受け継がれるもの
1
刹那の力で、花音達が着いたのは、街外れの森の中だった。
「さてと、……瑠璃」
「何~?」
「先に行って、少し調べていてくれる?」
「はーい」
沙羅に言われて、瑠璃が姿を消す。
「じゃあ、私達も行きましょうか。 街に着く頃には、瑠璃が情報を仕入れているはずよ」
そう言った沙羅に、花音は頷いた。
「あっ、来た、来た」
花音達が街の中に入ると、そう声がして、先に来ていた瑠璃が飛んでくる。
「どう?何かわかった?」
「うん、ばっちりよ」
花音が聞くと、瑠璃は得意気に小さな胸を張った。
「街の人達の話だと、今風の国を治めているのは大臣だった男みたいね。窮姫達の姿はなかったから、気配も探ってみたけど、今は留守みたい。それと」
言いながら、火焔、水蓮、大樹、紫影、紫姫、影牙と視線を移していく。
「この国にいた貴方達の一族、実験に使われていない人達は、皆地下牢にいるらしいわ」
瑠璃の言葉に、火焔達は目を見開いていた。
「そう……、ならどうする?捕らわれている人達を助けていたら、間に合わなくなるかもしれないわよ?」
「でも……」
沙羅の言葉に、火焔達の方を見る。
彼等は捕らわれている人達のことが気になっているようだった。
「三組に分かれるっていうのもありじゃないかしら?……あまり戦力をばらすのもよくないでしょうけど」
「三組って……」
「一つは、城を奪還する組、二つ目は城へ侵入し、牢の人達を助ける組、三つ目は街に残り、必要に応じて動く……、まぁ、状況がどう動くかわからないから、保険のようなものね」
言って、神麗がふふっと笑う。
それでも彼女の提案のように動くのがいい気がした。
2
「それで、何でこのメンバーなんだ?」
城の外、三組に分かれたあとのメンバーを見て、風夜が言う。
自国である風夜、空夜、風華が奪還に動くのは当然として、他には花音、光輝、凍矢、刹那、千歳、昴がいた。
「夜天達は、他国の皇子だからな。あまり他の国の内情で動くのはよくないだろ」
「そう言うお前はどうなんだ?」
「俺は、街の長だからな。夜天達よりは、自由がきく」
「……お前らは?」
光輝の答えに溜め息をつくと、風夜は凍矢と刹那を見た。
「俺達は、あいつらに頼まれたんだよ」
「あいつらって……?」
「琴音と美咲、星夢に決まってるだろ」
凍矢の言ったことに花音が首を傾げると、刹那がそう付け加える。
彼女達はその能力の特性からいっても、他の二ヶ所の方に回るのが妥当だった為、別行動になっていた。
風夜が今度は千歳と昴を見る。
「俺達は協力するって約束しただろ?」
「まぁ、仮にも軍人だからな。一番危険なところに入るのが普通だろ?」
「……とにかく、時間がないなら、ここでいつまでも話してる場合じゃないだろ。そろそろ行くぞ」
空夜が言って、一歩前に踏み出す。
それと同時に、まるで中に入れというように城の扉が音を立てて開いた。
「……今、勝手に開いたよ」
「……僅かだけど、魔力を感じた。窮姫達はいなくても、何かしらの手は打ってあるみたいだな」
自動的に開いた扉を見て、風華が声を上げると、千歳が冷静にそう返した。
まるで花音達のことを中に招き入れているようにも見えたが、罠だとしても入るしかなかった。
全員が一度顔を見合わせて、頷き合う。
花音は気を引き締めるように深呼吸すると、城の中へと入る。
全員が入った所で、まるで見えているように城の扉が花音達の背後で閉まった。
城の中は、暗く静まり返っていて、人の気配もない。
花音達の行く手を遮るつもりもないのか、魔族の姿もキメラ達の姿もなかった。
「大臣がいるとしたら、やっぱり……」
「謁見の間だろうな」
空夜に返して、風夜が謁見の間へと続く通路を見る。
その先からは、何ともいえない重圧のようなものを感じた。
「……この気配、この先に魔族がいるな」
「ああ。それもかなり強い力を持った奴だ」
千歳と昴が言う。
「この先って、あるのは謁見の間だけだよ」
風華の言葉に、花音は風の城にいた時を思い出す。
その記憶の中でも、この先にあったのは謁見の間だけだ。
そうなると、気になったのは大臣とその強い力を持ったという魔族が同じ謁見の間にいるということだった。
3
特に何の妨害もなく花音達は城の中を進んでいき、一つの大きな扉の前で止まった。
その扉の向こうが、風の国にいた時に何度か入ったことのある謁見の間だった。
「……やっばり、この中からだな。先程よりも気配が強くなった」
扉を見て、千歳が呟く。
「……大臣も、この扉の向こうにいるだろうな」
言いながら、風夜が花音達を見てくる。
それに頷いたのと同時に、扉がゆっくりと開き始める。
開いた扉の向こうには玉座に座り、此方を見て笑っている男の姿があった。
「ようこそ、私の城へ」
「「大臣!!」」
座ったまま、そう言った大臣に、風夜と空夜が声を上げる。
「何故、お前が其処にいる!?」
「其処は、代々王だけが座ることが許されている席、お前のような奴が座っていい場所ではない!」
その二人の言葉に、大臣はニヤリと笑った。
「ああ、わかっているさ。だから、前は座ることは許されず、控えていることしか出来なかった。……だが!今の私には許されるのだ!何故なら、今のこの国の王は、私なのだからな!」
「何だとっ!?」
それを聞いて、風夜が目を見開いた。
「そう……、お前達が国を出ている間に、継承を終えたのだ」
「そんなの、認められるかっ!」
「……今の状況に甘んじているお前を、王として認める訳にはいかない!」
そう言った風夜と空夜に、元大臣が手を翳す。
それと同時に、二人の身体が後ろへと吹っ飛んだ。
「風夜!?」
「空兄様!」
壁に背を強打した二人を、元大臣は冷たい目で見る。
「……ふん、言葉には気をつけろ。この国の王は私だ。逆らう者は許さん!」
そう言いつつ、玉座から立ち上がる。
その背には、いつの間にか巨大な翼が二対生えていた。
「お前……、その姿……」
翼を生やした元大臣を見て、光輝が呟く。
「私は、この国の王になると同時に、最上級クラスの魔族になった」
「最上級クラス!?」
千歳と昴が息をのむ。
「そうだ。私はあいつらから力を貰い、最上級クラスになったのだ。だが、構わないだろう?この国には元々魔族の血が混じっていたのだからな。風夜様に継承権があったのなら、私がなっても問題はないだろう?」
「……あるよ」
「ん?何か言ったか?」
花音が呟くと、元大臣は聞き返してきた。
「問題あるよ!貴方と風夜を一緒にしないで!」
叫ぶように言って、キッと睨み付ける。
「……何だと?」
「……そうだな。お前とは違うだろうな」
顔をしかめた元大臣に、凍矢が続けて言う。
「少なくとも、お前みたいに魔族の侵略を許し、そいつらの力をかさにきたまま、自分の地位だけを確立したりはしないな」
「……本当の王なら、民の事を考えて行動する。自分のことしか考えていないお前みたいな奴は、王に相応しくないと思うぜ」
凍矢と刹那の言葉に、元大臣の表情から笑みが完全に消える。
「……随分、好き勝手に言ってくれる。……いいだろう。そんなに命が惜しくないなら、私の力を見せてやる」
そう言った元大臣が掌に、球体のようなものを宿す。
それは段々と巨大化していき、花音達はその中に吸い込まれた。
4
「ここは?」
呟いて、花音は辺りを見回す。
辺りは暗く、花音達の姿しかない。
「ここは私が作り上げた異空間。この中で起きていることは、他の奴等に知られることはない」
「っ……!」
元大臣がそう言った時、刹那が急に手を押さえるのが見えた。
その手には、黒い電流のようなものが走っている。
「無駄だ。私のこの空間は、魔力の壁。いくら空間を操れるといっても、私の力には及ばないのだからな。……そして、私にはこんな力もある」
元大臣はそう言うと、再び手に力を宿す。
それを風夜の方へ向けたかと思うと、彼の足元から黒い光が立ち上ぼった。
「これはっ…….?……うわあああ!!」
抵抗も出来ないまま、風夜の身体を術が捉える。
「風夜!」
その中で苦痛の声を上げるのを見て、術を止めさせようと元大臣を攻撃しようとした時、風華に服を引っ張られた。
「か、花音ちゃん!あれっ……!」
「えっ?」
花音が風夜の方を指しているのを見て、花音も視線を戻す。
すると、術中に捕らわれている風夜の姿がぶれて見えた。
(まさか、この術って……)
そう思っている間にも、膝を着いている風夜の横にもう一人の姿が浮かび上がり、その存在をはっきりさせていく。
そして、術が終わったのか光が収まった後、《風夜》は俯けていた顔を上げ、不機嫌そうに元大臣を見た。
「……俺を引きずり出して、一体何のつもりだ?」
「お前は魔族なのだろう?同志を助けて、何が悪い?」
「同志?」
「そうだ。あの四人も同志であるお前なら、受け入れてくれる。お前も、我等に協力しないか?」
元大臣が言った時、《風夜》が横にいる風夜と花音を見た気がした。
「……断る」
「……何?」
《風夜》の答えに、元大臣は眉を潜める。
「俺はお前達に協力しないと言ったんだ。……ずっとこいつの中にいて、感化されたのもあるかもしれないが、俺にもこの国への思い入れはある。……何より、あいつらのやり方は、同じ魔族である俺からしても気に食わない。それが理由だ」
「…….協力しないというなら、神族の味方をすると?」
「それも違うな。俺だって、神族は気に入らない。それに近い力を持つ光の一族も。……ただ」
言いつつ、風夜を指す。
「そいつがいるのが、此方だからな。そいつと俺は一心同体。だから、俺はそいつに力を貸しているだけだ」
そう答えた《風夜》に、元大臣から表情が消えた。
「そうか。なら、仕方ない。もし従わないようなら、お前も始末するよう言われてるのでな」
そう言った元大臣の手には、今までよりも強い力が溜められていく。
その時、《風夜》が何かに反応して、元大臣とは違う場所に視線を向け、遅れて刹那も彼と同じ方向を見る。
「!?この力は……」
刹那が呟くのとほぼ同時に、空間が歪み、その中へ引きずり込むような力を感じた。
「「「うわあああ!!」」」
「きゃあああ!」
「風夜!風華ちゃん!空夜さん!」
花音にとってはまだ耐えられるくらいの弱い力だったが、四人にとっては違ったらしく引きずりこまれていく。
「っ!!」
四人を吸い込んだ後、入り口を閉じようとする空間を見て、花音は飛び込む。
「姉上!?」
「花音!?」
光輝と凍矢の驚くような声が聞こえたのを最後に入り口は閉じた。
刹那の力で、花音達が着いたのは、街外れの森の中だった。
「さてと、……瑠璃」
「何~?」
「先に行って、少し調べていてくれる?」
「はーい」
沙羅に言われて、瑠璃が姿を消す。
「じゃあ、私達も行きましょうか。 街に着く頃には、瑠璃が情報を仕入れているはずよ」
そう言った沙羅に、花音は頷いた。
「あっ、来た、来た」
花音達が街の中に入ると、そう声がして、先に来ていた瑠璃が飛んでくる。
「どう?何かわかった?」
「うん、ばっちりよ」
花音が聞くと、瑠璃は得意気に小さな胸を張った。
「街の人達の話だと、今風の国を治めているのは大臣だった男みたいね。窮姫達の姿はなかったから、気配も探ってみたけど、今は留守みたい。それと」
言いながら、火焔、水蓮、大樹、紫影、紫姫、影牙と視線を移していく。
「この国にいた貴方達の一族、実験に使われていない人達は、皆地下牢にいるらしいわ」
瑠璃の言葉に、火焔達は目を見開いていた。
「そう……、ならどうする?捕らわれている人達を助けていたら、間に合わなくなるかもしれないわよ?」
「でも……」
沙羅の言葉に、火焔達の方を見る。
彼等は捕らわれている人達のことが気になっているようだった。
「三組に分かれるっていうのもありじゃないかしら?……あまり戦力をばらすのもよくないでしょうけど」
「三組って……」
「一つは、城を奪還する組、二つ目は城へ侵入し、牢の人達を助ける組、三つ目は街に残り、必要に応じて動く……、まぁ、状況がどう動くかわからないから、保険のようなものね」
言って、神麗がふふっと笑う。
それでも彼女の提案のように動くのがいい気がした。
2
「それで、何でこのメンバーなんだ?」
城の外、三組に分かれたあとのメンバーを見て、風夜が言う。
自国である風夜、空夜、風華が奪還に動くのは当然として、他には花音、光輝、凍矢、刹那、千歳、昴がいた。
「夜天達は、他国の皇子だからな。あまり他の国の内情で動くのはよくないだろ」
「そう言うお前はどうなんだ?」
「俺は、街の長だからな。夜天達よりは、自由がきく」
「……お前らは?」
光輝の答えに溜め息をつくと、風夜は凍矢と刹那を見た。
「俺達は、あいつらに頼まれたんだよ」
「あいつらって……?」
「琴音と美咲、星夢に決まってるだろ」
凍矢の言ったことに花音が首を傾げると、刹那がそう付け加える。
彼女達はその能力の特性からいっても、他の二ヶ所の方に回るのが妥当だった為、別行動になっていた。
風夜が今度は千歳と昴を見る。
「俺達は協力するって約束しただろ?」
「まぁ、仮にも軍人だからな。一番危険なところに入るのが普通だろ?」
「……とにかく、時間がないなら、ここでいつまでも話してる場合じゃないだろ。そろそろ行くぞ」
空夜が言って、一歩前に踏み出す。
それと同時に、まるで中に入れというように城の扉が音を立てて開いた。
「……今、勝手に開いたよ」
「……僅かだけど、魔力を感じた。窮姫達はいなくても、何かしらの手は打ってあるみたいだな」
自動的に開いた扉を見て、風華が声を上げると、千歳が冷静にそう返した。
まるで花音達のことを中に招き入れているようにも見えたが、罠だとしても入るしかなかった。
全員が一度顔を見合わせて、頷き合う。
花音は気を引き締めるように深呼吸すると、城の中へと入る。
全員が入った所で、まるで見えているように城の扉が花音達の背後で閉まった。
城の中は、暗く静まり返っていて、人の気配もない。
花音達の行く手を遮るつもりもないのか、魔族の姿もキメラ達の姿もなかった。
「大臣がいるとしたら、やっぱり……」
「謁見の間だろうな」
空夜に返して、風夜が謁見の間へと続く通路を見る。
その先からは、何ともいえない重圧のようなものを感じた。
「……この気配、この先に魔族がいるな」
「ああ。それもかなり強い力を持った奴だ」
千歳と昴が言う。
「この先って、あるのは謁見の間だけだよ」
風華の言葉に、花音は風の城にいた時を思い出す。
その記憶の中でも、この先にあったのは謁見の間だけだ。
そうなると、気になったのは大臣とその強い力を持ったという魔族が同じ謁見の間にいるということだった。
3
特に何の妨害もなく花音達は城の中を進んでいき、一つの大きな扉の前で止まった。
その扉の向こうが、風の国にいた時に何度か入ったことのある謁見の間だった。
「……やっばり、この中からだな。先程よりも気配が強くなった」
扉を見て、千歳が呟く。
「……大臣も、この扉の向こうにいるだろうな」
言いながら、風夜が花音達を見てくる。
それに頷いたのと同時に、扉がゆっくりと開き始める。
開いた扉の向こうには玉座に座り、此方を見て笑っている男の姿があった。
「ようこそ、私の城へ」
「「大臣!!」」
座ったまま、そう言った大臣に、風夜と空夜が声を上げる。
「何故、お前が其処にいる!?」
「其処は、代々王だけが座ることが許されている席、お前のような奴が座っていい場所ではない!」
その二人の言葉に、大臣はニヤリと笑った。
「ああ、わかっているさ。だから、前は座ることは許されず、控えていることしか出来なかった。……だが!今の私には許されるのだ!何故なら、今のこの国の王は、私なのだからな!」
「何だとっ!?」
それを聞いて、風夜が目を見開いた。
「そう……、お前達が国を出ている間に、継承を終えたのだ」
「そんなの、認められるかっ!」
「……今の状況に甘んじているお前を、王として認める訳にはいかない!」
そう言った風夜と空夜に、元大臣が手を翳す。
それと同時に、二人の身体が後ろへと吹っ飛んだ。
「風夜!?」
「空兄様!」
壁に背を強打した二人を、元大臣は冷たい目で見る。
「……ふん、言葉には気をつけろ。この国の王は私だ。逆らう者は許さん!」
そう言いつつ、玉座から立ち上がる。
その背には、いつの間にか巨大な翼が二対生えていた。
「お前……、その姿……」
翼を生やした元大臣を見て、光輝が呟く。
「私は、この国の王になると同時に、最上級クラスの魔族になった」
「最上級クラス!?」
千歳と昴が息をのむ。
「そうだ。私はあいつらから力を貰い、最上級クラスになったのだ。だが、構わないだろう?この国には元々魔族の血が混じっていたのだからな。風夜様に継承権があったのなら、私がなっても問題はないだろう?」
「……あるよ」
「ん?何か言ったか?」
花音が呟くと、元大臣は聞き返してきた。
「問題あるよ!貴方と風夜を一緒にしないで!」
叫ぶように言って、キッと睨み付ける。
「……何だと?」
「……そうだな。お前とは違うだろうな」
顔をしかめた元大臣に、凍矢が続けて言う。
「少なくとも、お前みたいに魔族の侵略を許し、そいつらの力をかさにきたまま、自分の地位だけを確立したりはしないな」
「……本当の王なら、民の事を考えて行動する。自分のことしか考えていないお前みたいな奴は、王に相応しくないと思うぜ」
凍矢と刹那の言葉に、元大臣の表情から笑みが完全に消える。
「……随分、好き勝手に言ってくれる。……いいだろう。そんなに命が惜しくないなら、私の力を見せてやる」
そう言った元大臣が掌に、球体のようなものを宿す。
それは段々と巨大化していき、花音達はその中に吸い込まれた。
4
「ここは?」
呟いて、花音は辺りを見回す。
辺りは暗く、花音達の姿しかない。
「ここは私が作り上げた異空間。この中で起きていることは、他の奴等に知られることはない」
「っ……!」
元大臣がそう言った時、刹那が急に手を押さえるのが見えた。
その手には、黒い電流のようなものが走っている。
「無駄だ。私のこの空間は、魔力の壁。いくら空間を操れるといっても、私の力には及ばないのだからな。……そして、私にはこんな力もある」
元大臣はそう言うと、再び手に力を宿す。
それを風夜の方へ向けたかと思うと、彼の足元から黒い光が立ち上ぼった。
「これはっ…….?……うわあああ!!」
抵抗も出来ないまま、風夜の身体を術が捉える。
「風夜!」
その中で苦痛の声を上げるのを見て、術を止めさせようと元大臣を攻撃しようとした時、風華に服を引っ張られた。
「か、花音ちゃん!あれっ……!」
「えっ?」
花音が風夜の方を指しているのを見て、花音も視線を戻す。
すると、術中に捕らわれている風夜の姿がぶれて見えた。
(まさか、この術って……)
そう思っている間にも、膝を着いている風夜の横にもう一人の姿が浮かび上がり、その存在をはっきりさせていく。
そして、術が終わったのか光が収まった後、《風夜》は俯けていた顔を上げ、不機嫌そうに元大臣を見た。
「……俺を引きずり出して、一体何のつもりだ?」
「お前は魔族なのだろう?同志を助けて、何が悪い?」
「同志?」
「そうだ。あの四人も同志であるお前なら、受け入れてくれる。お前も、我等に協力しないか?」
元大臣が言った時、《風夜》が横にいる風夜と花音を見た気がした。
「……断る」
「……何?」
《風夜》の答えに、元大臣は眉を潜める。
「俺はお前達に協力しないと言ったんだ。……ずっとこいつの中にいて、感化されたのもあるかもしれないが、俺にもこの国への思い入れはある。……何より、あいつらのやり方は、同じ魔族である俺からしても気に食わない。それが理由だ」
「…….協力しないというなら、神族の味方をすると?」
「それも違うな。俺だって、神族は気に入らない。それに近い力を持つ光の一族も。……ただ」
言いつつ、風夜を指す。
「そいつがいるのが、此方だからな。そいつと俺は一心同体。だから、俺はそいつに力を貸しているだけだ」
そう答えた《風夜》に、元大臣から表情が消えた。
「そうか。なら、仕方ない。もし従わないようなら、お前も始末するよう言われてるのでな」
そう言った元大臣の手には、今までよりも強い力が溜められていく。
その時、《風夜》が何かに反応して、元大臣とは違う場所に視線を向け、遅れて刹那も彼と同じ方向を見る。
「!?この力は……」
刹那が呟くのとほぼ同時に、空間が歪み、その中へ引きずり込むような力を感じた。
「「「うわあああ!!」」」
「きゃあああ!」
「風夜!風華ちゃん!空夜さん!」
花音にとってはまだ耐えられるくらいの弱い力だったが、四人にとっては違ったらしく引きずりこまれていく。
「っ!!」
四人を吸い込んだ後、入り口を閉じようとする空間を見て、花音は飛び込む。
「姉上!?」
「花音!?」
光輝と凍矢の驚くような声が聞こえたのを最後に入り口は閉じた。