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造られた命

1
「グアアァン」
檻から出てきて雄叫びを上げる異形の生物に、花音は思わず後退りする。
「な……、何あれ?」
「一体、何を組み合わせたら、あんな姿になるんでしょうね」
「ん?ああ、魔族、精霊、龍、鬼、獣……、それらの種族を組み合わせた結果、このような化け物になったのさ。……さてと、話は終わりだ。……やれ」
その言葉と共に、巨体が素早いスピードで突っ込んでくる。
それを見ても、動けずにいた花音の身体が宙に浮く。
その直後、花音のいた場所に巨体の太い腕が降り下ろされたのを見て、少し血の気が引いた気がした。
「大丈夫?」
「沙羅さん……」
声を掛けられ、自分を後ろから支え宙に浮いている沙羅の方を見ると、背中から黒い翼を生やした沙羅と視線が合う。そこから先程までいた場所に視線を動かすと、K-01の腕が降り下ろされた床は大きく抉れていた。
「ありがとう」
「いいのよ。このくらい……」
彼女が助けてくれなかったら、自分はもう此処にはいなかったかもしれない。そう考えると怖くて堪らなかったが、恐怖を隠すように笑って返す。
「「うわあああ!」」
その時、紅牙と蒼牙の悲鳴が聞こえてきて、慌てて視線を移す。その先では、彼等の小さな身体がK-01の太い腕で吹っ飛ばされていた。
「紅牙!蒼牙!」
二人が壁に叩き付けられる寸前で、朔耶が助ける。だが、彼はそのままK-01の尾で凪ぎ払われてしまった。
「ぐあっ!」
「……まずいわね。……やめなさい!」
追い討ちで朔耶に太い腕が降り下ろされるのを見て、沙羅が魔力で作った鎖でK-01の動きを止めようとする。
「っ……、きゃああぁ!?」
だがそれは逆に利用され、思いきり振り回された後、沙羅は床に叩き付けられた。
「沙羅ー!」
気を失ってしまったらしい彼女の所へ、瑠璃が飛んでいく。
「そんな……」
(皆、一撃で……)
僅かな時間で地に伏した四人を見て、花音はあまりの力の差に愕然とする。
その間にもK-01は倒れている沙羅達の方へ向かおうとしていて、花音は慌てて意識を集中させた。
(お願い……、力を貸して!)
光輝から借りた宝珠が光り出す。
それと同時に、宝珠の力が流れ込んでくる感覚があり、溜めていた力が膨れ上がったのを感じた。
「はあっ!」
その力を此方に背を向けているK-01に向かって放つ。一直線に向かっていった光の筋は、無防備だった背中に命中する。
「ウウウッ、ウガアア」
だが、当たりはしたもののダメージを受けた様子のないK-01が、花音の方を見て唸り声を上げる。
その表情は攻撃されたことに怒りを感じているようなもので、沙羅達からターゲットを変更し、花音へと向かってきた。
「花音!」
真っ直ぐに向かってくるK-01と花音の間に、風夜が割って入ってきて結界を張る。一瞬遅れて、結界に腕が叩き付けられた。
「ぐうぅっ!」
一撃を防がれたことに更に苛立ったらしいK-01が、結界を砕こうと何度も腕を降り下ろす。それを防いでいた風夜は、結界を維持していたが、徐々に皹が入り始める。
「ウガアアァ」
「っ!うわあああ!」
「きゃあああ!」
何度目かの強打でとうとう結界が砕かれ、吹っ飛ばされて、壁に背中を打ち付ける。
「はは、はーはっは。凄いじゃないか、K-01」
意識が霞む中、男の笑い声が聞こえてきた。
「さあ、止めをさせ」
その言葉でK-01が近付いてくる。
その時、花音と一緒に吹っ飛ばされていたはずの風夜が立ち上がったのが見えた。

「誰に、止めをさすだって……?」
その声に花音は、途切れかけていた意識を無理矢理起こし、風夜を見る。
表情は見えなかったが、伝わってくる禍々しさには覚えがあった。
「紛い物のくせに俺を倒そうなんて、千年早い!」
「ウガアアァッ」
風夜の姿が消え、K-01の巨体が倒れる。
「K-01!何をしている!?早く始末しろ!」
「グアアァン」
起き上がったK-01が風夜に腕を叩き付けるように降り下ろす。
だが、風夜はそれを軽々と受け止めて、逆に吹っ飛ばした。
「どうした?もう終わりか?」
「えぇい!何をしている!?」
苛立たしげに声を上げた男が、何か注射器のようなものを取りだし、K-01に近付く。
「さっさと殺せ。さもないと、もっと苦しむことになるぞ」
男に注射を打たれ、苦しんでいたK-01がその言葉に身体を震わせる。
「グオオ」
「……まだやるか」
起き上がったK-01に、風夜が再び姿を消す。
「はあっ!!」
次に彼が姿を現したのは、K-01の目の前で、K-01を思いきり蹴り飛ばした。
「ウガァ!グヌアァ!」
「っ!!」
風夜に蹴りを入れられ、バランスを崩したK-01だったが直ぐに体勢を立て直し、太い腕で殴りかかる。
それを風夜は両腕をクロスさせ防いだが、続いた二発目で後ろへ飛ばされた。
「あ……」
それを見た花音は声を上げたが、彼は空中で一回転して体勢を立て直し、直ぐにK-01に向かっていく。
「はあああっ!!」
「ガアアアッ」
お互いに力を纏わせた拳をぶつけ合い、今度は両方が吹き飛ぶ。
それでも体勢を立て直しては再びぶつかり合うのを、花音はただ見ていることしか出来なかったが、次第に風夜が押され出すのがわかった。
「ぐあっ!!」
何度目かの激突の後、とうとう風夜だけが床へ叩き付けられる。
「グアアッ」
K-01が止めとばかりに、上に飛び上がり、風夜を押し潰そうと彼に向かって急降下する。
それに気付いた風夜が自分の頭上に、魔力で盾を作ったのが見えたが、同じく魔力を身体中に纏わせたK-01が、盾ごと彼を押し潰した。

「風夜ー!」
「ふははっ、一時はどうなるかと思ったが、今度こそ終わりだなぁ」
楽しげに笑う男に、花音は膝をついたまま呆然とする。
「まずいよ。私達だけでも逃げよう!」
いつの間にか、沙羅の傍から花音の近くに来ていた瑠璃が言う。
「逃げようと言われても……」
「だって、この状況やばいよ。結局、風夜もやられちゃったし」
「でも……」
そこでK-01の方を見る。
佇んでいるその巨体……、正確には、その下から今までとは違う力を感じる。
その直後、K-01の身体が下から押し上げられるように吹き飛び、音を立てて倒れた。
「グガアアア!」
「何っ!?」
「!!」
黒く大きな翼が見え、持ち主が姿を現す。
「雑魚の癖に、俺を此処まで追い込むとはな」
その声、姿は風夜だったが、それでも先ほどに比べて、纏っているオーラは更に禍々しいものへと変わり、放つ殺気も重くなっている。
「だが、これで終わりだ」
温度を感じさせない冷たい声で言い、風夜がK-01へ手を向ける。その手に集められている力も、先ほどの比ではないくらい強力なものだった。
「いけない!花音、彼を止めて!」
「えっ?」
意識が戻ったらしい沙羅の声が聞こえてくる。
「止めるって……、どうやって……」
花音一人で今の状態の風夜を止められるとは思わなくて、聞き返す。
「宝珠の力を借りれば、出来る筈。今、これ以上魔族の状態にしておけば、取り返しがつかなくなるかもしれないわ。急いで!」
その言葉に、花音は宝珠を握り締めた。
風夜を傷付けずに止める方法を考えて、沙羅が使った魔力の鎖を思い出し、それを自分の能力に置き換えてイメージする。
(ごめん!風夜)
光の鎖で風夜の動きを止め、僅かに浄化の力も流す。
「うぐっ……」
鎖から逃れようともがく風夜の様子を見ながら、拘束する力と浄化の力を強めていく。
段々と抵抗する力がなくなってきた風夜から鎖から解放すると、同時に彼はその場に倒れこむ。
「朔耶!」
「わかってるよ、姉さん!」
立ち上がり答えた朔耶の身体が光り出し、その姿を巨大な黒い狐に変わっていく。
「乗れ!」
花音がその背に乗るのと同時に、沙羅が魔力の鎖で風夜、紅牙、蒼牙を引っ張りあげ、落ちないように固定する。
全員を乗せたのを確認し、走り出した朔耶を追ってくる気配はなく、あっというまに研究所は遠ざかっていった。
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