立ち塞がる壁
1
ドオオン
「「!!」」
どのくらい時間が経ったのか、聞こえてきた爆発音に俯かせていた顔を上げる。
「まさか、もう……」
「いや、まだ早いはずだ」
神族が攻撃を開始したのかと声を上げた花音に、光輝がすぐ返してくる。
確かにまだ八時間は経っていない気がする。
「だったら、今のは」
「いたっ!花音ちゃん!」
その時、美咲の声がして、彼女を先頭に琴音、星夢、紫影、紫姫、影牙が牢の前に現れた。
「どうして、ここに?」
自分達が閉じ込められているのを知っているのは、紫狼とその部下数人の筈なのに現れた美咲達のことを不思議に思っていると、星夢がクスリと笑った。
「私の能力、忘れたの?」
言われて、彼女の能力を思い出し、納得した。
「でも、二人を見つけたのはいいけど、どうするの?」
「私達、鍵なんて持ってないよ」
琴音と美咲が口々に言う。
「それなら、問題ない」
言って、影牙が一歩前に出る。
「ちょっと待ってろ」
鍵穴に指を向けると、影が細い状態で鍵穴に入っていき、少しした後、カチッという音が聞こえてきた。
「よし、開いたぞ」
「すごい。簡単に開けちゃった」
「まぁ、私達にとっては造作もないことよ」
扉を開いた影牙に声を上げた美咲を見て、紫姫が得意気に笑う。
その時、此方へ近付いてくる足音が聞こえた。
足音は二つ。それに一瞬警戒したが、姿が見えた足音の主達にすぐに解く。
「凍矢くん!刹那くん!」
「二人共、無事だったか?」
花音と光輝の姿を見て、凍矢と刹那がホッと息をつく。
「それで、そっちは上手くいったのか?」
「ああ、無事に終わった」
「神族にも気付かれなかったみたいだしな」
「何の話だ?」
紫影、凍矢、刹那の話に、光輝が聞く。
「そういえば、二人は何してたの?」
「ああ。風夜達をここから逃がしてた。刹那の力でな」
「人数が人数だから、時間は掛かったけど、この街から遠く離れたところにいる」
「それじゃあ……」
花音が呟くと、刹那は頷く。
「今、この街にいるのは俺達と、ここを攻撃しようとしている神族達だけだ」
その言葉に光輝と顔を見合わせる。
そして、ほっとして気を抜いた時、神麗から渡されていたカプセルの入った瓶を落としてしまった。
「あれ?何か落としたよ」
気付いた美咲がそれを拾おうとする。
「いいよ。必要ないものだし」
「そもそも、それは風夜達に飲ませろって渡された毒薬だしな」
「えっ?」
光輝の言葉に、美咲は手を引っ込める。
「あんた達、一体何させられそうになってたのよ?」
「あ、あはは。そ、それより、雷牙くん達は?」
琴音に苦笑して、問い掛ける。
夜天は風夜達についていったのだろうが、雷牙達は神族から逃げる理由はない。
だから、ここにいないことも来る気配がないことも気になっていた。
「ああ。あいつらなら、向こうについていったぞ」
「向こうって、風夜達の方にか?」
聞き返した光輝に、紫影が頷く。
「今回のことで、向こうの考え方も分かれてるみたいでね。風夜様と夜天様のことが気になるみたいよ」
「そっか」
付け加えるように言った紫姫に、花音はそれだけ返した。
2
地下牢から地上へと続く階段を上ったところで、花音達は足を止める。
屋敷の中では、神族の兵士達が慌ただしく動いていて、風夜達のことを探しているようだった。
「おい、いたか?」
声がして、そこに封魔が現れる。
「駄目です。何処にも、一人の魔族も見当たりません」
「どういうことだ?こっちの計画が漏れたってことか」
そこまで呟いて、花音達の気配に気付いたのか、封魔の視線が向く。
その瞬間、彼が難しい表情をしたのがわかった。
「それで、お前達が情報を漏らしたわけではないと?」
紫狼の屋敷に集まってきた神界軍。その中心にいる総長が低い声で問いかけてきたのに、花音は頷く。
「……はい。紫狼さん達は、何が起きようとしているのか感ずいているようでした」
「本当に俺も姉上も何も言っていない。寧ろ、何も話さなかったことと、毒薬を持っていたことで神族の協力者だと思われて、地下牢に入れられたんだからな」
光輝が不機嫌そうに言う。
それを聞いた総長は、花音と光輝に疑うような視線を向けてきたが、嘘はついていないと判断したのか、今度は星夢と刹那を見た。
「それで、魔族達を逃がしたのはお前達だな。何処へやった?」
「さぁ、知らないわ。刹那に聞いて」
行き先については、何も知らないというようにあっさりと星夢が返す。
その言葉に花音達は刹那を見たが、視線を受けた彼は肩を竦めた。
「生憎、俺は魔界のことを知らないから、適当に飛ばしただけだ。何処に行ったかは知らないし、同じ場所へ飛ばせと言われても無理な話だ」
それを聞いて、総長や神蘭達が顔を顰める。
(まぁ、今のは嘘だよね)
刹那が本当のことをいっていないのは、花音でもわかった。
「……まぁ、いい」
暫く刹那を睨み付けていた総長が諦めたように言う。
「あなた!?」
「総長!?」
「あらっ?」
それに副総長と神蘭達は驚いたように、神麗は珍しいものを見たというような声を上げる。
それには構わず、総長は続けた。
「どうせ、この魔界の何処かにはいるのだ。魔族を根絶やしにすると決めた以上、一度逃げたところで結果は変わらん。……それより、そろそろ行くぞ。抜け殻の街に用はない」
そう返すと軍を動かす為にか、総長は副総長と共に屋敷を出て行ってしまった。
ドオオン
「「!!」」
どのくらい時間が経ったのか、聞こえてきた爆発音に俯かせていた顔を上げる。
「まさか、もう……」
「いや、まだ早いはずだ」
神族が攻撃を開始したのかと声を上げた花音に、光輝がすぐ返してくる。
確かにまだ八時間は経っていない気がする。
「だったら、今のは」
「いたっ!花音ちゃん!」
その時、美咲の声がして、彼女を先頭に琴音、星夢、紫影、紫姫、影牙が牢の前に現れた。
「どうして、ここに?」
自分達が閉じ込められているのを知っているのは、紫狼とその部下数人の筈なのに現れた美咲達のことを不思議に思っていると、星夢がクスリと笑った。
「私の能力、忘れたの?」
言われて、彼女の能力を思い出し、納得した。
「でも、二人を見つけたのはいいけど、どうするの?」
「私達、鍵なんて持ってないよ」
琴音と美咲が口々に言う。
「それなら、問題ない」
言って、影牙が一歩前に出る。
「ちょっと待ってろ」
鍵穴に指を向けると、影が細い状態で鍵穴に入っていき、少しした後、カチッという音が聞こえてきた。
「よし、開いたぞ」
「すごい。簡単に開けちゃった」
「まぁ、私達にとっては造作もないことよ」
扉を開いた影牙に声を上げた美咲を見て、紫姫が得意気に笑う。
その時、此方へ近付いてくる足音が聞こえた。
足音は二つ。それに一瞬警戒したが、姿が見えた足音の主達にすぐに解く。
「凍矢くん!刹那くん!」
「二人共、無事だったか?」
花音と光輝の姿を見て、凍矢と刹那がホッと息をつく。
「それで、そっちは上手くいったのか?」
「ああ、無事に終わった」
「神族にも気付かれなかったみたいだしな」
「何の話だ?」
紫影、凍矢、刹那の話に、光輝が聞く。
「そういえば、二人は何してたの?」
「ああ。風夜達をここから逃がしてた。刹那の力でな」
「人数が人数だから、時間は掛かったけど、この街から遠く離れたところにいる」
「それじゃあ……」
花音が呟くと、刹那は頷く。
「今、この街にいるのは俺達と、ここを攻撃しようとしている神族達だけだ」
その言葉に光輝と顔を見合わせる。
そして、ほっとして気を抜いた時、神麗から渡されていたカプセルの入った瓶を落としてしまった。
「あれ?何か落としたよ」
気付いた美咲がそれを拾おうとする。
「いいよ。必要ないものだし」
「そもそも、それは風夜達に飲ませろって渡された毒薬だしな」
「えっ?」
光輝の言葉に、美咲は手を引っ込める。
「あんた達、一体何させられそうになってたのよ?」
「あ、あはは。そ、それより、雷牙くん達は?」
琴音に苦笑して、問い掛ける。
夜天は風夜達についていったのだろうが、雷牙達は神族から逃げる理由はない。
だから、ここにいないことも来る気配がないことも気になっていた。
「ああ。あいつらなら、向こうについていったぞ」
「向こうって、風夜達の方にか?」
聞き返した光輝に、紫影が頷く。
「今回のことで、向こうの考え方も分かれてるみたいでね。風夜様と夜天様のことが気になるみたいよ」
「そっか」
付け加えるように言った紫姫に、花音はそれだけ返した。
2
地下牢から地上へと続く階段を上ったところで、花音達は足を止める。
屋敷の中では、神族の兵士達が慌ただしく動いていて、風夜達のことを探しているようだった。
「おい、いたか?」
声がして、そこに封魔が現れる。
「駄目です。何処にも、一人の魔族も見当たりません」
「どういうことだ?こっちの計画が漏れたってことか」
そこまで呟いて、花音達の気配に気付いたのか、封魔の視線が向く。
その瞬間、彼が難しい表情をしたのがわかった。
「それで、お前達が情報を漏らしたわけではないと?」
紫狼の屋敷に集まってきた神界軍。その中心にいる総長が低い声で問いかけてきたのに、花音は頷く。
「……はい。紫狼さん達は、何が起きようとしているのか感ずいているようでした」
「本当に俺も姉上も何も言っていない。寧ろ、何も話さなかったことと、毒薬を持っていたことで神族の協力者だと思われて、地下牢に入れられたんだからな」
光輝が不機嫌そうに言う。
それを聞いた総長は、花音と光輝に疑うような視線を向けてきたが、嘘はついていないと判断したのか、今度は星夢と刹那を見た。
「それで、魔族達を逃がしたのはお前達だな。何処へやった?」
「さぁ、知らないわ。刹那に聞いて」
行き先については、何も知らないというようにあっさりと星夢が返す。
その言葉に花音達は刹那を見たが、視線を受けた彼は肩を竦めた。
「生憎、俺は魔界のことを知らないから、適当に飛ばしただけだ。何処に行ったかは知らないし、同じ場所へ飛ばせと言われても無理な話だ」
それを聞いて、総長や神蘭達が顔を顰める。
(まぁ、今のは嘘だよね)
刹那が本当のことをいっていないのは、花音でもわかった。
「……まぁ、いい」
暫く刹那を睨み付けていた総長が諦めたように言う。
「あなた!?」
「総長!?」
「あらっ?」
それに副総長と神蘭達は驚いたように、神麗は珍しいものを見たというような声を上げる。
それには構わず、総長は続けた。
「どうせ、この魔界の何処かにはいるのだ。魔族を根絶やしにすると決めた以上、一度逃げたところで結果は変わらん。……それより、そろそろ行くぞ。抜け殻の街に用はない」
そう返すと軍を動かす為にか、総長は副総長と共に屋敷を出て行ってしまった。