立ち塞がる壁
1
「なんか、様子がおかしいな」
同じように視線を移した風夜が呟く。
「うん。聖羅さんや、私達を助けようとしてた時には、邪魔してたみたいだけど、その後は特に何も……」
言いながらも視線は外さない。
何もしてこない、沈黙を保っている闇王のことが不気味で仕方がない。
そんなことを思っていると、それまで身動きしなかった闇王が動いた。
「ぬあああああ!」
いきなり叫び出した闇王の身体から、魔力が吹き出したかと思うと、その姿は突然消えた。
「「「!!」」」
次の瞬間、封魔達のすぐ傍に現れ、彼等三人を吹き飛ばす。
それを見て動こうとした花音達には、再び放出した魔力を今度は叩きつけるように当ててきた。
「っ……」
重苦しいその空気に、動きずらくなる。
その状態で闇牙の様子を伺うと、そこにあったのは何かを抑え込んでいるような無表情だった。
(何?一体何があったの?)
口も開かない異様な雰囲気に困惑する。
「……危険ね」
「えっ?」
神麗の声に視線を動かすと、彼女は険しい表情をしていた。
「何があったのかは知らないけど、力を上手く制御できていないだけなのか、限界以上の力を手にいれたせいで自我が壊れたのか、いずれにせよ、正気ではないわ」
「があああっ」
再び放出された魔力に、耐えていた風夜や紫狼も膝をつく。
風牙や夜天、沙羅、梨亜、夜月は、既に両膝をつき意識も朦朧としているようだった。
「何なんだ、あいつ?」
「なんかさっきから何も言わないし、表情も変わらないし……」
「恐いよ、兄様」
紅牙や蒼牙、風華が少し怯えたように黄牙や空夜の背へ隠れる。
「くそっ、神蘭達の後も追いかけないといけないっていうのに」
龍牙が呟くのを聞いて、花音は口を開く。
「あのっ!」
「言っとくが、この場を任せていったりはしないからな。あいつらが動けないなら、余計お前達だけでどうにかできるとは思えない」
白夜はそう言ったが、焦りを隠しきれていない。
その時、それまで黙っていた封魔が花音達の前に立つ。
彼は何故かはわからないが、左手につけている腕輪に触れていた。
「おいっ、まさか!」
「ちょっ、待てって!」
それを見て、理由はわからないが、龍牙と白夜が止めようとする。
それを不思議に思いながら見ていると、神麗が封魔を見据えて口を開いた。
「……いいの?」
「……ああ」
「……今の限度時間は?」
「ぎりぎり一時間位だ」
「そう……」
そこまで言って、神麗は不意にニコリと笑う。
「それなら、もしもの時には龍ちゃんと夜ちゃんに頑張ってもらうしかないわね」
「「は?」」
「……悪いな。もしもの時は、頼むよ」
そう言い腕輪を外した封魔が、それを放り投げる。
「っと、ったく……。ああなると、こっちの意見を聞きやしないんだからな」
その腕輪を受け止めた白夜が呟いた時、広がっていた魔力とは違う力が跳ね上がったような気がした。
そのことを感じ取ったのか、闇王の視線が封魔に向けられる。
かと思うと二人の姿が消え、その直後、二つの強大な力が正面からぶつかり合った。
2
「何だよ、今度は!?」
余波で起きた暴風に耐えながら、光輝が声を上げる。
その間にも、二人の攻防は続いていたが、今までよりも強い魔力を持っているだろう闇王に今の封魔は一人で対処出来ているようにも見える。
だから、今のうちに聞いておきたいことがあった。
「あのっ、それ何ですか?それを外したら、なんだか封魔さんの力が跳ね上がった気がしたけど?」
「これか?これは……」
「封ちゃんの力を制御してるのよ」
白夜を遮り、神麗が答える。
「制御?何の為に?」
放出される魔力が今は封魔に向けられ、楽になったのか、夜天が口を挟む。
「……ちょっと訳ありでな。あいつだけ、限界以上の力を無理矢理引き出されているんだよ」
「それって、あいつと同じ状態じゃないか」
雷牙が呟いたのに、白夜が頷く。
「そうだ。それも理性がなくなるところも一緒ってわけだ」
「まぁ、今は一時間は外していても大丈夫らしいけどな」
言った龍牙の目が鋭くなる。
「今回はギリギリ間に合うかどうかだな」
そう言ったのを聞いて、花音は二人の攻防を見る。
今の所は全くの互角のようで、確かに少し長引きそうだった。
ドガアアアン
物凄い音と共に、封魔と闇王が離れる。
「あと二十分か……」
「お前ら、動けるか?」
時間が迫ってきたところで、龍牙と白夜が確認してきて、花音達は頷く。
「五分前には、これをつけてしまいたい。時間を過ぎれば、それだけ負担が大きくなるからな」
「それに、理性が消えてからじゃ、一苦労だからな」
龍牙と白夜の話を聞きながら、花音は弓を握り締める。
封魔を元に戻せば、闇王の相手をしなければならなくなる。
だが、二人の攻防についていけないせいで、闇王がどれだけのダメージをうけているのかがわからない。
そんなことを考えていると、再び強大なエネルギーがぶつかり合って、花音は慌てて身を低くする。
どうやら今の爆発は、封魔と闇王がお互いを吹っ飛ばしていたらしく、地に落ちた背が滑っていくのがわかった。
「……時間だ」
龍牙が呟いたと同時に、白夜が姿を消す。
そのすぐ後、白夜が封魔の近くに現れ、腕輪をつけたのが見えた。
白夜に何か言った後、封魔がぐったりと彼に身体を預ける。
「心配ない。いつもあの状態の後は、酷く疲れるみたいだからな。……それよりも」
龍牙が言って、闇牙が落ちた辺りに視線を移す。
「そうだ。まだ」
闇王を倒したわけではないと、花音もまだ見えないその姿を探す。
すると、ゆっくりと身体を起こす姿が見えた。
その姿は封魔との攻防で酷く傷付き、力も先程に比べるとだいぶ消耗しているようだった。
「…………」
同時刻、暗い城の中で水晶で様子を見ている黒姫の姿があった。
水晶には力を使い果たした闇王が倒される様子が映っている。
「……闇王もやられたのね。折角私が力を上げたのに。まあ、仕方ないかしら。窮姫や闘牙と違って、今一あってなかったみたいだし」
そこまで言って、ある場所へと視線を動かす。
其処には、ぐったりとしたまま身動きしない聖羅の姿があった。
「……黒姫様」
その時、声を掛けられ、黒姫は視線を動かす。
そこには闘牙が跪いていた。
「……何かしら?」
「次は私にお任せいただけませんか?」
「いいわよ。いきなさい」
「…………」
許可したものの、動かない闘牙に訝しげな視線を向ける。
「闘牙?」
「黒姫様、もう一つお願いがございます」
そう言った闘牙の話を聞いた黒姫は、ニヤリと笑った。
3
封魔との戦いで消耗していた闇牙を倒した花音達は、そこで休息をとっていた。
「……成る程な。だから、その三人しかいなかった訳か」
聖羅が捕らわれ、神蘭達が追っていったのは風夜達が合流してくる前のことだった為、そのことを話すと、風夜が納得するように呟いた。
「……正直、今神蘭達の気配を追っても上手くいかない。だが、お前達なら心当たりがあるんじゃないのか?」
龍牙の言葉に風夜と紫狼が視線を交わす。
「知ってるんだな?」
その様子を見た白夜が言い、風夜は頷く。
「ああ。知っている。だが、そこは……」
「……俺達みたいな反勢力や普通の魔族は近付けない。黒姫やその側近、一部の許可された魔族しか近付くことを許されていない場所。俺達ですら、詳しい情報は持っていない」
風夜の後を引き継ぐように紫狼が、視線は外したままだったがそう答えた。
「じゃあ、聖羅さんはそこに連れていかれたんだね。じゃあ、そこに行けば」
「いや……」
否定の声を上げた紫狼に視線が集まる。
「言っただろう?情報がないって。確かに場所はある程度見当がついているが、行く方法がない」
「どういうこと?」
「奴等の城はまた違う空間にある。刹那の力を使えば可能だろうが、その空間の場所をはっきりと限定できなければ、無駄足になる確率の方が高い」
「確かに、これだけ多いと俺もそうそう飛ばせないしな」
「今の状態じゃ、下手には動けないってことね」
刹那本人の言葉に、琴音が溜息をつく。
「そうね。向こうの出方を待つしかないわ。焦ってもしかたないもの」
そう言って、神麗は封魔、龍牙、白夜に苦笑してみせた。
「なんか、様子がおかしいな」
同じように視線を移した風夜が呟く。
「うん。聖羅さんや、私達を助けようとしてた時には、邪魔してたみたいだけど、その後は特に何も……」
言いながらも視線は外さない。
何もしてこない、沈黙を保っている闇王のことが不気味で仕方がない。
そんなことを思っていると、それまで身動きしなかった闇王が動いた。
「ぬあああああ!」
いきなり叫び出した闇王の身体から、魔力が吹き出したかと思うと、その姿は突然消えた。
「「「!!」」」
次の瞬間、封魔達のすぐ傍に現れ、彼等三人を吹き飛ばす。
それを見て動こうとした花音達には、再び放出した魔力を今度は叩きつけるように当ててきた。
「っ……」
重苦しいその空気に、動きずらくなる。
その状態で闇牙の様子を伺うと、そこにあったのは何かを抑え込んでいるような無表情だった。
(何?一体何があったの?)
口も開かない異様な雰囲気に困惑する。
「……危険ね」
「えっ?」
神麗の声に視線を動かすと、彼女は険しい表情をしていた。
「何があったのかは知らないけど、力を上手く制御できていないだけなのか、限界以上の力を手にいれたせいで自我が壊れたのか、いずれにせよ、正気ではないわ」
「があああっ」
再び放出された魔力に、耐えていた風夜や紫狼も膝をつく。
風牙や夜天、沙羅、梨亜、夜月は、既に両膝をつき意識も朦朧としているようだった。
「何なんだ、あいつ?」
「なんかさっきから何も言わないし、表情も変わらないし……」
「恐いよ、兄様」
紅牙や蒼牙、風華が少し怯えたように黄牙や空夜の背へ隠れる。
「くそっ、神蘭達の後も追いかけないといけないっていうのに」
龍牙が呟くのを聞いて、花音は口を開く。
「あのっ!」
「言っとくが、この場を任せていったりはしないからな。あいつらが動けないなら、余計お前達だけでどうにかできるとは思えない」
白夜はそう言ったが、焦りを隠しきれていない。
その時、それまで黙っていた封魔が花音達の前に立つ。
彼は何故かはわからないが、左手につけている腕輪に触れていた。
「おいっ、まさか!」
「ちょっ、待てって!」
それを見て、理由はわからないが、龍牙と白夜が止めようとする。
それを不思議に思いながら見ていると、神麗が封魔を見据えて口を開いた。
「……いいの?」
「……ああ」
「……今の限度時間は?」
「ぎりぎり一時間位だ」
「そう……」
そこまで言って、神麗は不意にニコリと笑う。
「それなら、もしもの時には龍ちゃんと夜ちゃんに頑張ってもらうしかないわね」
「「は?」」
「……悪いな。もしもの時は、頼むよ」
そう言い腕輪を外した封魔が、それを放り投げる。
「っと、ったく……。ああなると、こっちの意見を聞きやしないんだからな」
その腕輪を受け止めた白夜が呟いた時、広がっていた魔力とは違う力が跳ね上がったような気がした。
そのことを感じ取ったのか、闇王の視線が封魔に向けられる。
かと思うと二人の姿が消え、その直後、二つの強大な力が正面からぶつかり合った。
2
「何だよ、今度は!?」
余波で起きた暴風に耐えながら、光輝が声を上げる。
その間にも、二人の攻防は続いていたが、今までよりも強い魔力を持っているだろう闇王に今の封魔は一人で対処出来ているようにも見える。
だから、今のうちに聞いておきたいことがあった。
「あのっ、それ何ですか?それを外したら、なんだか封魔さんの力が跳ね上がった気がしたけど?」
「これか?これは……」
「封ちゃんの力を制御してるのよ」
白夜を遮り、神麗が答える。
「制御?何の為に?」
放出される魔力が今は封魔に向けられ、楽になったのか、夜天が口を挟む。
「……ちょっと訳ありでな。あいつだけ、限界以上の力を無理矢理引き出されているんだよ」
「それって、あいつと同じ状態じゃないか」
雷牙が呟いたのに、白夜が頷く。
「そうだ。それも理性がなくなるところも一緒ってわけだ」
「まぁ、今は一時間は外していても大丈夫らしいけどな」
言った龍牙の目が鋭くなる。
「今回はギリギリ間に合うかどうかだな」
そう言ったのを聞いて、花音は二人の攻防を見る。
今の所は全くの互角のようで、確かに少し長引きそうだった。
ドガアアアン
物凄い音と共に、封魔と闇王が離れる。
「あと二十分か……」
「お前ら、動けるか?」
時間が迫ってきたところで、龍牙と白夜が確認してきて、花音達は頷く。
「五分前には、これをつけてしまいたい。時間を過ぎれば、それだけ負担が大きくなるからな」
「それに、理性が消えてからじゃ、一苦労だからな」
龍牙と白夜の話を聞きながら、花音は弓を握り締める。
封魔を元に戻せば、闇王の相手をしなければならなくなる。
だが、二人の攻防についていけないせいで、闇王がどれだけのダメージをうけているのかがわからない。
そんなことを考えていると、再び強大なエネルギーがぶつかり合って、花音は慌てて身を低くする。
どうやら今の爆発は、封魔と闇王がお互いを吹っ飛ばしていたらしく、地に落ちた背が滑っていくのがわかった。
「……時間だ」
龍牙が呟いたと同時に、白夜が姿を消す。
そのすぐ後、白夜が封魔の近くに現れ、腕輪をつけたのが見えた。
白夜に何か言った後、封魔がぐったりと彼に身体を預ける。
「心配ない。いつもあの状態の後は、酷く疲れるみたいだからな。……それよりも」
龍牙が言って、闇牙が落ちた辺りに視線を移す。
「そうだ。まだ」
闇王を倒したわけではないと、花音もまだ見えないその姿を探す。
すると、ゆっくりと身体を起こす姿が見えた。
その姿は封魔との攻防で酷く傷付き、力も先程に比べるとだいぶ消耗しているようだった。
「…………」
同時刻、暗い城の中で水晶で様子を見ている黒姫の姿があった。
水晶には力を使い果たした闇王が倒される様子が映っている。
「……闇王もやられたのね。折角私が力を上げたのに。まあ、仕方ないかしら。窮姫や闘牙と違って、今一あってなかったみたいだし」
そこまで言って、ある場所へと視線を動かす。
其処には、ぐったりとしたまま身動きしない聖羅の姿があった。
「……黒姫様」
その時、声を掛けられ、黒姫は視線を動かす。
そこには闘牙が跪いていた。
「……何かしら?」
「次は私にお任せいただけませんか?」
「いいわよ。いきなさい」
「…………」
許可したものの、動かない闘牙に訝しげな視線を向ける。
「闘牙?」
「黒姫様、もう一つお願いがございます」
そう言った闘牙の話を聞いた黒姫は、ニヤリと笑った。
3
封魔との戦いで消耗していた闇牙を倒した花音達は、そこで休息をとっていた。
「……成る程な。だから、その三人しかいなかった訳か」
聖羅が捕らわれ、神蘭達が追っていったのは風夜達が合流してくる前のことだった為、そのことを話すと、風夜が納得するように呟いた。
「……正直、今神蘭達の気配を追っても上手くいかない。だが、お前達なら心当たりがあるんじゃないのか?」
龍牙の言葉に風夜と紫狼が視線を交わす。
「知ってるんだな?」
その様子を見た白夜が言い、風夜は頷く。
「ああ。知っている。だが、そこは……」
「……俺達みたいな反勢力や普通の魔族は近付けない。黒姫やその側近、一部の許可された魔族しか近付くことを許されていない場所。俺達ですら、詳しい情報は持っていない」
風夜の後を引き継ぐように紫狼が、視線は外したままだったがそう答えた。
「じゃあ、聖羅さんはそこに連れていかれたんだね。じゃあ、そこに行けば」
「いや……」
否定の声を上げた紫狼に視線が集まる。
「言っただろう?情報がないって。確かに場所はある程度見当がついているが、行く方法がない」
「どういうこと?」
「奴等の城はまた違う空間にある。刹那の力を使えば可能だろうが、その空間の場所をはっきりと限定できなければ、無駄足になる確率の方が高い」
「確かに、これだけ多いと俺もそうそう飛ばせないしな」
「今の状態じゃ、下手には動けないってことね」
刹那本人の言葉に、琴音が溜息をつく。
「そうね。向こうの出方を待つしかないわ。焦ってもしかたないもの」
そう言って、神麗は封魔、龍牙、白夜に苦笑してみせた。