれて。今回は本当にどうなるかと思ってたし」
「はは、……まぁ、俺の力は攻撃力はないが、使い方によっては厄介だからな」
「うん。私もそう思ったよ。刹那くんが味方で良かったって」
「何だ、それ」
花音が少しげんなりしながら言うと、刹那は苦笑混じりに笑った。
2
刹那と話した後、最後に風夜の部屋へと来ると、丁度出て来た彼とはち合わせた。
「風夜!もう動いて大丈夫なの?」
力を使っただけの花音、封魔とは違い、攻撃も受けた風夜を気にして問い掛けると彼は頷いた。
「ああ。さっき美咲が来て、治してくれた」
「それならよかった」
「で、お前は何しにきたんだ?」
「ちょっと様子を見にね。……それと、少し話したいことがあって」
「話したいこと?」
「うん」
風夜に頷き、花音は他に誰もいないかと辺りを見回す。
そうしていると、一つ溜め息をついた風夜が部屋の中に入れてくれた。
「それで、話って?」
「……うん。だけど、その前に……、風夜はこの戦いが終わったら、魔界に残るんだよね?」
「まあ、今は魔族だしな。お前達とは時間の流れも変わったし、それが普通……」
「恐くない?風牙達がいて、少しは慣れたかもしれないけど、他のみんなには置いていかれるんだよ?寂しくない?」
「……花音?」
そこで様子がおかしいと思ったのか、訝しげに視線を向けられる。
「何かあったのか?」
「私……、私だけじゃなくて光輝と夜天くんもだけど、今のままだといずれ神族と魔族になるかもしれないって、神麗さんに言われたの」
「どういうことだ?」
話が読めないというように眉を顰めた風夜を見て、花音は神麗から聞いたことを話し始めた。
「神麗さんが言ってたんだけど、みんなが持っている宝珠は、その物自体が強い力を持っていて持ち主の力を高めてくれるものだけど、光と闇の宝珠は違うらしいの。神族と魔族から逃げてきた人達が自分達の強すぎる力をその中に封じて、他の一族と同じ様に宝珠と呼んでいただけだって」
「…………」
「そして、その宝珠が壊れたことで、その力が私達の中に入った為に、次第に私達の身体も変化していくだろうって。まぁ、そうならないようにすることも出来るらしいんだけど」
「迷ってる訳か?」
そう問われて、花音は頷いた。
「でも、まだ時間はあるんだろ?後の二人とも話し合ってどうすればいいか、後悔しない方を選べばいいさ。……俺の時とは違って、そんな緊迫した状況ではないんだろうからな」
「…………」
言われて、風夜が今まで出してきた選択の答えを思い出す。
それらの時には風夜は、力を受け入れるしかない状況ばかりだった。
それに比べて、自分達にはまだ時間もあり、黒姫を倒せばそんな悪い状況もない。
受け入れるしかなかった風夜と選択肢の残された自分達。
そのことに気付いて、彼に相談してしまったことを後悔していると、扉が開かれ、風牙が入ってきた。
「ん?何だ?花音もいたのか?」
「うん。ちょっとね」
「それでお前はどうしたんだ?」
「ああ」
風夜の問い掛けに、風牙は真剣な表情をして話し始めた。
「さっき神界の奴等が来てな。明日、黒姫のいる空間に乗り込むから、万全の状態にしておけだと」
「最終決戦ってことか」
「……いよいよだね」
そう言いながら、一度だけ見た黒姫の城を思い出す。
黒姫を守る五将軍はもういない。
だが、黒姫もそう簡単には自分の元へ辿り着かせないだろう。
何かしら策を講じているのは間違いなかった。
「……あれ?」
「気が付いた?」
花音が気が付いた時にはベッドに寝かされていて、近くから琴音の呆れたような声が聞こえてきた。
身体を起こし視線を向ければ、声と同じように呆れた表情で彼女が立っている。
「全く……、刹那が迎えに行って漸く帰ってきたかと思えば、四人中三人が意識を失うってどういうことよ?」
「あははは、ごめん。なんかみんなの顔を見たら、安心しちゃって。風夜と封魔さんは向こうで結構無理してたから」
「まぁ、その辺りのことは神蘭から聞いたわ」
「そっか。……そうだ、風夜達は?」
「休んでるわ。刹那もね。あの後、今度は私達全員を街に連れてきてダウンしたのよ。だから、まだ少し休んでいたら?」
「ううん。私はもう平気だから。三人の様子を見てくるよ」
花音はそう答えると、ベッドから下りた。
琴音と別れ、まず花音がやってきたのは封魔の部屋だった。
許可を得て中に入ると、彼の姿しかなく、花音は首を傾げた。
「あれ?」
「何、首を傾げてるんだ?」
「えっと、てっきり神蘭さん達がいると思ってたから」
「ああ。あいつらなら、これからのことを話し合ってる。黒姫のいる城の場所もわかったしな」
(そういえば、そうだった)
色々と酷い目にあったが、それが分かったのは収穫だとは思う。
ただその前で出会ったフードの人物が何者なのかと疑問は残っていた。
「……花音」
「な、何?」
「城の前で会った女、覚えているな?」
丁度思い出していた時に言われ、コクリと頷く。
「……今は奴のことは忘れろ。そして、誰にも言うな」
「えっ?」
「奴の言う通り、今の敵は黒姫だ。奴等はまだ動かない。だから、まだ言うな」
そう言う封魔に少し引っかかりも覚えたが、あまりに真剣な表情をしている彼に溜め息をついて口を開く。
「……わかりました。でも、一つだけ。封魔さんには心当たりがあるんですね?」
「……ああ」
「……そうですか」
「……悪いな。いずれ奴等は動く。……その時、またお前達を巻き込んでしまうかもしれない」
ー『あなた達はいずれ私達の所へ来る。絶対にね』ー
その時、封魔の言葉と女の言葉が繋がった気がしたが、今は考えないことにした。
封魔の部屋を出た花音は、次に刹那の部屋を訪れていた。
「花音、起きたのか」
中に入ると、彼は読んでいたらしい本を置いて、花音を見た。
「うん。刹那くんはもう大丈夫なの?」
「ああ。俺はただ力を使い過ぎただけだからな」
「そっか。ありがとうね、助けに来てくれて。今回は本当にどうなるかと思ってたし」
「はは、……まぁ、俺の力は攻撃力はないが、使い方によっては厄介だからな」
「うん。私もそう思ったよ。刹那くんが味方で良かったって」
「何だ、それ」
花音が少しげんなりしながら言うと、刹那は苦笑混じりに笑った。
2
刹那と話した後、最後に風夜の部屋へと来ると、丁度出て来た彼とはち合わせた。
「風夜!もう動いて大丈夫なの?」
力を使っただけの花音、封魔とは違い、攻撃も受けた風夜を気にして問い掛けると彼は頷いた。
「ああ。さっき美咲が来て、治してくれた」
「それならよかった」
「で、お前は何しにきたんだ?」
「ちょっと様子を見にね。……それと、少し話したいことがあって」
「話したいこと?」
「うん」
風夜に頷き、花音は他に誰もいないかと辺りを見回す。
そうしていると、一つ溜め息をついた風夜が部屋の中に入れてくれた。
「それで、話って?」
「……うん。だけど、その前に……、風夜はこの戦いが終わったら、魔界に残るんだよね?」
「まあ、今は魔族だしな。お前達とは時間の流れも変わったし、それが普通……」
「恐くない?風牙達がいて、少しは慣れたかもしれないけど、他のみんなには置いていかれるんだよ?寂しくない?」
「……花音?」
そこで様子がおかしいと思ったのか、訝しげに視線を向けられる。
「何かあったのか?」
「私……、私だけじゃなくて光輝と夜天くんもだけど、今のままだといずれ神族と魔族になるかもしれないって、神麗さんに言われたの」
「どういうことだ?」
話が読めないというように眉を顰めた風夜を見て、花音は神麗から聞いたことを話し始めた。
「神麗さんが言ってたんだけど、みんなが持っている宝珠は、その物自体が強い力を持っていて持ち主の力を高めてくれるものだけど、光と闇の宝珠は違うらしいの。神族と魔族から逃げてきた人達が自分達の強すぎる力をその中に封じて、他の一族と同じ様に宝珠と呼んでいただけだって」
「…………」
「そして、その宝珠が壊れたことで、その力が私達の中に入った為に、次第に私達の身体も変化していくだろうって。まぁ、そうならないようにすることも出来るらしいんだけど」
「迷ってる訳か?」
そう問われて、花音は頷いた。
「でも、まだ時間はあるんだろ?後の二人とも話し合ってどうすればいいか、後悔しない方を選べばいいさ。……俺の時とは違って、そんな緊迫した状況ではないんだろうからな」
「…………」
言われて、風夜が今まで出してきた選択の答えを思い出す。
それらの時には風夜は、力を受け入れるしかない状況ばかりだった。
それに比べて、自分達にはまだ時間もあり、黒姫を倒せばそんな悪い状況もない。
受け入れるしかなかった風夜と選択肢の残された自分達。
そのことに気付いて、彼に相談してしまったことを後悔していると、扉が開かれ、風牙が入ってきた。
「ん?何だ?花音もいたのか?」
「うん。ちょっとね」
「それでお前はどうしたんだ?」
「ああ」
風夜の問い掛けに、風牙は真剣な表情をして話し始めた。
「さっき神界の奴等が来てな。明日、黒姫のいる空間に乗り込むから、万全の状態にしておけだと」
「最終決戦ってことか」
「……いよいよだね」
そう言いながら、一度だけ見た黒姫の城を思い出す。
黒姫を守る五将軍はもういない。
だが、黒姫もそう簡単には自分の元へ辿り着かせないだろう。
何かしら策を講じているのは間違いなかった。