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立ち塞がる壁

1
闇王を倒して二日、花音達は特に大きな襲撃もなく過ごしていたが、何処かピリピリとした空気が流れていた。
「…………」
花音は歩きながら、前を行く封魔、龍牙、白夜を見ながら溜め息をつく。
あまり表に出そうとはしていないが、神蘭達の行方がわからないことで彼等は苛ついているように思える。
その時、不意に前の空間が歪むのが見えた。
「えっ?」
それに反応するよりも早く、そこから黒い触手のようなものが伸びて来て、封魔、龍牙、白夜、そして花音、光輝を捕らえた。
「「「っ!」」」
「なっ!?」
「わわっ!?」
五人を捕らえた触手は空間の中へと引き摺りこもうとしてくる。
それを見て慌てたように白亜が花音を追いかけて来ようとしたが、風夜に止められ、そのまま刹那に投げられる。
「お前はこっちだ」
「ピイイイイ!」
刹那に受け止められた白亜の悲痛な鳴き声と、ぎりぎりで風夜が閉じかけた空間に飛び込んできたのを最後に花音の視界から他の仲間達の姿は消えた。
「いたたっ!」
乱暴に投げ出され、着地に失敗した花音は、地面に打ち付けた腰を摩りながら立ち上がる。
辺りを見回すと、其処は森の中のようだった。
「まさか、またこの森全体が魔物だったりしないよな?」
「いや、今度は違う。寧ろ……」
顔を引きつらせた光輝に、白夜が答えた時、背後から何かが近付いてくる気配がした。
警戒しつつ振り返ると、やがて姿を現したのは、神蘭、鈴麗、昴、千歳、星華の五人だった。
向こうも驚いた様子だったが、直ぐに駆け寄ってくる。
「お前達、どうして此処に?」
「今さっき、引き摺りこまれたんだよ。それより、総長と副総長は?」
「それがわからないの。此処に飛ばされてから、急にいなくなってしまって」
龍牙に答えた鈴麗の言葉に、封魔が何か考えこむ。
「封魔、どうした?」
「……いや、何でもない」
「……そうか?」
封魔の返事に納得出来ていないようだったが、神蘭が引き下がった時、すぐ近くで強い魔力を感じた。
「……お出ましみたいだぞ」
呟いた風夜に、神蘭達が身構える。
「……どうやら、余計な者が一人くっついてきたようだな」
そう声がして、闘牙が現れる。
「まあ、いい。私のしたいことは変わらないのだからな」
そう言ったかと思うと、何処からか黒い触手が伸びてきて、花音達の身体を拘束した。
「って、またこのパターンかよ!?」
「案ずるな。お前達に手は出さん。……今はまだな」
拘束され、身動きとれない光輝に闘牙が返す。
その意味がよくわからなかったが、周りの様子を見回して、封魔だけが拘束されていないのに気付いた。
「……一体、何が目的なんだ?」
「決まってるだろ。私は」
そこまで言った闘牙の姿が消える。
次の瞬間、大剣と剣が激しくぶつかり合った。
「……俺は、強い奴と戦うのが好きでなぁ、本気で殺し合いがしたいのさ!」
「ぐぅっ!」
力負けしたらしい封魔が、一度距離をとる。
「さぁ、この二日前のようにそれを外してみろ!全力で来い!」
「二日前?……龍牙、白夜!どういうことだ!?」
笑みを浮かべ、挑発する闘牙の言葉に、神蘭が声を荒げた。
「……外したんだよ。そいつの言う通り、一昨日な」
「時間は!?」
「ぎりぎり一時間だ」
「それじゃあ、まだ回復しきっていないじゃないか!」
龍牙と白夜の答えに、神蘭が今度は封魔の方を見た。
「駄目だ、外すな!封魔、私との約束を二度も破るつもりかっ?」
口調は変わらないものの、悲痛な響きのある声に花音は少し驚いて神蘭を見る。
いつも強気で男勝りな彼女が今は、少し泣き出しそうにも、必死さも感じられる表情で封魔を見ていた。
「さぁ、どうする?外さなければ、相手にならないぞ」
「それでも、駄……」
「……神蘭」
封魔が肩越しに振り返る。
「……悪いな。文句なら後で聞くから」
そう言いつつ、腕輪へと手を掛ける。
そして、外された腕輪が地に落ちた瞬間、封魔の力が闘牙の力と同じくらいまで跳ね上がった。
2
「……行くぞ」
短く言った封魔の姿が消え、それに反応した闘牙の姿も消える。
(や、やっぱり速すぎて、動きが見えない)
金属の擦れあう音、爆発音は聞こえるものの、どちらの姿も捉えることは出来ない。
これでは動きを封じられていなかったとしても、介入は出来なかっただろうと溜め息をついた時、千歳や昴、星華の驚く声がした。
「神蘭様!?」
「どうしたんですか?一体」
「無理ですよ!これ、そう簡単には外せません」
その声に神蘭の方を見れば、どうにか拘束を外そうとしてもがき、逆に拘束が強まっているのがわかった。
「神蘭さん!?」
「おい、どうしたんだ?」
花音と光輝の声にも反応しないでただ拘束を振り解こうとしている神蘭を見て、風夜が説明を求めるような視線を龍牙達に向ける。
だが、その三人が口を開くより前に、地面へと何かを叩きつけるような音が響く。
見ると、封魔が闘牙を地面に片手で押さえ付け、もう片方の手で剣を振り上げるところだった。
それを見て、決着がついたのかと安堵しかけたが、次の瞬間、闘牙の力が爆発的に跳ね上がり、上にいた封魔を吹き飛ばした。
「っ……!」
それでも空中で体勢を立て直した封魔がニヤリと笑う。
その笑い方は花音が知っている彼らしくはないもので、違和感を感じた時、神蘭の声が響いた。
「もうやめろ!それ以上はもう……」
それに続けて、鈴麗も叫ぶ。
「そうよ!後は、皆で……」
「……煩いな。拘束されて動けない奴等が何をするっていうんだ?足手纏いは黙ってろよ」
そう言い、神蘭達に冷たい視線を向ける封魔に、花音は光輝や風夜と顔を見合わせる。
何だか様子が可笑しいことに二人も困惑している様子だった。
「封魔、お前っ!」
「俺達は、お前の事を……!」
「煩い」
封魔の冷たい態度にか息をのんだ神蘭、鈴麗の代わりに声を上げた龍牙と白夜に封魔が手を向ける。
そこから放たれたエネルギーは、二人に当たりこそしなかったが、すれすれの地面を抉っていった。
「なっ……!?」
まさか攻撃しようとするとは思わなくて、花音は封魔を見る。
手を下ろした封魔は、攻撃したことを謝るわけでもなく、ただ冷たい視線を向けていたが、興味を無くしたかのように闘牙へと視線を戻した。
「封魔!」
「……しつこい。次は当てるぞ」
それでも声を上げた神蘭に再び視線を向け、口の端だけ上げ、目は笑っていない笑みを浮かべる。
「それとも、お前等が先に消えるか?」
「「「「「「「っ!!」」」」」」」
「それが嫌なら、黙ってな。……これからが楽しいところなんだからな」
そう言って、封魔は完全に神蘭達を無視するように闘牙へと向き直った。
3
「……んで、どうして?」
今のやり取りを呆然と見ていた花音の耳に、誰かの泣くのを堪えているような声が聞こえる。
それはいつもの彼女のものとは思えないもので、花音は気になり、視線を向ける。
「神蘭さん?」
顔を俯かせている為、彼女の表情は花音からはよく見えない。
だが、肩が僅かに震えていることから泣いているのかもしれないと思った時、彼女が顔を上げる。
その目には、やはり涙が堪えられていた。
「私は……、私達は!お前を失いたくないだけなのに、どうして、わかってくれないの!?」
悲痛な声を上げる神蘭に、封魔が視線を向けることはない。
(どうすればいいんだろう?)
それを見ながら、花音は思う。
神蘭が泣いているのも、龍牙達が止めようとしていたのも、封魔をここで失いたくないからだろう。
そして、封魔が自分の限界に構わず、抑えていた力を解放したのも仲間を失いたくなかったからのはずなのだ。
花音だって、これ以上は誰の犠牲も見たくないし、何よりこんな辛いすれ違いも見たくなかった。
それでも、この状況を変える方法も思い付かない。
その時、視界の端で風夜が溜め息をついたのがわかった。
「……仕方ないな」
そう呟いた風夜が目を閉じる。
かと思うと、彼の周りで風が渦を巻き、彼を拘束していた黒い触手を一気に消し飛ばす。
それだけでなく、彼の魔力が高まっていき、背に三対の翼が広がった後、開かれた目は紅くなっていた。
「……本当は手出しするつもりはなかったんだけどな」
その声は静かだったが、いつもより低く聞こえ、花音は内心首を傾げた。
(風夜……、もしかしなくても怒ってる?)
「おい、一体何するつもりなんだ?」
光輝も花音と同じ様に感じとったのか、少し顔を引きつらせながら問い掛ける。
「ん?言ってわからない奴には、……実力行使しかないだろ?」
言いつつ、風夜は封魔が外して投げ捨ててあった腕輪を拾い上げる。
それで気付いたらしい神蘭達も視線を向けてくる。
「……少し手荒になっても、構わないな」
風夜はそう言ったが、それに答えは求めてはいないようで、誰の答えも待たずにその場から姿を消した。
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