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受け継がれるもの

1
「ここは?」
吸い込まれた四人を追って、飛び込んだ先で花音は辺りを見回す。
そこは元大臣が作り出した空間でも、その前にいた城の中でもなく、森の中のようだった。
「どうなってるんだ?」
「私達、いつの間に外に来ちゃったの?」
その時、空夜と風華の声が聞こえてくる。
花音が二人の方を見ると、その後ろには二人の風夜の姿もあった。
「……ここ、国境の森にも見えるけど」
「そうだな。だが、ここは……」
《風夜》が何かを言いかけた時、二人の少年が走ってくるのが見えた。
(えっ?)
走ってきた少年達は花音達に気付かないどころか、すり抜けていく。
『父上!母上!』
そう叫ぶ少年達の前には、年齢差のある男女が立っていた。男性は、四十代、女性は二十代に見える。
その時、風夜と空夜が目を見開いたのがわかった。
「あの人は!?」
「知ってるの?」
「ああ。城の肖像画で見たことがある」
「えっ?」
「確か、八代目の王だ。唯一、王妃に関しての資料が何も残っていない王でもある」
「……なるほどな」
空夜が言った後、《風夜》がそう呟いた。
「なるほどって、何かわかったのか?」
「ああ。これはお前達の国の過去を何者かが見せているんだ。……まぁ、そんなことが出来るのは、強い力を持った魔族くらいだろうが」
「過去を見せる?一体、誰が何のために?」
「……さぁな。そこまでは」
風夜の問い掛けに《風夜》が肩を竦めた時、和やかに談笑していた四人の姿が消える。
次に花音達が見たのは、王が亡くなったのだろう、墓の前にいる王妃と息子二人だった。
だが、その三人の内、成長しているのは息子の一人だけで、王妃ともう一人の息子に変化が見られない気がした。
再び場面が変わり、今度は息子の一人が女性に何かを言っていた。
『一体、俺は何なんだ!?兄上に比べて、俺は数年間この姿のままだ!城の者にも、国民達にも不審に思われてる。それに、今まで言わなかったけど、母上だってずっとその姿じゃないか!?』
『…………』
『それに、最近は俺の中に何かがいる気がしてならない!そいつが、俺の身体を奪おうとしている気がして、恐いんだ!俺は、人間じゃないのか?皆が陰で言うような、化け物なのかよ!?』
その言葉に、女性はただ悲しそうに笑っていた。
2
場面が切り替わり、今度は息子が眠っている。
そこに静かに入ってきた女性が、ベッド横に来て、眠っている彼に手を伸ばす。
『……ごめんなさいね』
呟いた女性が翳した手から光が溢れ、眠っている彼の中に入っていく。
それは、何かの術を掛けているようにも見えた。
暫くして女性は翳していた手を引き、眠っている顔を眺める。
『……これでもう大丈夫。貴方も、貴方の子孫達も……』
そう呟いて、女性は背を向ける。
『……さようなら。この国を、あの人が愛した国をよろしくね』
その言葉を最後に、女性は姿を消した。
次に見えたのは、姿を消した女性と窮姫が争っている姿だった。
今まで聞こえていた声は、何故か聞こえてこない。
だが、二人が何やら激しく争っているのはわかった。
今まで花音達に気付くこともなかった為、手を出すことは出来ないのだろうと見ていただけだった花音達の前で、窮姫によって女性が切り捨てられる。
「っ……!」
それでもなおいたぶられている様子に、花音は口元を手で覆う。
その横では風華が見ないように、空夜が彼女の目を手で覆っていた。
窮姫が去っていってから、まだ息があったのだろう女性が僅かに動く。
そこで漸く再び声が聞こえてきた。
『……めんなさい。私では、止められなかった。……あの人の愛した国を……、世界を、守りたかったのに……』
言いながら、女性の目が虚ろになっていく。
『……ごめんなさい。……私の愛しい人達。……ごめんなさい』
言った女性の目から、涙が零れ落ちる。
その涙が地面に吸い込まれるのと同時に、女性の身体は消えていった。
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