魔界のレジスタンス
1
「っ……、お前、向こうに行ってたんじゃなかったのか?」
体勢を立て直した牙王が風夜に向かって言う。
「ああ。……だが、どうも嫌な予感がしたんでな。戻ってきたんだよ」
そう返しつつ、風夜は神蘭達より前に着地する。かと思うと、近くにいた神蘭達を花音達の方へ吹っ飛ばしてきた。
「えっ?えええっ!?」
「おい、何してんだよ!?」
思いもしていなかった風夜の行動に花音と光輝は声を上げる。
だが、風夜はそれに何も言わず、花音達の方へ手を翳す。
それと同時に、花音達はドーム状の膜の中へ閉じ込められた。
「あなたっ!一体何のつもり!?」
それを見て、聖羅が声を上げる。
「その中にいれば、お前達に危険はない」
言って風夜は牙王へ向き直る。
「ここからは、俺が相手になってやるよ」
「……神族を庇って、同族の我らと敵対するつもりか?それも、つい最近魔族として誕生したばかりの若輩者が!」
その言葉に、風夜は「ふっ」と笑った。
「お前達の関係がどんなものであろうと、俺には関係ないし、興味もない。だが、俺はお前達のやり方が気に入らない。……それ以上に……」
地を蹴った風夜が一瞬で牙王との距離を詰め、すり抜けるように背後へ移動する。
「俺の大切なものを平気で傷付けるお前達を、許すつもりはない」
「うがあああ!!」
風夜の言葉と同時に、牙王の左翼が切り落とされ、地へ落ちた。
「貴様っ……」
片翼を失って、牙王の目付きが変わる。
「もう、許さんぞ!この、裏切り者があぁ!」
叫んだ牙王の姿が消え、風夜のすぐ傍に現れる。
「危なっ……」
それに花音は声を上げかけたが、次の瞬間、吹っ飛んだのは牙王の方だった。
「ぐっ、何故だ?この魔界で、俺が負けるはずは……」
吹っ飛び地へ落ちた牙王とは違い、その場から然程動いていない風夜を牙王が睨む。
「……神族は神界、魔族は魔界。それぞれの地でなら、他の地よりも強い力を使え、逆の世界へ行けば力が抑制される。まあ、お前らは汚い手を使って、神界でも関係なかったみたいだけどな。だが」
そんな牙王に構わず、風夜は近付いていく。
「……俺も魔族になった以上、お前らと俺の条件は同じ」
風夜の背に黒い翼が三対現れ、それを見ると牙王の表情が青ざめた気がした。
「……っ」
近付いていく風夜に、牙王の表情がひきつっていく。
恐怖を感じているようにも見える彼に、風夜の手が向けられる。
「…………終わりだ」
短く呟いたかと思うと、その手から大量の魔力が放たれ、牙王の身体を飲み込む。
それはあっという間の出来事で、牙王は声を上げることも許されずに消えていった。
2
「なんか、あいつ、人変わってないか?」
牙王が消えるのを見ながら、光輝が呟くのが聞こえてくる。
その直後、振り返ってきた風夜が、花音達の方を見て、眉を少ししかめる。
「……何だよ?」
その視線を向けているのは神蘭達のようで、彼女達は何処か複雑そうな表情をしている。
「……どうやら、今回はここまでみたいだな」
「わわっ!?」
「うわっ!?」
張り詰めたようにも感じる空気をどうしようかと思っていると、すぐ近くで声がして、花音と光輝は飛び退く。
そこにはいつ来たのか、風牙の姿があった。
「そっちは、どうなった?」
神蘭達から視線を外した風夜が問い掛ける。
「ああ。お前が五将軍の一人を倒したことで、引き上げた。他の奴等も、此方へ戻ってきているところだ」
「そうか」
「……にしても、随分派手にやったな。これじゃ、俺のこと言えないぜ」
牙王を吹っ飛ばした辺りの地面が大きく抉れているのを見ながら、風牙はニヤリと笑う。
「……まぁ、少しやり過ぎたのは否定しないさ」
そう返すと、風夜は溜め息をついた。
襲撃の為、街へ出ていた夜天達が戻ってきた後、花音は部屋で休息をとっていた。
(それにしても……)
牙王の襲撃の時を思い出す。
あの時、風夜が戻ってきてくれなければ、自分達は、ただでは済まなかっただろう。
だが、それと同時に風夜の存在を少し遠く感じてもいた。
その時、ドアを叩く音がして、神麗が入ってくる。
「今日は朝から大変だったわね」
「……そうですね」
「蘭ちゃん達も、慣れない内にああいうことになって参っていたみたいだし、……戻ってきてくれた彼に感謝しないとね」
神麗が言い、クスリと笑う。
それを見ながら、聞きたいことがあって、花音は口を開いた。
「でも、大丈夫なんですか?風夜は助けてくれたけど、その前に神蘭さん達のこと、思いっきり吹っ飛ばしてたから」
「それなら大丈夫よ。というより、あれでよかったの」
「えっ?」
笑いながら言う神麗に、花音は不思議そうに彼女を見る。
「だって、蘭ちゃん達は下がれといわれて、素直に下がる子達じゃないもの。だから彼も、強制的に下がらせたのよ」
「……でも」
「蘭ちゃん達も、それはわかっているはずよ。ただ、今は戸惑いが強いのでしょうけど」
「そう言えば、何だか複雑そうな表情だったっけ」
花音はそう言いながらも、神蘭達の表情を思い出していた。
「魔族に庇われるなんて、経験ないもの。……今までいろんなことがあって、色々と複雑な部分もあるでしょうけど、私にはある可能性が見付かった気がするの」
「それって……」
「彼よ。魔族と神族の古くからの関係をよく知らず、私や蘭ちゃん達とも繋がりのある風夜が魔族のトップになれば、すぐには無理でもきっと何かがある。……そんな気がする」
「……うん。……私もそんな気がします」
少し考えて花音も言うと、神麗は微笑んだ。
3
「そう。牙王はやられたのね」
呟いた黒姫のもとから、蝙蝠が飛び去っていく。
「それも、私達に逆らう魔族に」
「奴等は神族共を匿っている。此方の被害を抑えるには、奴等がこの地に慣れ、本来の力を出せるようになる前に決着をつけたいところだが」
「ふふ」
「何を笑っている?黒蘭」
闇王の言葉に、黒姫達の視線が向く。
黒蘭は怪しげな本を見ながら、笑みを浮かべていた。
「随分楽しそうだけど、何か策を思い付いたのかしら?」
問い掛けた窮姫に、黒蘭は再び「ふふふ」と笑い、黒姫の前に膝を着く。
「黒姫様、次は私にお任せください。牙王のような失敗はしませんわ」
「……いいわ。但し、私、つまらないものは見たくないの」
「ええ、退屈はさせませんわ」
「そう……、なら行きなさい」
「はい」
そして黒姫に一礼した黒蘭は姿を消した。
「っ……、お前、向こうに行ってたんじゃなかったのか?」
体勢を立て直した牙王が風夜に向かって言う。
「ああ。……だが、どうも嫌な予感がしたんでな。戻ってきたんだよ」
そう返しつつ、風夜は神蘭達より前に着地する。かと思うと、近くにいた神蘭達を花音達の方へ吹っ飛ばしてきた。
「えっ?えええっ!?」
「おい、何してんだよ!?」
思いもしていなかった風夜の行動に花音と光輝は声を上げる。
だが、風夜はそれに何も言わず、花音達の方へ手を翳す。
それと同時に、花音達はドーム状の膜の中へ閉じ込められた。
「あなたっ!一体何のつもり!?」
それを見て、聖羅が声を上げる。
「その中にいれば、お前達に危険はない」
言って風夜は牙王へ向き直る。
「ここからは、俺が相手になってやるよ」
「……神族を庇って、同族の我らと敵対するつもりか?それも、つい最近魔族として誕生したばかりの若輩者が!」
その言葉に、風夜は「ふっ」と笑った。
「お前達の関係がどんなものであろうと、俺には関係ないし、興味もない。だが、俺はお前達のやり方が気に入らない。……それ以上に……」
地を蹴った風夜が一瞬で牙王との距離を詰め、すり抜けるように背後へ移動する。
「俺の大切なものを平気で傷付けるお前達を、許すつもりはない」
「うがあああ!!」
風夜の言葉と同時に、牙王の左翼が切り落とされ、地へ落ちた。
「貴様っ……」
片翼を失って、牙王の目付きが変わる。
「もう、許さんぞ!この、裏切り者があぁ!」
叫んだ牙王の姿が消え、風夜のすぐ傍に現れる。
「危なっ……」
それに花音は声を上げかけたが、次の瞬間、吹っ飛んだのは牙王の方だった。
「ぐっ、何故だ?この魔界で、俺が負けるはずは……」
吹っ飛び地へ落ちた牙王とは違い、その場から然程動いていない風夜を牙王が睨む。
「……神族は神界、魔族は魔界。それぞれの地でなら、他の地よりも強い力を使え、逆の世界へ行けば力が抑制される。まあ、お前らは汚い手を使って、神界でも関係なかったみたいだけどな。だが」
そんな牙王に構わず、風夜は近付いていく。
「……俺も魔族になった以上、お前らと俺の条件は同じ」
風夜の背に黒い翼が三対現れ、それを見ると牙王の表情が青ざめた気がした。
「……っ」
近付いていく風夜に、牙王の表情がひきつっていく。
恐怖を感じているようにも見える彼に、風夜の手が向けられる。
「…………終わりだ」
短く呟いたかと思うと、その手から大量の魔力が放たれ、牙王の身体を飲み込む。
それはあっという間の出来事で、牙王は声を上げることも許されずに消えていった。
2
「なんか、あいつ、人変わってないか?」
牙王が消えるのを見ながら、光輝が呟くのが聞こえてくる。
その直後、振り返ってきた風夜が、花音達の方を見て、眉を少ししかめる。
「……何だよ?」
その視線を向けているのは神蘭達のようで、彼女達は何処か複雑そうな表情をしている。
「……どうやら、今回はここまでみたいだな」
「わわっ!?」
「うわっ!?」
張り詰めたようにも感じる空気をどうしようかと思っていると、すぐ近くで声がして、花音と光輝は飛び退く。
そこにはいつ来たのか、風牙の姿があった。
「そっちは、どうなった?」
神蘭達から視線を外した風夜が問い掛ける。
「ああ。お前が五将軍の一人を倒したことで、引き上げた。他の奴等も、此方へ戻ってきているところだ」
「そうか」
「……にしても、随分派手にやったな。これじゃ、俺のこと言えないぜ」
牙王を吹っ飛ばした辺りの地面が大きく抉れているのを見ながら、風牙はニヤリと笑う。
「……まぁ、少しやり過ぎたのは否定しないさ」
そう返すと、風夜は溜め息をついた。
襲撃の為、街へ出ていた夜天達が戻ってきた後、花音は部屋で休息をとっていた。
(それにしても……)
牙王の襲撃の時を思い出す。
あの時、風夜が戻ってきてくれなければ、自分達は、ただでは済まなかっただろう。
だが、それと同時に風夜の存在を少し遠く感じてもいた。
その時、ドアを叩く音がして、神麗が入ってくる。
「今日は朝から大変だったわね」
「……そうですね」
「蘭ちゃん達も、慣れない内にああいうことになって参っていたみたいだし、……戻ってきてくれた彼に感謝しないとね」
神麗が言い、クスリと笑う。
それを見ながら、聞きたいことがあって、花音は口を開いた。
「でも、大丈夫なんですか?風夜は助けてくれたけど、その前に神蘭さん達のこと、思いっきり吹っ飛ばしてたから」
「それなら大丈夫よ。というより、あれでよかったの」
「えっ?」
笑いながら言う神麗に、花音は不思議そうに彼女を見る。
「だって、蘭ちゃん達は下がれといわれて、素直に下がる子達じゃないもの。だから彼も、強制的に下がらせたのよ」
「……でも」
「蘭ちゃん達も、それはわかっているはずよ。ただ、今は戸惑いが強いのでしょうけど」
「そう言えば、何だか複雑そうな表情だったっけ」
花音はそう言いながらも、神蘭達の表情を思い出していた。
「魔族に庇われるなんて、経験ないもの。……今までいろんなことがあって、色々と複雑な部分もあるでしょうけど、私にはある可能性が見付かった気がするの」
「それって……」
「彼よ。魔族と神族の古くからの関係をよく知らず、私や蘭ちゃん達とも繋がりのある風夜が魔族のトップになれば、すぐには無理でもきっと何かがある。……そんな気がする」
「……うん。……私もそんな気がします」
少し考えて花音も言うと、神麗は微笑んだ。
3
「そう。牙王はやられたのね」
呟いた黒姫のもとから、蝙蝠が飛び去っていく。
「それも、私達に逆らう魔族に」
「奴等は神族共を匿っている。此方の被害を抑えるには、奴等がこの地に慣れ、本来の力を出せるようになる前に決着をつけたいところだが」
「ふふ」
「何を笑っている?黒蘭」
闇王の言葉に、黒姫達の視線が向く。
黒蘭は怪しげな本を見ながら、笑みを浮かべていた。
「随分楽しそうだけど、何か策を思い付いたのかしら?」
問い掛けた窮姫に、黒蘭は再び「ふふふ」と笑い、黒姫の前に膝を着く。
「黒姫様、次は私にお任せください。牙王のような失敗はしませんわ」
「……いいわ。但し、私、つまらないものは見たくないの」
「ええ、退屈はさせませんわ」
「そう……、なら行きなさい」
「はい」
そして黒姫に一礼した黒蘭は姿を消した。