広がる戦火
1
神界へとやってきて数日。
既に魔族達との戦闘は始まっているのか、軍の本部は何処か慌ただしかった。
神界軍の本部があるフロアに部屋を用意してもらっていた花音は、ふと行き来する軍人達に混じって何処かに行こうとしている聖羅に気付いた。
(どうしよう?)
花音も一人でいた為、近くには誰もいない。
それでも迷っている間に、聖羅は出ていってしまう。
(追いかけなきゃ……!)
少し迷いはしたが、今行かなくては完全に見失ってしまうと追い掛けることにした。
「ちょ、待って!」
「!!」
塔を出たところで、聖羅に向かって声を掛ける。
すると、彼女は驚いたように振り返った。
「一体、何処に行くの?」
「近くの町よ。……ここだと、中々詳しい状況がわからないから」
「でも、一人で行くのは……」
「神蘭達は皆、出てるでしょう。まぁ、いたら反対されて出してもらえないだろうけど」
そこまで言って、聖羅は花音を見て、何かを思い付いたように手を叩いた。
「そうだ!このまま、貴女がついてきてよ!」
「えっ?ええっ!?」
言われて、花音は思わず声を上げた。
「ね?私は、戦況を知りたいだけなの。本当に戦地に行ったりはしないから、危険もないはずよ」
そう言われても、本当に何もないとは限らない。
返事に困っていると、花音達の前から声が聞こえてくる。
「姉上?」
「花音?」
「何してんだ?」
視線を向けると出掛けていたのか、塔に戻ってきたらしい光輝、夜天、雷牙の三人がいた。
「夜天くん、雷牙くん、光輝……、実は……」
「あら?また見つかっちゃった。……そうだ!」
花音が三人に説明しようとした時、聖羅が夜天と雷牙の腕を掴んだ。
「貴方達三人もついてきて」
「「「はっ?」」」
「だって、このまま帰られたら私が出掛けたことがばれてしまうもの。軍の者に知られたら、すぐに連れ戻されちゃうでしょ?」
そう言って、聖羅は夜天と雷牙をぐいぐい引っ張っていく。
それを見て、花音は光輝と顔を見合わせると、三人を追い掛けようと歩きだした。
2
「さあ、乗って」
中央の街を出たところで、聖羅がそこにいた竜を指す。
「って、この竜、飛竜!?」
「俺達が乗っている飛竜より、随分大きいな」
「まぁ、この子は私専用というより、軍の飛竜なの。私が行きたいところは少し離れているから、この子に乗せていってもらいましょう」
そう言った聖羅の言葉を理解しているのか、飛竜は乗れというように花音達に背を向けて待っていた。
飛竜に乗って数分後。
聖羅が降りるよう指示を出したのは、ある町の外だった。
「さてと、じゃあ行きましょうか」
乗せてきてくれた飛竜を撫でて、聖羅が歩き出す。
「情報収集たって、前線でもなく、そんなに大きくも見えないこの町でわかるのか?」
「ええ、ここに腕のいい情報屋がいるの。その人から話を聞きたいのよ」
「……それなら別に俺達四人もついてこなくてもよかったんじゃないのか?」
「でも連れてこなかったら、私が出掛けたことを話していたでしょう」
その言葉に光輝は溜め息をつき、花音は苦笑した。
「……!」
聖羅の後をついて歩いていると、不意に後ろから来た誰かにぶつかられる。
「いてててっ……」
視線を向けると、そこにはフードとマントで姿を隠していたが、声を聞くとまだ幼い少年のような人物がいた。
「君、大丈夫?」
「あ、うん。ごめんなさ……!?」
花音が掛けた声に、少年は答えかけて言葉を止めると、慌てて走り去っていく。
「何だ?あいつ」
「どうしたんだろ?」
まるで逃げるように走っていってしまった少年に、花音達が首を傾げている一方、聖羅がその少年の去った方向を厳しい表情で見ていた。
「……どうした?」
少年の去った方向を睨むように見ていた聖羅に気付いた夜天が聞く。
「今の……まさか!?」
それに答えることなく、聖羅は呟いて走り出す。
「おい、何処に行くんだよ!?」
「追いかけよう!」
急なことについていけなかったが、見失わないようにと後を追い掛ける。
聖羅に追い付くと、そこは人気のない路地で、彼女は身を隠すようにして前方を窺っていた。
その先には、先程の少年ともう一人の少年がいた。
3
「何をして……」
「しっ、静かに」
声を掛けようとした花音に、聖羅が言う。
その時、前方にいる二人の声が聞こえてきた。
「……よかった、大丈夫だった?」
「うん。一度見つかりそうになって、ひやひやしたけど……」
そう言いながら、花音達が追い掛けてきた少年がフードとマントを脱ぐ。
「「「「!!」」」」
「やっぱり……」
マントを脱いだ少年の背には黒い翼があり、花音達は目を見開いたが、聖羅だけはわかっていたようだった。
「そっか。……でも、ばれなくてよかった。前でも許されなかったのに、今見付かったら、ただじゃ済まないだろうしね」
「ああ。折角友達になれたのにな」
気配を消し、様子を窺っていると、二人の声が聞こえてくる。
「うん。……とにかく、戦闘が始まっちゃった以上、今まで以上に気を付けないと、会えないからね」
「まあ、会えても前みたいには遊べないけどな」
「仕方ないよ。暫くは話ができるだけでもいいと思おう」
少年達がそこまで言った時、聖羅が動く。
彼女は今まで隠れていたにも関わらず、二人の前に姿を見せていた。
「「!!」」
姿を見せた聖羅に、少年達が顔を強張らせる。
「……あなた、魔族ね。今の状況がわからないような年にも見えないけど、今ここに来るということがどういうことか、わからないのかしら?」
その言葉に、魔族の少年は顔を俯かせる。
それを見て、もう一人の少年が庇うように割って入った。
「ま、待って!この子は友達なんだ!僕の大切な……」
少年がそこまで言った時、聖羅は少年と目を合わせるように座った。
「そう……。でもね、魔族である以上、見逃す訳にはいかないの。……今の状況なら、尚更ね」
「っ……」
言い聞かせるような言葉に、少年は俯き、唇を噛み締める。
かと思うと、魔族の少年へと向き直った聖羅を思いっきり突き飛ばし、少年の腕を掴むと走り出した。
「こっち!早く!!」
「あ、ああ!」
「っ……、待ちなさい!」
体勢を立て直した聖羅が声を上げたが、二人は逃げていってしまった。
「一体、何処へ行ったの?」
二人の少年を見失ってから、数分。見付からないことに苛立ったように聖羅が呟く。
「なあ」
「何?」
「今の状況を考えれば、お前が警戒するのもわかるけど、あんな小さい奴も見逃せないのか?」
不意にそう問い掛けた光輝に聖羅は向き直る。
「ええ、そうよ。魔族は魔族。例外はないわ」
「どうして、そこまで?」
「それが神族と魔族の関係よ。……昔から私達神族と魔族は対立し、争い続けてきた。その関係は、これからも変わらないわ」
「そんな……」
聖羅の言葉に、花音はそう呟いた。
「……まあ、確かにお互いにそんなことを言っているようじゃ、何も変わらないだろうな」
「そうね。でも、今までの争いでどちらにも多くの犠牲が出て、それが更に互いの溝を深めているの。事実、私も過去に大切な人を失ってるわ。神蘭達もね」
皮肉っぽく言った夜天に、聖羅がそう返す。
「もし、この関係が終わるとしたら、それは……どちらかの種族、もしくは両方の種族が滅びた時よ」
「「「「…………」」」」
その言葉に花音達は沈黙する。
言葉を失った花音達に気付いたのか、聖羅は表情を和らげた。
「今回の戦いがどうなるかはわからないけど、結果がどうであれ、あなた達は元の世界に帰すわ。それは約束する。……さぁ、話はここまでにして、さっきの二人を……」
「うわああ!」
「「「「「!!」」」」」
聖羅の声を遮るように、少年の悲鳴が聞こえた。
神界へとやってきて数日。
既に魔族達との戦闘は始まっているのか、軍の本部は何処か慌ただしかった。
神界軍の本部があるフロアに部屋を用意してもらっていた花音は、ふと行き来する軍人達に混じって何処かに行こうとしている聖羅に気付いた。
(どうしよう?)
花音も一人でいた為、近くには誰もいない。
それでも迷っている間に、聖羅は出ていってしまう。
(追いかけなきゃ……!)
少し迷いはしたが、今行かなくては完全に見失ってしまうと追い掛けることにした。
「ちょ、待って!」
「!!」
塔を出たところで、聖羅に向かって声を掛ける。
すると、彼女は驚いたように振り返った。
「一体、何処に行くの?」
「近くの町よ。……ここだと、中々詳しい状況がわからないから」
「でも、一人で行くのは……」
「神蘭達は皆、出てるでしょう。まぁ、いたら反対されて出してもらえないだろうけど」
そこまで言って、聖羅は花音を見て、何かを思い付いたように手を叩いた。
「そうだ!このまま、貴女がついてきてよ!」
「えっ?ええっ!?」
言われて、花音は思わず声を上げた。
「ね?私は、戦況を知りたいだけなの。本当に戦地に行ったりはしないから、危険もないはずよ」
そう言われても、本当に何もないとは限らない。
返事に困っていると、花音達の前から声が聞こえてくる。
「姉上?」
「花音?」
「何してんだ?」
視線を向けると出掛けていたのか、塔に戻ってきたらしい光輝、夜天、雷牙の三人がいた。
「夜天くん、雷牙くん、光輝……、実は……」
「あら?また見つかっちゃった。……そうだ!」
花音が三人に説明しようとした時、聖羅が夜天と雷牙の腕を掴んだ。
「貴方達三人もついてきて」
「「「はっ?」」」
「だって、このまま帰られたら私が出掛けたことがばれてしまうもの。軍の者に知られたら、すぐに連れ戻されちゃうでしょ?」
そう言って、聖羅は夜天と雷牙をぐいぐい引っ張っていく。
それを見て、花音は光輝と顔を見合わせると、三人を追い掛けようと歩きだした。
2
「さあ、乗って」
中央の街を出たところで、聖羅がそこにいた竜を指す。
「って、この竜、飛竜!?」
「俺達が乗っている飛竜より、随分大きいな」
「まぁ、この子は私専用というより、軍の飛竜なの。私が行きたいところは少し離れているから、この子に乗せていってもらいましょう」
そう言った聖羅の言葉を理解しているのか、飛竜は乗れというように花音達に背を向けて待っていた。
飛竜に乗って数分後。
聖羅が降りるよう指示を出したのは、ある町の外だった。
「さてと、じゃあ行きましょうか」
乗せてきてくれた飛竜を撫でて、聖羅が歩き出す。
「情報収集たって、前線でもなく、そんなに大きくも見えないこの町でわかるのか?」
「ええ、ここに腕のいい情報屋がいるの。その人から話を聞きたいのよ」
「……それなら別に俺達四人もついてこなくてもよかったんじゃないのか?」
「でも連れてこなかったら、私が出掛けたことを話していたでしょう」
その言葉に光輝は溜め息をつき、花音は苦笑した。
「……!」
聖羅の後をついて歩いていると、不意に後ろから来た誰かにぶつかられる。
「いてててっ……」
視線を向けると、そこにはフードとマントで姿を隠していたが、声を聞くとまだ幼い少年のような人物がいた。
「君、大丈夫?」
「あ、うん。ごめんなさ……!?」
花音が掛けた声に、少年は答えかけて言葉を止めると、慌てて走り去っていく。
「何だ?あいつ」
「どうしたんだろ?」
まるで逃げるように走っていってしまった少年に、花音達が首を傾げている一方、聖羅がその少年の去った方向を厳しい表情で見ていた。
「……どうした?」
少年の去った方向を睨むように見ていた聖羅に気付いた夜天が聞く。
「今の……まさか!?」
それに答えることなく、聖羅は呟いて走り出す。
「おい、何処に行くんだよ!?」
「追いかけよう!」
急なことについていけなかったが、見失わないようにと後を追い掛ける。
聖羅に追い付くと、そこは人気のない路地で、彼女は身を隠すようにして前方を窺っていた。
その先には、先程の少年ともう一人の少年がいた。
3
「何をして……」
「しっ、静かに」
声を掛けようとした花音に、聖羅が言う。
その時、前方にいる二人の声が聞こえてきた。
「……よかった、大丈夫だった?」
「うん。一度見つかりそうになって、ひやひやしたけど……」
そう言いながら、花音達が追い掛けてきた少年がフードとマントを脱ぐ。
「「「「!!」」」」
「やっぱり……」
マントを脱いだ少年の背には黒い翼があり、花音達は目を見開いたが、聖羅だけはわかっていたようだった。
「そっか。……でも、ばれなくてよかった。前でも許されなかったのに、今見付かったら、ただじゃ済まないだろうしね」
「ああ。折角友達になれたのにな」
気配を消し、様子を窺っていると、二人の声が聞こえてくる。
「うん。……とにかく、戦闘が始まっちゃった以上、今まで以上に気を付けないと、会えないからね」
「まあ、会えても前みたいには遊べないけどな」
「仕方ないよ。暫くは話ができるだけでもいいと思おう」
少年達がそこまで言った時、聖羅が動く。
彼女は今まで隠れていたにも関わらず、二人の前に姿を見せていた。
「「!!」」
姿を見せた聖羅に、少年達が顔を強張らせる。
「……あなた、魔族ね。今の状況がわからないような年にも見えないけど、今ここに来るということがどういうことか、わからないのかしら?」
その言葉に、魔族の少年は顔を俯かせる。
それを見て、もう一人の少年が庇うように割って入った。
「ま、待って!この子は友達なんだ!僕の大切な……」
少年がそこまで言った時、聖羅は少年と目を合わせるように座った。
「そう……。でもね、魔族である以上、見逃す訳にはいかないの。……今の状況なら、尚更ね」
「っ……」
言い聞かせるような言葉に、少年は俯き、唇を噛み締める。
かと思うと、魔族の少年へと向き直った聖羅を思いっきり突き飛ばし、少年の腕を掴むと走り出した。
「こっち!早く!!」
「あ、ああ!」
「っ……、待ちなさい!」
体勢を立て直した聖羅が声を上げたが、二人は逃げていってしまった。
「一体、何処へ行ったの?」
二人の少年を見失ってから、数分。見付からないことに苛立ったように聖羅が呟く。
「なあ」
「何?」
「今の状況を考えれば、お前が警戒するのもわかるけど、あんな小さい奴も見逃せないのか?」
不意にそう問い掛けた光輝に聖羅は向き直る。
「ええ、そうよ。魔族は魔族。例外はないわ」
「どうして、そこまで?」
「それが神族と魔族の関係よ。……昔から私達神族と魔族は対立し、争い続けてきた。その関係は、これからも変わらないわ」
「そんな……」
聖羅の言葉に、花音はそう呟いた。
「……まあ、確かにお互いにそんなことを言っているようじゃ、何も変わらないだろうな」
「そうね。でも、今までの争いでどちらにも多くの犠牲が出て、それが更に互いの溝を深めているの。事実、私も過去に大切な人を失ってるわ。神蘭達もね」
皮肉っぽく言った夜天に、聖羅がそう返す。
「もし、この関係が終わるとしたら、それは……どちらかの種族、もしくは両方の種族が滅びた時よ」
「「「「…………」」」」
その言葉に花音達は沈黙する。
言葉を失った花音達に気付いたのか、聖羅は表情を和らげた。
「今回の戦いがどうなるかはわからないけど、結果がどうであれ、あなた達は元の世界に帰すわ。それは約束する。……さぁ、話はここまでにして、さっきの二人を……」
「うわああ!」
「「「「「!!」」」」」
聖羅の声を遮るように、少年の悲鳴が聞こえた。