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魔界のレジスタンス

1
黄牙の案内で魔界へとやって来た花音は、その瞬間力を押さえ付けられるような息苦しさを感じていた。
この息苦しさを感じているのは自分だけなのかと思い、周りを見回す。
すると、光輝や神蘭達はあまり体調がよくないように見えたが、他の仲間達は平然としていて、いつもと変わらないようだった。
(此処は魔界だから、相対する力を持つ私達だけ影響を受けてるのかな?)
そんなことを思っていると、何だか落ち着きなく辺りを見回している夜天が視界に入った。
そして、今度はぼんやりとしている夜天が気になり、花音は彼に近付いた。
「夜天くん、どうかしたの?」
「!?……いや、何でもない」
花音が近付いたことにも気付かなかったのか、驚いたように肩を跳ねさせた後、何でもないように答える。
「何でもないって、随分ぼんやりとしていたみたいだけど……」
夜天の言葉を信じるには彼の様子はおかしくて、そう返すと彼は諦めたように溜め息をついた。
「別に、……ただ、ほんの少し懐かしかったんだ」
そう言うと、夜天は花音から離れていった。
「ここだ」
魔界に来てから、黄牙に案内されたのは一つの街だった。
「おい、まさか、お前達が用意したのって、この街とか言わないよな?」
「いくら何でも、それは……」
「いや、ここがそうだ」
凍矢と刹那に返した黄牙の言葉に、花音達は足を止める。
周りを見回せば、街にいる魔族達が花音達の様子を窺っているのがわかったが、襲ってくる様子はない。
それでも警戒を解くことは出来ずにいると、前を歩いている黄牙が溜め息をついた。
「……別に警戒しなくても大丈夫だぞ。この街の魔族がお前達を襲うことはない」
「どうしてそう言い切れるの?」
疑問に感じたらしく、鈴麗が声を上げる。
「それは……」
「それは、この街が窮姫達に対する反勢力の街だからだ」
黄牙を遮るように別の声が答える。
見ると、いつの間にか花音達の前に風夜が立っていた。
「反勢力?」
「そう。窮姫達に反発した者達の街だ。だから、お前達を此処に呼ぶのも、条件付きで許可してもらった」
「その条件というのは?」
「それについては、これから案内する所で聞いてくれ」
神麗に答えて、風夜が踵を返そうとする。
「待て!一体、何処に連れていくつもりだ?」
「……この街の代表、反勢力のリーダーの所だ。沙羅達も其処にいる」
風夜はそう言うと、歩き出した。
2
数分後、風夜の後を着いていった花音達は、大きな屋敷の前にいた。
中に入れば、反勢力のリーダー格のものと思える強い魔力を感じる。
それに僅かに緊張しながら進んでいくと大きな扉があり、それを風夜が開くと、中にいた者達の視線が集まった。
神界へ行く時に離れた〈風夜〉、沙羅、朔耶と、魔族の里で出会った梨亜と夜月、その他に見たことのない男が一人いる。
その男がこの街のリーダーのようだった。
「そいつらがお前達が言っていた奴等か?」
言って、男は座っていた椅子から立ち上がる。
「あなたは?」
「俺は此処で反勢力を率いている紫狼だ」
「……あなたが私達を此処に置くことを許可したって聞いたけど?」
「ああ。だが、幾つか条件がある」
聖羅を見返し、紫狼が言う。
「一つ目は、この街で無闇に力を使わないこと。街の者を刺激しないためにもな。二つ目は、この街が攻撃を受けた場合、我々と共に対処すること。それと、三つ目に神族とそっちの二人には監視をつけさせてもらいたい。この三つが条件だ」
花音と光輝を指して、紫狼はそう言った。
3
花音達が紫狼と話している頃、街から離れた城の中で水晶を使って、その様子を見ている黒姫の姿があった。
「ふふふっ」
「どうかされましたか?」
「いえ、ただ思い通りになったみたいでね」
答えて、窮姫にも水晶を見せる。
「この間の一撃で、ですね」
「ええ、そして上手い具合に、この街を滞在場所として選んだ」
そう言うと、黒姫は「ふふふっ」と楽しそうに笑った。
「……牙王」
「……ここに」
黒姫の声に、呼ばれた牙王が膝をつく。
「貴方に任務を与えるわ。軍を率いて、この街へ行きなさい。私に逆らう者は、すべて始末するのよ。……闘神達が魔界に来たばかりで、本調子でない今ならそう難しいことではないはずよ」
「はい」
「なら、行きなさい。……いい報告を待っているわ」
「お任せを」
黒姫に頭を下げると、牙王は姿を消した。
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