魔界のレジスタンス
1
「何?二人だけで、何するつもり?」
「これ以上、夜天くんは傷付けさせない」
「俺の親友は返してもらう」
「ふふ、あははははっ」
花音と光輝の言葉を聞いて、黒蘭が笑い始める。
「だから、何?二人で私が倒せるとでも?無理に決まってるでしょ。折角、そいつが救った命を無駄にしない方がいいと思うけど?」
その言葉にちらりと背後の夜天を見る。
今は意識を失っている傷だらけの姿に胸が痛む。
黒蘭に視線を戻すと、もう怒りしか湧いてこなかった。
「……貴方は、夜天くんを許さないって言ってたよね?」
「ええ、そいつのせいで作戦は失敗。このままだと、黒姫様の信頼も失ってしまう可能性があるの。だから、せめてそいつは殺していくわ」
「……そう」
黒蘭を見据えて、弓を構える。花音の横でも、光輝が剣を構えた。
「本当にやるつもりなのね?だったら、少し遊んであげ……、ぐっ!」
言葉を遮るように花音は矢を放つ。
それは黒蘭の肩を深く傷付け、彼女は目を見開いていた。
「私も、私達も許さないよ。夜天君達を操ったことも」
「俺の親友をここまで傷付けたことも」
「「絶対に許さない!」」
花音と光輝の声が重なった時、光輝の持っていた光の宝珠が強い光を放ち始める。
宝珠は光輝だけでなく、花音の気持ちにも反応しているかのように、強さも大きさも増していく。
その光は、今まで見たことのないくらいだった。
2
パタンッ
「「!!」」
ドアが開く音に花音と光輝が顔を上げると、美咲と星華が出て来たところだった。
「夜天くんは?」
「怪我の手当ては終わってます。後は、意識が戻れば問題ないかと」
「大丈夫。ゆっくり休んでいれば、すぐに気が付くよ。他の四人もね」
優しく笑みを浮かべて言った美咲と星華に、ほっと息をつく。
怪我をしている夜天以外にも、操られていた四人も今は意識がなかったが、それを聞いて安心した。
「それにしても、まさか二人で黒蘭を倒してしまうなんて」
「切れた時に恐ろしいのは、風夜だけかと思ってたけど」
「ここにもいたみたいだな」
夜天の様子を見に来た雷牙、火焔、大樹に言われて、花音は苦笑する。
「あはは、正直言うとどうやったのか、全然覚えてないんだよね」
「覚えてないの?本当に?」
目を丸くする水蓮に頷く。
「うん。夜天君を庇ったところまでは覚えてるんだけど、その後は……」
「気が付いた時には、ベッドの上だったしな」
花音と光輝が言うと、雷牙達は顔を見合わせていた。
「お前等の所に行ったのは、風夜と神蘭、神麗、朔耶だったけど、あいつらが行った時には終わってたらしいぞ」
「終わってた?」
「ああ、ちょうど黒蘭が消えるところで、風夜達を見たかと思ったら二人揃って倒れたって」
「……覚えてないや」
雷牙と火焔に聞いて思い返してみたが、風夜達が来た記憶はない。
「つまり、その時にはもう記憶がなかった訳ね」
「……そうだ!宝珠は?」
そこで光輝が思い出したように声を上げ、花音も思い出す。
「ああ、それなら神麗が持ってるよ」
「神麗さんが?」
大樹に言われて、花音は不思議そうに首を傾げる。
「どうして、神麗さんが?」
「それは行ってみれば、わかるよ」
「夜天もまだ気が付かないだろうし、今行ってきたらどうだ?」
「そうね。話もあるみたいだし、行ってきたら?」
大樹、雷牙、水蓮に口々に言われ、光輝と顔を見合わせる。
「驚くなよ?」
行こうとしたところで、火焔にそう言われたが、何のことかさっぱりわからなかった。
3
「どうぞ」
光輝と一緒に神麗の部屋に来ると、彼女は待っていたように直ぐに中に入れてくれた。
「あの宝珠は?」
「そこにあるわ」
そう言って、神麗が机を指す。
だが、そこには白っぽい欠片と黒っぽい欠片があるだけだった。
「えっと?」
「……まさか、これが宝珠だとかいうんじゃないだろうな」
「そのまさかよ」
顔を引きつらせた光輝に、神麗が言う。その表情は、真剣なものだった。
「これから話すことは、とても大切なことだからよく聞いて」
その言葉に頷く。
「前に、光の一族と闇の一族は神族と魔族からつくられたという話はしたわよね?」
「はい」
「その二つの種族は、他の一族と比べると歴史が浅い。そして、他の一族のように代々受け継がれていくような宝珠はなかった」
「えっ?じゃあ、今まで使っていたのは?」
「他の一族の物を真似て、後から造ったもの。自分達の強すぎる力を封じたものよ」
そう言い、神麗は壊れた宝珠の欠片を見た。
「でも、今回のことで力を封じていた宝珠は壊れ、中にあった力は貴女達のものになった。つまり」
「つまり?」
「今の貴女達三人は、少し前の風夜と同じ状態ってこと。彼と違って、別人格がいる訳でないけど、その力をそのままにしておけば、きっと貴女達は光の一族や闇の一族ではなく、神族、魔族に戻ってしまうでしょうね」
「じゃあ、どうすれば?」
「……方法がないわけじゃないわ。ただ、神界へ戻る必要があるけど」
言われて、花音は光輝と顔を見合わせる。
「でも、直ぐに変化が起きるわけじゃないわ。風夜みたいな急激な変化はないだろうから、ゆっくり考えて」
そう言われ、今の話は夜天にもした方がいいだろうと彼の所へ戻ることにした。
神麗との話を終え、夜天が寝かされている部屋まで戻ってくると、中から話し声が聞こえてきた。
その一つが夜天の声だと気付き、彼の意識が戻ったことに安堵しながら扉を開く。
神麗の所へ行っている間に、火焔達はいなくなり、今は風夜の姿だけあった。
「夜天くん!」
「夜天!」
風夜と話していた夜天に駆け寄る。
美咲と星華のおかげか、傷は殆ど消えていて、眠っていたからか思っていたよりは元気そうに見えた。
「というわけだ。だから、もう少し休んでろ」
ベッドの上で身体を起こしている夜天にそう言って、花音達と入れ替わるように風夜が出て行く。
「何?何の話?」
「ああ。俺達がこっちに来てから、また神界が攻撃されたらしい。それで、神蘭達の所に連絡が来たんだとさ。早く壊せってな」
「まあ、それが本来の目的だったんだよな」
光輝が溜め息混じりに言う。
「でも、黒蘭のせいで……」
夜天、風牙、沙羅、梨亜、夜月は本調子ではない筈だった。
4
「……黒蘭もやられたようね」
水晶に映っている花音達の様子を見ながら、黒姫が言う。
「全くここは魔界で、我等の方が有利の筈、それなのに二人続けてやられるとは」
「同じ五将軍として、情けないわね」
「…………」
闘牙、窮姫が口々に言う中、闇王が無言で立ち去ろうとする。
「何処へ行くの?」
それに気付いた窮姫が聞く。
「そろそろ奴等も動く。となれば、真っ先に狙ってくるものはわかる」
そう答えた闇王に、黒姫はクスリと笑った。
「そうね。あれをまだ失う訳にはいかないわ。……窮姫、闘牙、あなた達も行きなさい。そして、奴等を迎え撃ちなさい」
「「「はっ!」」」
黒姫の言葉に、窮姫、闘牙、闇王は膝をつくと、姿を消した。
「何?二人だけで、何するつもり?」
「これ以上、夜天くんは傷付けさせない」
「俺の親友は返してもらう」
「ふふ、あははははっ」
花音と光輝の言葉を聞いて、黒蘭が笑い始める。
「だから、何?二人で私が倒せるとでも?無理に決まってるでしょ。折角、そいつが救った命を無駄にしない方がいいと思うけど?」
その言葉にちらりと背後の夜天を見る。
今は意識を失っている傷だらけの姿に胸が痛む。
黒蘭に視線を戻すと、もう怒りしか湧いてこなかった。
「……貴方は、夜天くんを許さないって言ってたよね?」
「ええ、そいつのせいで作戦は失敗。このままだと、黒姫様の信頼も失ってしまう可能性があるの。だから、せめてそいつは殺していくわ」
「……そう」
黒蘭を見据えて、弓を構える。花音の横でも、光輝が剣を構えた。
「本当にやるつもりなのね?だったら、少し遊んであげ……、ぐっ!」
言葉を遮るように花音は矢を放つ。
それは黒蘭の肩を深く傷付け、彼女は目を見開いていた。
「私も、私達も許さないよ。夜天君達を操ったことも」
「俺の親友をここまで傷付けたことも」
「「絶対に許さない!」」
花音と光輝の声が重なった時、光輝の持っていた光の宝珠が強い光を放ち始める。
宝珠は光輝だけでなく、花音の気持ちにも反応しているかのように、強さも大きさも増していく。
その光は、今まで見たことのないくらいだった。
2
パタンッ
「「!!」」
ドアが開く音に花音と光輝が顔を上げると、美咲と星華が出て来たところだった。
「夜天くんは?」
「怪我の手当ては終わってます。後は、意識が戻れば問題ないかと」
「大丈夫。ゆっくり休んでいれば、すぐに気が付くよ。他の四人もね」
優しく笑みを浮かべて言った美咲と星華に、ほっと息をつく。
怪我をしている夜天以外にも、操られていた四人も今は意識がなかったが、それを聞いて安心した。
「それにしても、まさか二人で黒蘭を倒してしまうなんて」
「切れた時に恐ろしいのは、風夜だけかと思ってたけど」
「ここにもいたみたいだな」
夜天の様子を見に来た雷牙、火焔、大樹に言われて、花音は苦笑する。
「あはは、正直言うとどうやったのか、全然覚えてないんだよね」
「覚えてないの?本当に?」
目を丸くする水蓮に頷く。
「うん。夜天君を庇ったところまでは覚えてるんだけど、その後は……」
「気が付いた時には、ベッドの上だったしな」
花音と光輝が言うと、雷牙達は顔を見合わせていた。
「お前等の所に行ったのは、風夜と神蘭、神麗、朔耶だったけど、あいつらが行った時には終わってたらしいぞ」
「終わってた?」
「ああ、ちょうど黒蘭が消えるところで、風夜達を見たかと思ったら二人揃って倒れたって」
「……覚えてないや」
雷牙と火焔に聞いて思い返してみたが、風夜達が来た記憶はない。
「つまり、その時にはもう記憶がなかった訳ね」
「……そうだ!宝珠は?」
そこで光輝が思い出したように声を上げ、花音も思い出す。
「ああ、それなら神麗が持ってるよ」
「神麗さんが?」
大樹に言われて、花音は不思議そうに首を傾げる。
「どうして、神麗さんが?」
「それは行ってみれば、わかるよ」
「夜天もまだ気が付かないだろうし、今行ってきたらどうだ?」
「そうね。話もあるみたいだし、行ってきたら?」
大樹、雷牙、水蓮に口々に言われ、光輝と顔を見合わせる。
「驚くなよ?」
行こうとしたところで、火焔にそう言われたが、何のことかさっぱりわからなかった。
3
「どうぞ」
光輝と一緒に神麗の部屋に来ると、彼女は待っていたように直ぐに中に入れてくれた。
「あの宝珠は?」
「そこにあるわ」
そう言って、神麗が机を指す。
だが、そこには白っぽい欠片と黒っぽい欠片があるだけだった。
「えっと?」
「……まさか、これが宝珠だとかいうんじゃないだろうな」
「そのまさかよ」
顔を引きつらせた光輝に、神麗が言う。その表情は、真剣なものだった。
「これから話すことは、とても大切なことだからよく聞いて」
その言葉に頷く。
「前に、光の一族と闇の一族は神族と魔族からつくられたという話はしたわよね?」
「はい」
「その二つの種族は、他の一族と比べると歴史が浅い。そして、他の一族のように代々受け継がれていくような宝珠はなかった」
「えっ?じゃあ、今まで使っていたのは?」
「他の一族の物を真似て、後から造ったもの。自分達の強すぎる力を封じたものよ」
そう言い、神麗は壊れた宝珠の欠片を見た。
「でも、今回のことで力を封じていた宝珠は壊れ、中にあった力は貴女達のものになった。つまり」
「つまり?」
「今の貴女達三人は、少し前の風夜と同じ状態ってこと。彼と違って、別人格がいる訳でないけど、その力をそのままにしておけば、きっと貴女達は光の一族や闇の一族ではなく、神族、魔族に戻ってしまうでしょうね」
「じゃあ、どうすれば?」
「……方法がないわけじゃないわ。ただ、神界へ戻る必要があるけど」
言われて、花音は光輝と顔を見合わせる。
「でも、直ぐに変化が起きるわけじゃないわ。風夜みたいな急激な変化はないだろうから、ゆっくり考えて」
そう言われ、今の話は夜天にもした方がいいだろうと彼の所へ戻ることにした。
神麗との話を終え、夜天が寝かされている部屋まで戻ってくると、中から話し声が聞こえてきた。
その一つが夜天の声だと気付き、彼の意識が戻ったことに安堵しながら扉を開く。
神麗の所へ行っている間に、火焔達はいなくなり、今は風夜の姿だけあった。
「夜天くん!」
「夜天!」
風夜と話していた夜天に駆け寄る。
美咲と星華のおかげか、傷は殆ど消えていて、眠っていたからか思っていたよりは元気そうに見えた。
「というわけだ。だから、もう少し休んでろ」
ベッドの上で身体を起こしている夜天にそう言って、花音達と入れ替わるように風夜が出て行く。
「何?何の話?」
「ああ。俺達がこっちに来てから、また神界が攻撃されたらしい。それで、神蘭達の所に連絡が来たんだとさ。早く壊せってな」
「まあ、それが本来の目的だったんだよな」
光輝が溜め息混じりに言う。
「でも、黒蘭のせいで……」
夜天、風牙、沙羅、梨亜、夜月は本調子ではない筈だった。
4
「……黒蘭もやられたようね」
水晶に映っている花音達の様子を見ながら、黒姫が言う。
「全くここは魔界で、我等の方が有利の筈、それなのに二人続けてやられるとは」
「同じ五将軍として、情けないわね」
「…………」
闘牙、窮姫が口々に言う中、闇王が無言で立ち去ろうとする。
「何処へ行くの?」
それに気付いた窮姫が聞く。
「そろそろ奴等も動く。となれば、真っ先に狙ってくるものはわかる」
そう答えた闇王に、黒姫はクスリと笑った。
「そうね。あれをまだ失う訳にはいかないわ。……窮姫、闘牙、あなた達も行きなさい。そして、奴等を迎え撃ちなさい」
「「「はっ!」」」
黒姫の言葉に、窮姫、闘牙、闇王は膝をつくと、姿を消した。