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魔界のレジスタンス

1
日が落ち、花音達が寝静まった頃、街の外には黒蘭の姿があった。
彼女は岩に座り、水晶を見ている。
そこには眠ってはいるものの、魘されている様子の風牙、夜天、沙羅、梨亜、夜月が順に映っていた。
「ふふふ、そろそろ頃合いかしら?」
楽しそうに呟いて、黒蘭は立ち上がる。
「さぁ、始めましょうか。……少しは楽しませてもらわないとね」
呟いた黒蘭の持っている水晶には、目を覚ました沙羅が映っていた。


「…………」
「ピ、ピイィ」
眠っていた花音は、白亜の声に目を覚ました。
「……ん……、どうしたの?白亜」
「ピイ、ピイィ」
鳴きながら、ドアの方を見る。そのドアの向こうから人の気配を感じた。
(誰だろ?)
疑問に思いながらも、花音はドアを開ける。
それとほぼ同時に、誰かにのし掛かられるように押し倒される。
「っ……」
そのまま首を絞められ、呼吸が出来なくなる。
「沙羅、さ……」
薄れそうな意識の中で見えたのは、光を失った目をしている沙羅だった。
(どうして?)
「ピイィ!ピイイイ!」
沙羅と入れ代わるように廊下へと出たのだろう白亜の騒ぐ声が聞こえてくる。
「…………だよ。こんな時間に……」
騒ぐ白亜に目が覚めたのか、誰かの声がする。
「っ……」
それが聞こえたのか、沙羅の手が花音の首から手が離れたかと思うと、窓の方へ駆け、出ていってしまう。
その直後、白亜に引っ張られるようにして、花音の部屋へ入ってきたのは、花音のすぐ前の部屋を与えられていた凍矢だった。
「……何があった?」
身体は起こしたものの、床に座って息を整えている花音と不自然に開いている窓を見て、問い掛けてくる。
「大……、丈夫……。何でもないよ」
「何でもないって……、だったら、その首はどうしたんだ?」
「えっ?」
「絞められたような跡があるぞ」
その言葉に慌てて首を隠す。
「ほ、本当に何でもないよ。ごめんね、起こして」
「……まぁ、いい」
言いつつ、窓の方へ歩いていった凍矢は、外を確認した後、そこを閉めて戻ってくる。
「夜中だしな。話は朝になってから、ゆっくり……」
「ドガアアア」
その時、建物の中に大きな音が響き渡った。
2
「今度は何だ!?」
花音の部屋を飛び出した凍矢を追い掛け、花音も廊下へと出る。
すると、一つの部屋の扉が外れて、廊下に倒れているのが見えた。
(あの部屋って、聖羅さんの……)
思いつつ、その部屋へ行き中を覗きこむと、そこには聖羅だけでなく神蘭と鈴麗の姿もあった。
気配を感じたからか、三人が殺気を飛ばしてきて、肩をびくつかせる。
「……何だ。お前達か」
「ごめんなさいね。殺気飛ばしたりして」
「それより、何してんだ?壁に大穴開けて……」
花音達と気づき、殺気をおさめた神蘭達に、凍矢が聞く。
彼が見ている先には壁があるはずだったが、その壁には大きな穴が開いていた。
「「「聖羅様!」」」
その時、足音がして、封魔、龍牙、白夜が飛び込んでくる。
その後からも、異変に気付いたらしい仲間達が顔を出したが、その中に花音を襲ってきた沙羅の姿はない。
いないのは彼女だけでなく、風牙、夜天、梨亜、夜月の姿も見えない。そして光輝の姿も。
それに嫌な予感がした時、聖羅が風夜と紫狼を睨み付けた。
「……一体、どういうつもり?」
「何のことだ?」
「惚けないで!味方だと思わせておいて、奇襲だなんて」
「おいおい、俺達は何もしてないし、させてないぞ」
紫狼がそう言い、肩を竦める。
「だったら、何故、風牙、梨亜、夜月が襲ってきたの?!上位魔族である貴方達が命じたんじゃないの!?」
「だから違う。何をしたいのかは、術を掛けてる奴に聞けよ」
その紫狼の言葉に、聖羅の目がきつくなったのがわかった。
「……そういえば、花音。お前の所に行ったのは誰なんだ?三人の内の誰かか?」
今なら誤魔化せないと思ったのか、凍矢が聞いてくる。
「えっ?」
「ちょっと、花音も何かあったの?」
「う、うん」
視線が集中して、誤魔化しは効かないと思い頷く。
「でも、風牙でも梨亜ちゃんでも夜月くんでもないよ。私のところへ来たのは、……沙羅さんだった」
「沙羅が!?何で?」
信じられないというように、瑠璃が声を上げる。
それに朔耶と神麗が目を見開いていた。
「……恐らく、今の奴等は正気じゃない。操られてるんだろう」
「お前達は大丈夫なのか?」
風夜の言葉に、刹那が彼と朔耶、黄牙、紫狼を見る。
「黄牙は神族の血が入っているし、朔耶は元から少し異なる。だから、術の影響力がないんだ。俺達が平気なのは、術者と同等以上の力を持っている者にも効かない術なんだろう」
「ん?待てよ」
そこで雷牙が口を開いた。
「確か、あいつら、ここ数日具合悪そうだったよな」
「まあ、抵抗していたんだろうな」
「だったら、夜天は?あいつも様子がおかしかったぞ」
それに神麗がはっとしたような表情をした。
「そうだった。彼は……」
「夜天がどうかしたのか?」
大樹が問い掛ける。
「彼も、いえ彼が一番影響を受けているはずよ」
「夜天お兄ちゃんが!?」
風華が首を傾げる。
「ちょっと待って!どうして、夜天が一番影響を受けるの?」
「それは……」
「夜天の一族、闇の一族は元魔族。つまり、術の対象って訳だ」
水蓮に答えようとした花音を遮るように、風夜が言う。
「じゃあ、他の四人と同じように……」
美咲が呟いたのを聞き、花音はもう一度今いる仲間達を見回す。
術中にいるのだろう五人の他にいない者が一人いた。
(まさかっ!?)
花音の脳裏に友人だったにも関わらず、悲劇としか思えない結末を迎えた神族と魔族の少年の姿が浮かぶ。
「っ!」
その少年達に光輝と夜天の姿が重なり、花音は部屋を飛び出すと、光輝の部屋へ向かい、ノックもしないで中へと飛び込んだ。
3
「あ、姉上?」
勢いよく飛び込んだ花音に、中にいた光輝が驚く。
彼は今まで寝ていたのか、ベッドの上で身を起こしていた。
それを見て彼が無事で安心する一方で、違和感を覚える。
「光輝、今まで寝てたの?」
「あ、ああ」
(どういうこと?だって、皆、聖羅さんの部屋の爆発で気が付いたはず。なのに、どうして光輝だけ)
そもそも聖羅の所に来る時、数人は光輝の部屋の前を通ったはずなのだ。
その気配に少しも気付かなかったとは思えなかった。
「何かあったのか?」
様子がおかしいことに気付いたのか、光輝が聞いてきたが、過ぎたことだと首を振る。
「ううん、何でもないよ。それより、夜天くんは?」
「夜天?こんな時間なんだから、部屋で休んでるだろ?」
「来てないんだね」
「ああ」
再度確認し、息をはいた花音を光輝が不思議そうに見てくる。
(……よかった)
「あら?安心するのは早いわよ」
光輝と夜天が接触していないことに安心した時、そう声が聞こえた。
「「!!」」
「ふふふ」
声のした方を見ると、窓の外に楽しそうに笑う黒蘭の姿があった。
「お楽しみはこれからよ?」
「!!……姉上!」
黒蘭が言ったかと思うと、花音は光輝に床へ伏せられた。
一瞬遅れて、外から部屋の扉が吹き飛ばされる。
そこには夜天が立っていたが、彼は抜き身の刀を手にしたまま、光のない目で二人を見ていた。
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