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目覚める血

1
飛竜から下り、花音は久し振りに風の国の地を踏んでいた。
「…………」
「何だ。思ってたより、普通だな」
辺りの街の様子を見ながら歩いていた花音は、聞こえてきた刹那の声に足を止めた。
「……おかしいよ」
「花音?」
「だって、だって……」
呟きながら、風の国を脱出した時のことを思い出す。
確かにあの時、陰へのまれていく国を見たのだ。なのに、今はそれ以前の平和だった時と変わらない街の様子があった。
それはいいことの筈なのに、あまりいい気がしない。
風夜もそれは同じらしく、難しい顔をしていた。
「とにかく、もう少し街の様子を見てみましょう」
「あ、君達」
星夢が言って歩きだそうとした時、一人の男性が声を掛けてきた。
「何ですか?」
「北の方へは行かない方がいいよ。向こうは危険だからな」
そう言って、男性は立ち去っていく。
「北へは行かない方がいい……ねぇ。どうする?」
「行ってみよう」
「そうだな」
「まぁ、そう言うと思ったけどな」
星夢の問い掛けに答えた花音と風夜に、刹那は肩を竦めた。
「これは、また……」
「随分と様子が違うわね」
男が言っていた北の方へ来て、刹那と星夢が呟く。
風の国へ入ってきて、最初に見た平和な光景とは違い、そこは陰に覆われていて、空も見えなかった。
「一体、この違いは……」
「風夜様!?花音様!?」
聞こえてきた声に振り返る。
「お前は?」
「あの襲撃まで、城のメイドをしていた者です」
少し警戒しているような声の風夜に、少女はそう返す。
「ところで気になっていたことがあるんだけど、この辺りと向こうの様子が随分違うのは何故なの?」
「ええ。そのこともお話しします。ですが、話も長くなりますし、まずは私の家へ」
少女はそう言うと、花音達を案内するように歩き出した。

「どうぞ」
少女の家に着き、人数分の紅茶をいれて、花音達に渡してくれる。
「ありがとう」
「それで、一体この状況はどうなってるんだ?」
「はい。……お二人が脱出した後、一度は国全体が陰に呑まれました」
話を切り出した風夜に、少女が話し始めた。
「陰に覆われたことで、光が当たらなくなり、まず影響があったのは植物です。草木は枯れ、作物は育たなくなり、そのせいで少なくなった食料を求め、トラブルはありました」
「……それで?」
「色々なものが足りなくなり、人々の心も荒れてきた時、一人の女性が現れ、こう言ったんです。……自分達の下へつけば、その者達を助けると。それを王や空夜様、風華様は突っぱねました。……ですが」
「……そうじゃない奴もいた?」
呟いた刹那に、少女は頷いた。
「街の人々は疲れていました。そこにそんな言葉を掛けられ、多くの人々が飛び付きました。王達はそんな人々を止めようとしましたが、陰の一族の言葉に乗せられた大臣に地下牢へ」
「そんな!?」
「大方、自分達の下へつけば風の国の中で一番上の地位にしてやるとでも、言われたんだろ?」
吐き捨てるようにそう言った風夜に、少女は頷いた。
「そんな感じです。……そして、人々を説得しようとする王達は、陰の一族にとっても、大臣にとっても邪魔だった。そこに、火、水、地の国が陰の一族についたという話が入ってきたんです。それでも、協力を拒んだ王達を、大臣は陰の一族の提案を蹴り、民を危険にさらした王達は国のトップとして失格だと言い、街の人々も大臣について……」
「処刑が決まったと?」
「「「「!?」」」」
言った風夜に、花音達は一斉に彼を見た。
「……知ってたの?いつから?」
「光の街で窮姫が襲ってきた時、去り際に俺だけに言っていったんだ」
「……だから、様子がおかしかったのね。でも、それなら此処に来たら、奴等の思うつぼなんじゃない?」
「そうですよ!お三方に何かあったとしても、風夜様が無事なら」
「俺は」
少女の言葉を遮るように、風夜が口を開く。
「俺は此処に死にに来たつもりはない。父上達を助ける為に来たんだ」
そう言った風夜の表情からは、強い決意を感じられた。
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