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決戦の時

1
「あははは、はーはっははは。やったぞ!これでもう、五将軍はいない!あと一人、黒姫さえ始末すれば、私も上位魔族の一員だ!」
花音達に気付いていないのか、笑い続けている男に、花音は風夜達と顔を見合わせる。
その後、神蘭が一歩前に踏み出した所で気付いたのか、男は笑うのを止めて、花音達の方を見た。
「あん?何だ?もう脱出したのか?」
「……窮姫はどうした?」
「ああ。奴ならもういない」
「何?」
「殺してはいないが、決して出てくることの出来ない場所へと飛ばしたからな。あとは放っておいても、そこで力尽きるだろう」
「っ……」
それを聞いて、神蘭が何かを堪えるような表情をする。
因縁があった彼女としては、自分の手で決着をつけたかったのかもしれない。
花音としても、今まで色々な目に合わされてきた相手の呆気ない最後に複雑ではあった。
「さてと、待たせたな。次はお前達の番だ」
言ってニヤリと笑う男を見て、風夜が背中に三対の翼を出す。
そのまま地を蹴った彼に続いて、封魔が何かを神蘭に投げたのがわかった。
「持ってろ!」
「えっ?……ちょ、待て!」
神蘭が受け止めたのは封魔の腕輪で、慌てて声を上げるが、彼は風夜に続くように男に向かっていってしまう。
どちらもあっという間の出来事で、止めることの出来なかった花音は同じように呆気に取られていた神蘭と顔を見合わせて、苦笑いするしかなかった。
「ぐはっ!」
力を解放している二人相手では流石に敵わなかったのか、男はあっさりと地に伏す。
「さてと、いい加減ここから出してもらおうか」
「くくく」
声を上げた封魔に男は笑い出した。
「まだだ。まだ終わりではないぞ」
言ったかと思うと、男の姿は薄くなっていき、次第に消えていく。
「消えたっ!?一体何処に?」
『ははははは』
自ら姿を消したようにも見えた男の姿を神蘭が探す。
その時、何処からか男の笑い声が聞こえてきた。
「あそこだ!」
そう言って風夜が指した先には、空と一体化したように男の顔があった。
『こうなったら、この空間ごと押し潰してやる』
言葉と共に空や周りの景色がぶれて見え、空間が迫ってくるような圧迫感を感じた。
それと同時に風夜と封魔が視線を交わし合い、風夜が一度は仕舞っていた翼をもう一度広げて飛び上がる。
そのまま、上空に向けて魔力を放ったのと同じタイミングで、封魔が迫ってくる周囲に向けて自分を中心にするように力を放出する。
その直後、彼らの力と迫ってくる空間がぶつかり合い、不安定になった空間が激しく揺れた。
2
「わわっ!?」
「っ!」
思ったよりも激しい揺れに、花音は耐え切れず座り込む。
近くにいた神蘭もバランスは崩したようだったが、すぐに体勢を立て直していた。
空間を狭めようとしている力とそれを阻止しようとしている力がぶつかり合っているせいで、揺れはおさまるどころか益々酷くなっているような気もする。
「……膠着状態だな」
「……うん。でも、多分このままだと……」
長期戦になればなる程、どう考えても空間を操れる男の方が有利だろうと思う。
実際に花音の位置からでは風夜の表情は見えないが、封魔と空間使いの男の表情はわかる。
封魔が険しい表情を浮かべているのに比べ、男はまだ余裕があるような笑みを浮かべていた。
『くくっ、二人掛かりとはいえ、
頑張るじゃないか?だが、いつまで保つかな?』
その声と共に男の力が強まったのか、空間が狭くなり始める。
「ぅぐっ……」
「ぐぅっ……」
「風夜!封魔さん!」
「花音!」
不意に神蘭が花音を抱えて飛び退く。
その直後、二人がいた場所に魔力の弾が降り注いだ。
「花音!神蘭!」
「こっちは大丈夫だ!」
攻撃に気付いて声を上げた風夜に、神蘭がそう返す。
その時、空と一体化していた男の顔が風夜の近くに移動し、大きく口を開ける。
「!!危なっ!」
「うわあああ!!」
そこにエネルギーが集まっているのに気付き、花音は声を上げたが既に遅く、風夜は吹き飛ばされ地面へ突っ込むように落ちた。

「ちぃっ!」
風夜が攻撃されたことで、彼が抑えていた分の空間が一気に狭まってくる。
それに気付いた封魔が更に力の範囲を広げたが、同時に膝をついた。
「ぐうぅっ!!」
二人で抑えていたのが一人になり、均衡状態も破られたのか懸命に抑えようとしているにも関わらず、空間は狭まり続ける。
『ははは!このまま、四人揃って、消し……何っ!?』
楽しそうだった男の声が急に途切れる。
そうかと思うと、突然空間に溶け込んでいた筈の男が何かに弾き出されたかのように再び実体化し、それと同時に空間の揺れと縮小も収まった。
「っ……、はぁはぁ、げほっ……、何だ?」
「今度は、何が……?」
肩で息をしている封魔と、ふらつきながら立ち上がった風夜、何が起きたのか分からずにいた花音、神蘭の前で再び空間と一体化しようとした男が弾かれる。
「な、何故だ?」
「……無駄だ。もうこの空間の支配権は、お前から俺に移っている」
「「「「!!」」」」
そう声がした方に視線を移せば、そこにはいつの間にか刹那の姿があった。
「刹那くん!?」
「お前いつの間に!?」
「ついさっきな」
驚いて声を上げた花音と神蘭にそう返してくる。
「お前がそいつらの仲間の空間使いか!だが、何故だ?私の方が力は勝っている筈」
「ああ。そうだな。だが、それは本来の話。今のお前は、お前が思っている以上に消耗してるのさ。その二人のせいでな」
そう言った刹那が、風夜と封魔を指した。
「とはいえ、俺も繋ぐのでかなりの力を使ったからな。このまま、退かせてもらう」
「ふん。自力で動けそうにない二人を連れて逃げられると?」
「ああ。保険を連れてきたからな」
刹那が笑い、風夜と封魔の方へ視線を向けると、いつの間にか風牙と白夜の姿があり、二人に肩を貸していた。
「花音は一人で大丈夫か?無理に繋いだから、不安定になってるけど」
「案ずるな。花音は私が連れて行く」
「そうか。なら、行くぞ」
神蘭が答えたことに、刹那がそう言って踵を返した。
4
刹那の後について入った空間は、通路のようにまっすぐに伸びていた。
「悪いな。さっきも言った通り、無理に繋いだから自力で抜けてもらうしかないんだ」
「ううん。それは平気、でも」
走り抜けながら言う刹那にそう返し、花音は背後を振り返る。
「待て!逃がすかっ!」
「やっぱり、追い掛けてきてる!」
後ろには同じ様に空間に入ってきた男の姿があり、花音は声を上げる。
「なら、私が時間を……」
「いや、構うな。下手に時間を掛ければ、この空間もどうなるかわからない。脱出することだけ考えろ」
「だが!」
「大丈夫だ。手は打ってある」
食い下がろうとする神蘭に、封魔に肩を貸している状態の白夜が言う。
「見えてきた!出口だ!」
その時、風夜を連れている状態の風牙が声をあげ、視線を前に向ければまだ少し距離はあるが、明るくなっている場所があった。
「……彼処から出たら、直ぐに伏せろ。巻き込まれたくなかったらな」
刹那の言葉に、花音は神蘭と顔を見合わせる。
彼の言葉の意味がわかったのは、実際に出口に辿り着いてからだった。
「伏せろ!」
漸く出口から出たと思った瞬間、刹那が鋭く叫ぶ。
その声に反射的に身を伏せると、花音達のすぐ上を温度差のある凄まじい力が通過していく。
直後、追いかけて来ていた男の断末魔の様な声が空間の中で響き、気配が消えた。
身体を起こして振り返ると、男の姿は勿論、今抜けたばかりの空間もなくなっていた。
「ピイイイ!」
それを呆然として見ていると、鳴き声がして、白亜が飛んでくる。
白亜を受け止めて飛んできた方を見れば、仲間達の姿があり、戻ってこれたのだとわかる。
その瞬間、緊張が解けたからか、花音は糸が切れたように意識を失った。
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