このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

立ち塞がる壁

1
『ひゃははは、気持ちいい、気持ちがいいぞ!』
嬉しそうな表情をしている顔が、捉えている花音達をニヤリと見る。
『成長したら、腹が減ってきたなぁ。……どいつからにしようか』
(そ、それってもしかしなくても……)
嫌な想像しか出来なくて、顔が青ざめるのがわかる。
「っ、黒姫、やめなさい!」
「あははは、やめろと言われてやめると思う?」
「っ、だったら!!」
言った聖羅の手に細身の剣が現れる。
「聖羅様!?」
「何を!?」
それに続いて声を上げる神蘭と鈴麗に構わず、聖羅が地を蹴る。
斬り掛かっていった彼女を黒姫が迎え撃ち、二人の攻防が始まるのを見て、神蘭達が動こうとする。
だが、そんな彼女達に向けて、巨大な魔力の弾が飛んできて、それを避けた神蘭達の前に闇王が現れ、足止めされてしまっていた。
「…………」
身動きのとれない状態のまま、近くでの二つの攻防を見守りながら、花音は必死で頭を働かせていた。
今は問題なさそうだが、今の状況では光輝以外の者がいつ人質になるかわからないのだ。
ただ一人自由の身である光輝は、紫狼に話し掛けて説得しているようだったが、紫狼には助ける気はないようだった。
(早く何とかしないと!)
そう思った時、黒姫がチラリと此方を見た。
と思うと、急に強い力で何処かへ引っ張られる。
(えっ……?)
その時、思わず瞑ってしまった目を次に開いた時には、目の前に細身の剣が迫ってきていた。
「くっ……」
息をのんだ花音の直前で、剣の持ち主だった聖羅が咄嗟に軌道を逸らす。
だが、それが隙をつくることになってしまい、聖羅は黒姫の放った魔力を受けてしまった。
「うああああっ!」
「聖羅様!」
それに気付いた神蘭が此方へ来ようとするが、やはり闇王に邪魔されてしまう。
その間にも攻撃を受けた聖羅は黒い球体の中に閉じ込められ、それを見て、黒姫はクスッと笑った。
「ふふ、これで目的の一つは果たせた」
そう言い、異空間のようなものを開いたかと思うと、そこに聖羅を閉じ込めた球体が吸い込まれていく。
それを花音は呆然と見ていたが、聞こえてきた爆音に視線を向けた。
「聖羅様!」
「どけっ!」
「どきなさい!」
立ち塞がる闇王を吹き飛ばした隙にその横を神蘭、鈴麗、総長、副総長、千歳、昴、星華がすり抜けて行く。
体勢を整えた闇王が邪魔しようとしたが、その前を封魔、龍牙、白夜が遮り、その隙に七人は閉じかけていた空間に飛び込んでいく。
「あらあら」
それを特に邪魔するわけでもなく見ていた黒姫は呟くと、すぐに表情を笑みへと変えた。
「余程、あの女が大事みたいね。でも、判断ミスよ」
「どういうことかしら?」
聞き返した神麗に、黒姫はふふっと笑う。
「言ったはずよ?あの女は目的の一つだって」
そう言い、黒姫が再び異空間を開く。
「あの女は邪魔だったけど、ちょっと興味深い報告を聞いてね」
言いつつ、指を鳴らす。
「わわっ!?」
それと同時に蔓から急に解放されたが、すぐに聖羅と同じように球体の中へと閉じ込められてしまった。
2
「姉上!」
「貴方もよ」
そう言って、黒姫は光輝のことも閉じ込める。
「花音!光輝!」
「ちょっと!二人をどうするつもりよ!」
「ふふ、言ったでしょ?興味深いことがあるから、確かめるのよ」
声を上げた刹那と琴音に黒姫はそう返す。
「それに、貴方達の状況も変わっていないのよ。人の心配より、自分達の心配をしたら?」
その言葉と共に新たに伸びた枝が鋭くなり、凍矢達の首に当てられる。
それを確認した後で、黒姫は封魔達を見た。
「これでわかったかしら?動けるのは貴方達だけ。まさか、貴方達だけで、パワーアップした闇王の相手をしながら、そこの動けない奴等を守り、この二人を助けられるとでも思ってるの?それにね……」
黒姫が言った時、異空間の中から何かがぞろぞろと飛び出してきた。
それらは魔族の軍のようで、あっという間に花音と光輝の閉じ込められている球体を取り囲んでしまった。
「こんな風に予想外のこともあるんだからね」
「くっ」
「ふふ、さてと私は先に戻るわ。その二人、ちゃんと連れてくるのよ」
黒姫は魔族達にそう言うと、姿を消す。
その直後、花音と光輝の閉じ込められた球体は、魔族達に運ばれ、異空間へと近づいていく。
(どうしよう、どうすれば……)
迫る異空間に焦りしかうまれない。
あの先に行ってしまえば、どうなっているのかわからない。
段々と遠ざかる地で、封魔が動こうとするのがわかったが、闇王に邪魔されているのが見える。
(何も思いつかない)
もう目前まで迫っている入口に、何も考えられなくなる。
その時、何処からか一直線に何かが伸びてきたかと思うと、近くにいた魔族達の身体を貫いていく。
そして、それは花音と光輝を閉じ込めていた球体も破壊した。
5/11ページ
スキ