繋がる絆
1
森を出て、白鬼が残っているという場所へ向かう花音の耳にも、激しい爆音が聞こえてくる。
その場所が近付くにつれ、胸騒ぎもした。
(何だろ?よくわからないけど、凄く嫌な予感がする……)
そう思いながらも、そこへ向かう足を速める。
漸くその場所に着くと、息を切らせている白鬼の前に、花音達が倒したと思っていた男の姿があった。
「「白鬼!」」
声を上げた白夜と鈴麗に、白鬼の意識が此方に向いたのがわかった。
その時、男が彼に手を向けるのが見えた。
「危ないっ!」
そう声を上げたのは誰だったのか。
その声も空しく、彼の身体を男が放った一筋の光線が貫いた。
「ぐぁっ……」
「白鬼!」
「白ちゃん!」
「このっ……!」
更に攻撃しようとした男を、白夜が横から吹っ飛ばす。
鈴麗、神麗に続いて、倒れた白鬼に近付いた花音は、足を止め、口元を手で覆った。
少し離れた場所からでも、その傷口が深いのがわかった。
「ぐっ……」
「傷口が深すぎる。血が止まらない!」
「そんな……」
「はははっ、次はどいつだ?誰でもいいぞ!」
男のそんな声が聞こえてきたが、今はそれに構っていられなかった。
「白鬼!しっかりして!」
段々と虚ろな目になっていく白鬼に、鈴麗が声を掛けるが、それすらきちんと聞こえているのかわからない。
「 」
「えっ?」
傷口を抑え、出血を止めようとしている鈴麗と神麗に、白鬼が何かを言っている。
声が小さすぎて花音には何を言ったのかわからなかった。
「……もういい。俺は助からないから、向こうで白夜を手伝ってやれ」
「えっ?」
「蒼牙?」
不意に呟いた蒼牙を、花音と紅牙が見る。
「あのお兄ちゃんが言ったことだよ」
「……そうか。お前には聞こえるんだな」
「……うん」
悲しげな表情で蒼牙が頷いた時、爆風と共に風夜と白夜が吹っ飛ばされてくる。
「さあ、他の奴等は来ないのか?」
余裕のある笑みを浮かべている男に、白鬼はふらつきながらも立ち上がった。
2
「ん?何だ?まだ動けるのか?」
「…………」
立ち上がった白鬼に、男がそう声を掛ける。
無言のまま精神を集中させるように目を閉じた白鬼の身体を、凄まじいエネルギーが包む。
「!!やめろ!」
「駄目!」
それを見て、何をしようとしているのかわかったらしい白夜と鈴麗が声を上げたが、白鬼は男を見据えたまま口を開いた。
「……俺の性格を知っているだろう。このまま、やられっぱなしで、終われるかっ!」
言って、地を蹴った白鬼が一筋の光になって、男へ突っ込む。
男に当たったと思った瞬間、激しい爆発が起きた。
「……やったのか?」
爆発から顔を庇っていた腕を下ろした刹那が呟く。
それを聞いて、視線を動かした先で、爆発で起きた煙が晴れていく。
「……流石に、今のは効いたぞ」
「!!」
その中から聞こえてきた声に、息をのむ。
見えてきた男の姿は、多少傷を負ってはいたが、まだ表情には余裕があった。
「くっ……」
「さぁ、どうする?今の奴みたいに、自爆技でも使って……」
そこで男が不意に言葉を止めた。
その直後、男の上空、左右から光弾が飛んできて、男の身体を飲み込んで爆発を起こす。
それと同時に、それらを放ったのであろう神蘭、封魔、龍牙が現れた。
「……どうやら、間に合わなかったみたいだな」
「白鬼は、逝ったのか?」
「…….ああ」
「……つい先程」
「……そうか」
封魔に答えた白夜と鈴麗に、神蘭は目を伏せた。
「……ふ、流石に闘神五人では分が悪いな。此処は引き上げるか」
そう言った男が姿を消す。
それと同時に、それまで黙ってただ状況を見ていただけだった火焔も去ろうとしたが、それに気付いた風夜が動いた。
魔力の鎖を飛んでいこうとする飛竜の足へ巻き付け、力一杯引っ張る。
「ギャウッ!」
「ぐっ……」
それでバランスを崩した飛竜が地へ墜ち、乗っていた火焔も身体を叩き付けた。
叩き付けられた痛みからか、直ぐには動けないらしい火焔へ風夜が近付いていく。
そして、火焔の近くに落ちていた紙の束を拾い上げ、それを見ると同時に目を細めた。
「いててっ、何する……!?」
文句を言いかけた火焔の胸ぐらを、風夜が掴む。
「一体、お前は何をしている?」
「何をって……」
「……この間、最後にあった時から思っていた。自分の国の兵を魔族にされた次は、キメラ実験にも使われる。それに対して、お前は何とも思わないのか?それとも、国を守れるなら、兵士を駒にしても構わないとでも思っているのか?」
「違う!そんな訳ないだろ!」
「違わないさ!……お前がとった実験のデータ、それをもとに奴等は実験を繰り返す。兵士達でな!そもそも、過去の実験にお前は反対したのか?」
「それは……」
「……してないんだろ?お前も、水蓮達も、陰の一族の奴等も、ただあいつらの言う通りに動いているだけだ」
そこまで言って、火焔を地に放り投げるように離すと、持っていた紙の束を彼に叩き付け、尻餅をついている火焔を見下ろした。
「もう行け。それを持ってな……そして、もう一度、自分達のしていることを考えてみるんだな」
「…………」
「……それでも、本当に自分達のしていることが正しいと思うなら、勝手にやってろ。ただ……」
まだ立ち上がっていなかった火焔に、風夜が剣先を突き付ける。
それに、花音は思わず目を見開いた。
「……もし奴等の言うことを信じ、これ以上の醜態を晒すなら、その命、なくなると思え」
「……へぇ、親友に対して、随分な態度じゃないか」
「親友ね。……誰のことだか、わからないな。いたような気もするが、……思い当たる奴はいない」
「っ……」
そう返すと、剣を退けた風夜は火焔に背を向け、花音達からも離れるように歩いて行ってしまった。
3
「皆……、すまないな」
森の中に建てた一つの墓標。それを見ながら、神蘭が言う。
「でも、何もない空のお墓って、何だか少し寂しいよね」
神蘭達と今まで行動していて、三人の指示でなのか森の中で待っていた風華が言う。
「仕方ないさ。俺達、神族は亡くなった時、世界へ還るんだ。何も残さずな」
「神族だけでなく、魔族もそれは同じね」
封魔に続いて、沙羅が言う。
「ところで、風夜の奴は何処に行ったんだ?」
未だに戻ってこない風夜を気にしているのか、夜天が聞いてくる。
「森の中にはいると思うんだけど…….、私、探してくるね」
「ピィ、ピィィ!」
声を掛け、風夜を探しにいこうとすると、ついていくと言うように白亜が花音の肩に乗ってきた。
他の仲間達から離れ、風夜を探していた花音が彼を見付けたのは、探しはじめて数分後だった。
「風夜?」
「……花音か?どうした?」
大きな岩の上に座り、ぼんやりとしていたが、花音に気付いて、視線を向けてくる。
「どうしたっていうのは、此方の台詞だよ。何か考え事?」
「…….ああ。ちょっと、火焔のことをな」
「火焔くんのこと?」
花音が聞き返すと、風夜は頷いてから、空を見上げた。
そのまま、ゆっくりと話しだした。
「……幼い頃、俺と火焔はあまり仲がよくなかったんだ。会っては喧嘩し、兄上によく叱られていた」
「うん。少しだけ、夜天くんと雷牙くんから聞いたことあるよ。何があったのかはわからないけど、急に仲良くなっていたって」
「……まあ、それも喧嘩が切っ掛けだったんだよ。口ではなく、実力行使の本気のな」
「原因は?」
花音が聞くと、風夜は首を横に振った。
「……もう覚えてない。だが、それで漸くわかりあえたというか、お互いを認めあったんだよな」
「そういうところが、男の子って感じだね」
言って苦笑した風夜に、花音はくすりと笑ってそう返した。
「それで、その時に約束したんだよ。……もし、どちらかが道を間違えることがあったら、もう片方がそれを正すってな。言葉だけで無理なら、どんな方法を使ってでも止めるって」
「…………」
「あいつは、自国や民を守る為に俺達と道を違えた。だが、度重なる実験、あれに加担しているのを正しいことだとは俺には思えない。それに、今回の白鬼の件と俺達がいなかった時の光の街の件、恐らく神蘭達も後手に回るのはやめるだろう。なら、全面衝突になるのも時間の問題だ」
「……そうかもね」
「……もし、そうなっても、あいつらが戻ってこなければ、火焔達も敵として処理されるだろ。それなら」
そこで、風夜は一度言葉を止める。
「…………それなら、火焔だけは……、俺が手を下す。……あいつを止められなかった、連れ戻せなかったせめてもの償いとして……」
そう言った風夜の表情は、何処か泣き出しそうにも見えて、花音はただそうならないことを祈った。
森を出て、白鬼が残っているという場所へ向かう花音の耳にも、激しい爆音が聞こえてくる。
その場所が近付くにつれ、胸騒ぎもした。
(何だろ?よくわからないけど、凄く嫌な予感がする……)
そう思いながらも、そこへ向かう足を速める。
漸くその場所に着くと、息を切らせている白鬼の前に、花音達が倒したと思っていた男の姿があった。
「「白鬼!」」
声を上げた白夜と鈴麗に、白鬼の意識が此方に向いたのがわかった。
その時、男が彼に手を向けるのが見えた。
「危ないっ!」
そう声を上げたのは誰だったのか。
その声も空しく、彼の身体を男が放った一筋の光線が貫いた。
「ぐぁっ……」
「白鬼!」
「白ちゃん!」
「このっ……!」
更に攻撃しようとした男を、白夜が横から吹っ飛ばす。
鈴麗、神麗に続いて、倒れた白鬼に近付いた花音は、足を止め、口元を手で覆った。
少し離れた場所からでも、その傷口が深いのがわかった。
「ぐっ……」
「傷口が深すぎる。血が止まらない!」
「そんな……」
「はははっ、次はどいつだ?誰でもいいぞ!」
男のそんな声が聞こえてきたが、今はそれに構っていられなかった。
「白鬼!しっかりして!」
段々と虚ろな目になっていく白鬼に、鈴麗が声を掛けるが、それすらきちんと聞こえているのかわからない。
「 」
「えっ?」
傷口を抑え、出血を止めようとしている鈴麗と神麗に、白鬼が何かを言っている。
声が小さすぎて花音には何を言ったのかわからなかった。
「……もういい。俺は助からないから、向こうで白夜を手伝ってやれ」
「えっ?」
「蒼牙?」
不意に呟いた蒼牙を、花音と紅牙が見る。
「あのお兄ちゃんが言ったことだよ」
「……そうか。お前には聞こえるんだな」
「……うん」
悲しげな表情で蒼牙が頷いた時、爆風と共に風夜と白夜が吹っ飛ばされてくる。
「さあ、他の奴等は来ないのか?」
余裕のある笑みを浮かべている男に、白鬼はふらつきながらも立ち上がった。
2
「ん?何だ?まだ動けるのか?」
「…………」
立ち上がった白鬼に、男がそう声を掛ける。
無言のまま精神を集中させるように目を閉じた白鬼の身体を、凄まじいエネルギーが包む。
「!!やめろ!」
「駄目!」
それを見て、何をしようとしているのかわかったらしい白夜と鈴麗が声を上げたが、白鬼は男を見据えたまま口を開いた。
「……俺の性格を知っているだろう。このまま、やられっぱなしで、終われるかっ!」
言って、地を蹴った白鬼が一筋の光になって、男へ突っ込む。
男に当たったと思った瞬間、激しい爆発が起きた。
「……やったのか?」
爆発から顔を庇っていた腕を下ろした刹那が呟く。
それを聞いて、視線を動かした先で、爆発で起きた煙が晴れていく。
「……流石に、今のは効いたぞ」
「!!」
その中から聞こえてきた声に、息をのむ。
見えてきた男の姿は、多少傷を負ってはいたが、まだ表情には余裕があった。
「くっ……」
「さぁ、どうする?今の奴みたいに、自爆技でも使って……」
そこで男が不意に言葉を止めた。
その直後、男の上空、左右から光弾が飛んできて、男の身体を飲み込んで爆発を起こす。
それと同時に、それらを放ったのであろう神蘭、封魔、龍牙が現れた。
「……どうやら、間に合わなかったみたいだな」
「白鬼は、逝ったのか?」
「…….ああ」
「……つい先程」
「……そうか」
封魔に答えた白夜と鈴麗に、神蘭は目を伏せた。
「……ふ、流石に闘神五人では分が悪いな。此処は引き上げるか」
そう言った男が姿を消す。
それと同時に、それまで黙ってただ状況を見ていただけだった火焔も去ろうとしたが、それに気付いた風夜が動いた。
魔力の鎖を飛んでいこうとする飛竜の足へ巻き付け、力一杯引っ張る。
「ギャウッ!」
「ぐっ……」
それでバランスを崩した飛竜が地へ墜ち、乗っていた火焔も身体を叩き付けた。
叩き付けられた痛みからか、直ぐには動けないらしい火焔へ風夜が近付いていく。
そして、火焔の近くに落ちていた紙の束を拾い上げ、それを見ると同時に目を細めた。
「いててっ、何する……!?」
文句を言いかけた火焔の胸ぐらを、風夜が掴む。
「一体、お前は何をしている?」
「何をって……」
「……この間、最後にあった時から思っていた。自分の国の兵を魔族にされた次は、キメラ実験にも使われる。それに対して、お前は何とも思わないのか?それとも、国を守れるなら、兵士を駒にしても構わないとでも思っているのか?」
「違う!そんな訳ないだろ!」
「違わないさ!……お前がとった実験のデータ、それをもとに奴等は実験を繰り返す。兵士達でな!そもそも、過去の実験にお前は反対したのか?」
「それは……」
「……してないんだろ?お前も、水蓮達も、陰の一族の奴等も、ただあいつらの言う通りに動いているだけだ」
そこまで言って、火焔を地に放り投げるように離すと、持っていた紙の束を彼に叩き付け、尻餅をついている火焔を見下ろした。
「もう行け。それを持ってな……そして、もう一度、自分達のしていることを考えてみるんだな」
「…………」
「……それでも、本当に自分達のしていることが正しいと思うなら、勝手にやってろ。ただ……」
まだ立ち上がっていなかった火焔に、風夜が剣先を突き付ける。
それに、花音は思わず目を見開いた。
「……もし奴等の言うことを信じ、これ以上の醜態を晒すなら、その命、なくなると思え」
「……へぇ、親友に対して、随分な態度じゃないか」
「親友ね。……誰のことだか、わからないな。いたような気もするが、……思い当たる奴はいない」
「っ……」
そう返すと、剣を退けた風夜は火焔に背を向け、花音達からも離れるように歩いて行ってしまった。
3
「皆……、すまないな」
森の中に建てた一つの墓標。それを見ながら、神蘭が言う。
「でも、何もない空のお墓って、何だか少し寂しいよね」
神蘭達と今まで行動していて、三人の指示でなのか森の中で待っていた風華が言う。
「仕方ないさ。俺達、神族は亡くなった時、世界へ還るんだ。何も残さずな」
「神族だけでなく、魔族もそれは同じね」
封魔に続いて、沙羅が言う。
「ところで、風夜の奴は何処に行ったんだ?」
未だに戻ってこない風夜を気にしているのか、夜天が聞いてくる。
「森の中にはいると思うんだけど…….、私、探してくるね」
「ピィ、ピィィ!」
声を掛け、風夜を探しにいこうとすると、ついていくと言うように白亜が花音の肩に乗ってきた。
他の仲間達から離れ、風夜を探していた花音が彼を見付けたのは、探しはじめて数分後だった。
「風夜?」
「……花音か?どうした?」
大きな岩の上に座り、ぼんやりとしていたが、花音に気付いて、視線を向けてくる。
「どうしたっていうのは、此方の台詞だよ。何か考え事?」
「…….ああ。ちょっと、火焔のことをな」
「火焔くんのこと?」
花音が聞き返すと、風夜は頷いてから、空を見上げた。
そのまま、ゆっくりと話しだした。
「……幼い頃、俺と火焔はあまり仲がよくなかったんだ。会っては喧嘩し、兄上によく叱られていた」
「うん。少しだけ、夜天くんと雷牙くんから聞いたことあるよ。何があったのかはわからないけど、急に仲良くなっていたって」
「……まあ、それも喧嘩が切っ掛けだったんだよ。口ではなく、実力行使の本気のな」
「原因は?」
花音が聞くと、風夜は首を横に振った。
「……もう覚えてない。だが、それで漸くわかりあえたというか、お互いを認めあったんだよな」
「そういうところが、男の子って感じだね」
言って苦笑した風夜に、花音はくすりと笑ってそう返した。
「それで、その時に約束したんだよ。……もし、どちらかが道を間違えることがあったら、もう片方がそれを正すってな。言葉だけで無理なら、どんな方法を使ってでも止めるって」
「…………」
「あいつは、自国や民を守る為に俺達と道を違えた。だが、度重なる実験、あれに加担しているのを正しいことだとは俺には思えない。それに、今回の白鬼の件と俺達がいなかった時の光の街の件、恐らく神蘭達も後手に回るのはやめるだろう。なら、全面衝突になるのも時間の問題だ」
「……そうかもね」
「……もし、そうなっても、あいつらが戻ってこなければ、火焔達も敵として処理されるだろ。それなら」
そこで、風夜は一度言葉を止める。
「…………それなら、火焔だけは……、俺が手を下す。……あいつを止められなかった、連れ戻せなかったせめてもの償いとして……」
そう言った風夜の表情は、何処か泣き出しそうにも見えて、花音はただそうならないことを祈った。