繋がる絆
1
「任せるって、あいつ……」
言って引っ込んでしまった[風夜]に、風夜が溜め息をつく。
「でも、あんなのどう相手しろっていうのよ」
「……いや、お前達は何もしなくていい。ここにいろ」
「えっ?」
琴音が呟いた時に神蘭の声がして、花音は視線を向ける。
彼女の周りには、封魔達もいた。
「ここにいろって、どういうこと?」
「そのままだ。あいつは、俺達が倒す」
「……行くぞ」
神蘭達が姿を消す。それに溜め息をついたのは、神麗だった。
「……全く、困ったものね。どの代の闘神も、プライド高くて、真面目すぎるわ」
「でも、神蘭様達に比べて、私達が実力的に劣っているのは事実です」
「協力するつもりで、逆に足を引っ張ってしまってもな」
星華と千歳が言う。
その時、それまで会話に加わることがなかった影牙が、風夜を指した。
「なら、そいつはどうなんだ?先程の様子を見る限り、さほど足を引っ張るようには見えないが」
「まぁ、魔族と神族は、本来敵対関係だからな。神蘭様達に協力出来ないから、引っ込んだんだろ」
「いや、違う。今の奴の力は、あいつを上回ってるからな。俺でいた方が影響は受けないそうだ。それに」
昴に首を振ると、風夜は言葉を止め、仲間達を見回した。
最初に火焔を見て、視線を動かしていく。
水蓮と雷牙。
光輝と夜天。
水蓮と美咲。
光輝と紫影。
火焔と空夜と凍矢と水蓮。
何かを確認しているような様子と、そのメンバーに花音は考えていることがわかった気がした。
「そっか。それなら……」
「……成る程な。あの時と同じ方法でいくか」
花音だけでなく、火焔もわかったように呟く。
「ちょっと三人だけでわかってても、私達はわからないよ!」
「何か、策でもあるのか?」
三人の様子を見ていた美咲が声を上げ、凍矢も問い掛けてきた。
「うん。そんなに難しいことじゃないよ」
花音はそう答えると、化け物とかした男の意識が神蘭達に向いているのを確認してから、口を開いた。
「成る程な。そういうのもありか」
風夜と火焔が協力して、キメラを倒した時のことを話すと、夜天が呟いた。
「だが、水蓮達は力を奪われたんだろ?」
「……心配ないわ。この森に来てからの休息で、それなりに回復してるもの」
「まぁ、全快したわけではないから、そんなに乱発は出来ないけどな」
雷牙が視線を向け、水蓮と大樹がそう返す。
「ですが、協力すると言っても、今まで敵対していた私達のことを信じられます?また、裏切るかもしれないのに」
「そう、俺達はそいつ等とも違う。最初から敵だった俺達が協力すると……」
「姉上、兄上」
聖と影牙の言葉に、紫影が口を開いた。
「姉上も兄上も、もうわかったはずだ。あいつ等の本性が、どんな奴等なのか。……あいつ等は、俺達一族を利用していた。それに気付かず、他の一族から孤立してしまったのはこの一族だ。だが、一度見放されたからといって、このままでいいわけない。最初から諦めていたら、何も変わらないんだ」
「「…………」」
紫影の言葉に、聖と影牙が何かを考えるように黙る。紫影はそんな二人を見ながら続けた。
「裏切ったのが俺達なら、行動を起こさなければならないのも、俺達なんだ。……一族の罪を償い、また他の一族と共存していく。それは、俺達一族の為でもあるんだ。違うか?」
そこまで言って、紫影が黙ったままの二人を見る。
悠長に話しているような状況でないのはわかっていたが、聖達にも協力してほしくて答えを待った。
「……わかった。とりあえず、今は協力する。これからのことを考えるのは、その後にするわ」
「姉上……」
「せ……」
聖の言葉に、紫影がほっとしたような表情をして、花音も嬉しそうに名を呼ぼうとする。
「それと!」
それを遮るように聖が声を上げ、彼女は花音を見た。
「……その名は、潜入するために使っていた仮の名。今となっては、もう不要な名前よ。……これからは、紫姫と呼んで」
「!!……うん!」
そう言われ、花音は頷く。
これからのことは後で考えると言っていたが、改めて本名を明かしたその言葉が答えのようにも感じた。
2
ドオオン
爆発音が聞こえ、神蘭達の方へ視線を移す。
すると、今ので吹っ飛ばされたのか、地に伏しているのがわかった。
「……行こう」
それを見て、もう話している時間はないと思い、花音は声を上げた。
詳しいことは何も話せていないが、もうやるしかなかった。
このままのんびりしていて、神蘭達を失うわけにはいかないのだから、皆のことを信じるしかなかった。
「「「神蘭様!」」」
「!!」
駆け寄っていく千歳、星華、昴に神蘭が目を見開く。
「お前達、何故出てきた!?こいつは、私達が……」
「……無理よ。貴女達だけじゃ……」
神蘭の言葉を神麗が遮る。
「なっ!?」
「別に貴女達が弱いわけじゃない。ただ、今回は相手が悪いわ。……さっきの[彼]の言葉を借りるなら、最上級クラスの魔族に匹敵するくらいの力を持っている。下手すれば、窮姫達以上の力を……。だから、[彼]も貴方に戻ったのでしょう?」
最後の一言だけ風夜に向けた神麗に、彼は頷く。
「そうらしいな。まだ、俺のままでいた方が受ける影響は少ないみたいだ」
そう言いながらも、風夜は元研究者の男が放っている魔力に当てられている様子の沙羅と黄牙を見ていた。
「ね?下手な賭けに出て、無駄に命を散らすよりは、協力した方がいいと思うけど?」
「……どちらにしても、賭けは賭けだと思うが……、まあいい。そっちの賭けに乗ろう」
「「「「神蘭!?」」」」
返した神蘭の言葉に、封魔達は声を上げたが、それを聞いた神麗は嬉しそうに笑った。
「ふふ、良かったわ。蘭ちゃんが話のわかる子で。プライドばかり高くて、頭の固いお偉いさんや、今までの闘神達に似なくて……」
「但し、奴の注意を引くのと動きを止めるのは、私達がやる。それだけは譲れない」
妥協案というように神蘭が言う。
だが、理性をなくし暴れている化け物化した元研究者の男を止める方法は思い付いていなかった為、その申し出は有り難かった。
3
「……駄目だ。全然、効いてないみたいだぞ」
神蘭達が隙をつくってくれるのに合わせて、攻撃しているのだが、聞いている様子がないことに、夜天が呟く。
「このままだと、此方が消耗していくだけだ」
「……ねえ、そういえば、あの姿になる前に着てた防具ってどうなったんだろうね」
「って、何で今、そんなことを言ってるの?」
「いや、だって、気になっちゃって……」
琴音に突っ込まれて、美咲が苦笑する。
だが、それを聞いて花音は、はっとしたように元研究者の方を見た。
理性をなくしたことで、感覚も鈍くなっているのかと思っていたが、よく見ると身体を何かが覆っていた。
(もしかして)
花音がそう思ったのと同時に、雷牙が攻撃し、元研究者の身体に電気が走る。
だがそれは、身体というより、周りにある何かを伝っているだけのようでもあった。
「……気付いたか?」
その時、近くに来た封魔が言う。
「あいつが付けていた防具、それがあいつの身体を甲羅のように覆っている」
「あれをどうにかしなければ、ダメージを与えられないんだろうけどな」
「でも、どうするんだ?これだけ攻撃していても、誰の攻撃も通っていないんだぞ」
「…………」
光輝と紫影の声を聞きながら、花音は考え込んだ。
(一か八かだけど……)
頭の中である方法が思い浮かび、口を開く。
「……一つ思い付いたことがあるんだけど」
「思い付いたって」
「上手くいくかはわからないけど、このままでいるよりは……」
そう言いつつ、花音は火焔と水蓮を見る。
「俺達か?」
「うん。二人は交互に攻撃して。何処を狙ってもいいけど、出来るだけ一点集中で。それから」
二人から視線を外し、風夜と凍矢を見る。
「風夜と凍矢くんは、二人をサポートして。風夜は火の威力が高まるように、凍矢くんは水の温度を出来るだけ下げて」
それはまだ何も知らなかった頃、本かテレビで見たものを思いだして、思いついた方法だった。
「!!今、何か音がした!」
花音が思い付いた方法を四人が試し始め、何度目かの攻撃のあと、蒼牙が呟く。
「音って、何の?」
「小さい音だったけど、何かが割れたような……、あ、また聞こえたよ。さっきより大きい」
蒼牙がそう言った時、元研究者で今は化け物の身体を覆っている甲羅の一部が砕けたのが見えた。
そこから皹が入り、次第に広がっていく。
その間にも風に煽られ、威力を増した炎と極限まで冷やされた水の渦は、容赦なく叩き付けられていて、最後には甲羅は完全に砕け散った。
「グガアアア!」
それまで身を守っていたものを失い、身体へと攻撃が当たる。
それにより、初めてダメージと呼べるダメージを与えることが出来たが、それは同時に相手を苛つかせたようでもあった。
「ウグオオオ」
雄叫びを上げ、花音達の方へ突っ込んでこようとする。
だが、それよりも前に、五本の光の筋がその巨体を捉え、鎖のように両手足と腰に巻き付き、その動きを封じた。
「任せるって、あいつ……」
言って引っ込んでしまった[風夜]に、風夜が溜め息をつく。
「でも、あんなのどう相手しろっていうのよ」
「……いや、お前達は何もしなくていい。ここにいろ」
「えっ?」
琴音が呟いた時に神蘭の声がして、花音は視線を向ける。
彼女の周りには、封魔達もいた。
「ここにいろって、どういうこと?」
「そのままだ。あいつは、俺達が倒す」
「……行くぞ」
神蘭達が姿を消す。それに溜め息をついたのは、神麗だった。
「……全く、困ったものね。どの代の闘神も、プライド高くて、真面目すぎるわ」
「でも、神蘭様達に比べて、私達が実力的に劣っているのは事実です」
「協力するつもりで、逆に足を引っ張ってしまってもな」
星華と千歳が言う。
その時、それまで会話に加わることがなかった影牙が、風夜を指した。
「なら、そいつはどうなんだ?先程の様子を見る限り、さほど足を引っ張るようには見えないが」
「まぁ、魔族と神族は、本来敵対関係だからな。神蘭様達に協力出来ないから、引っ込んだんだろ」
「いや、違う。今の奴の力は、あいつを上回ってるからな。俺でいた方が影響は受けないそうだ。それに」
昴に首を振ると、風夜は言葉を止め、仲間達を見回した。
最初に火焔を見て、視線を動かしていく。
水蓮と雷牙。
光輝と夜天。
水蓮と美咲。
光輝と紫影。
火焔と空夜と凍矢と水蓮。
何かを確認しているような様子と、そのメンバーに花音は考えていることがわかった気がした。
「そっか。それなら……」
「……成る程な。あの時と同じ方法でいくか」
花音だけでなく、火焔もわかったように呟く。
「ちょっと三人だけでわかってても、私達はわからないよ!」
「何か、策でもあるのか?」
三人の様子を見ていた美咲が声を上げ、凍矢も問い掛けてきた。
「うん。そんなに難しいことじゃないよ」
花音はそう答えると、化け物とかした男の意識が神蘭達に向いているのを確認してから、口を開いた。
「成る程な。そういうのもありか」
風夜と火焔が協力して、キメラを倒した時のことを話すと、夜天が呟いた。
「だが、水蓮達は力を奪われたんだろ?」
「……心配ないわ。この森に来てからの休息で、それなりに回復してるもの」
「まぁ、全快したわけではないから、そんなに乱発は出来ないけどな」
雷牙が視線を向け、水蓮と大樹がそう返す。
「ですが、協力すると言っても、今まで敵対していた私達のことを信じられます?また、裏切るかもしれないのに」
「そう、俺達はそいつ等とも違う。最初から敵だった俺達が協力すると……」
「姉上、兄上」
聖と影牙の言葉に、紫影が口を開いた。
「姉上も兄上も、もうわかったはずだ。あいつ等の本性が、どんな奴等なのか。……あいつ等は、俺達一族を利用していた。それに気付かず、他の一族から孤立してしまったのはこの一族だ。だが、一度見放されたからといって、このままでいいわけない。最初から諦めていたら、何も変わらないんだ」
「「…………」」
紫影の言葉に、聖と影牙が何かを考えるように黙る。紫影はそんな二人を見ながら続けた。
「裏切ったのが俺達なら、行動を起こさなければならないのも、俺達なんだ。……一族の罪を償い、また他の一族と共存していく。それは、俺達一族の為でもあるんだ。違うか?」
そこまで言って、紫影が黙ったままの二人を見る。
悠長に話しているような状況でないのはわかっていたが、聖達にも協力してほしくて答えを待った。
「……わかった。とりあえず、今は協力する。これからのことを考えるのは、その後にするわ」
「姉上……」
「せ……」
聖の言葉に、紫影がほっとしたような表情をして、花音も嬉しそうに名を呼ぼうとする。
「それと!」
それを遮るように聖が声を上げ、彼女は花音を見た。
「……その名は、潜入するために使っていた仮の名。今となっては、もう不要な名前よ。……これからは、紫姫と呼んで」
「!!……うん!」
そう言われ、花音は頷く。
これからのことは後で考えると言っていたが、改めて本名を明かしたその言葉が答えのようにも感じた。
2
ドオオン
爆発音が聞こえ、神蘭達の方へ視線を移す。
すると、今ので吹っ飛ばされたのか、地に伏しているのがわかった。
「……行こう」
それを見て、もう話している時間はないと思い、花音は声を上げた。
詳しいことは何も話せていないが、もうやるしかなかった。
このままのんびりしていて、神蘭達を失うわけにはいかないのだから、皆のことを信じるしかなかった。
「「「神蘭様!」」」
「!!」
駆け寄っていく千歳、星華、昴に神蘭が目を見開く。
「お前達、何故出てきた!?こいつは、私達が……」
「……無理よ。貴女達だけじゃ……」
神蘭の言葉を神麗が遮る。
「なっ!?」
「別に貴女達が弱いわけじゃない。ただ、今回は相手が悪いわ。……さっきの[彼]の言葉を借りるなら、最上級クラスの魔族に匹敵するくらいの力を持っている。下手すれば、窮姫達以上の力を……。だから、[彼]も貴方に戻ったのでしょう?」
最後の一言だけ風夜に向けた神麗に、彼は頷く。
「そうらしいな。まだ、俺のままでいた方が受ける影響は少ないみたいだ」
そう言いながらも、風夜は元研究者の男が放っている魔力に当てられている様子の沙羅と黄牙を見ていた。
「ね?下手な賭けに出て、無駄に命を散らすよりは、協力した方がいいと思うけど?」
「……どちらにしても、賭けは賭けだと思うが……、まあいい。そっちの賭けに乗ろう」
「「「「神蘭!?」」」」
返した神蘭の言葉に、封魔達は声を上げたが、それを聞いた神麗は嬉しそうに笑った。
「ふふ、良かったわ。蘭ちゃんが話のわかる子で。プライドばかり高くて、頭の固いお偉いさんや、今までの闘神達に似なくて……」
「但し、奴の注意を引くのと動きを止めるのは、私達がやる。それだけは譲れない」
妥協案というように神蘭が言う。
だが、理性をなくし暴れている化け物化した元研究者の男を止める方法は思い付いていなかった為、その申し出は有り難かった。
3
「……駄目だ。全然、効いてないみたいだぞ」
神蘭達が隙をつくってくれるのに合わせて、攻撃しているのだが、聞いている様子がないことに、夜天が呟く。
「このままだと、此方が消耗していくだけだ」
「……ねえ、そういえば、あの姿になる前に着てた防具ってどうなったんだろうね」
「って、何で今、そんなことを言ってるの?」
「いや、だって、気になっちゃって……」
琴音に突っ込まれて、美咲が苦笑する。
だが、それを聞いて花音は、はっとしたように元研究者の方を見た。
理性をなくしたことで、感覚も鈍くなっているのかと思っていたが、よく見ると身体を何かが覆っていた。
(もしかして)
花音がそう思ったのと同時に、雷牙が攻撃し、元研究者の身体に電気が走る。
だがそれは、身体というより、周りにある何かを伝っているだけのようでもあった。
「……気付いたか?」
その時、近くに来た封魔が言う。
「あいつが付けていた防具、それがあいつの身体を甲羅のように覆っている」
「あれをどうにかしなければ、ダメージを与えられないんだろうけどな」
「でも、どうするんだ?これだけ攻撃していても、誰の攻撃も通っていないんだぞ」
「…………」
光輝と紫影の声を聞きながら、花音は考え込んだ。
(一か八かだけど……)
頭の中である方法が思い浮かび、口を開く。
「……一つ思い付いたことがあるんだけど」
「思い付いたって」
「上手くいくかはわからないけど、このままでいるよりは……」
そう言いつつ、花音は火焔と水蓮を見る。
「俺達か?」
「うん。二人は交互に攻撃して。何処を狙ってもいいけど、出来るだけ一点集中で。それから」
二人から視線を外し、風夜と凍矢を見る。
「風夜と凍矢くんは、二人をサポートして。風夜は火の威力が高まるように、凍矢くんは水の温度を出来るだけ下げて」
それはまだ何も知らなかった頃、本かテレビで見たものを思いだして、思いついた方法だった。
「!!今、何か音がした!」
花音が思い付いた方法を四人が試し始め、何度目かの攻撃のあと、蒼牙が呟く。
「音って、何の?」
「小さい音だったけど、何かが割れたような……、あ、また聞こえたよ。さっきより大きい」
蒼牙がそう言った時、元研究者で今は化け物の身体を覆っている甲羅の一部が砕けたのが見えた。
そこから皹が入り、次第に広がっていく。
その間にも風に煽られ、威力を増した炎と極限まで冷やされた水の渦は、容赦なく叩き付けられていて、最後には甲羅は完全に砕け散った。
「グガアアア!」
それまで身を守っていたものを失い、身体へと攻撃が当たる。
それにより、初めてダメージと呼べるダメージを与えることが出来たが、それは同時に相手を苛つかせたようでもあった。
「ウグオオオ」
雄叫びを上げ、花音達の方へ突っ込んでこようとする。
だが、それよりも前に、五本の光の筋がその巨体を捉え、鎖のように両手足と腰に巻き付き、その動きを封じた。