決断の刻
1
「花音」
表情を引き締めた風夜に、花音はそれまで浮かべていた笑みを消す。
「前に他の三人とは、別々に逃げたって話したよな」
「……うん」
「あれは、本当のことじゃない。嘘なんだ」
「嘘?」
「本当は今、あいつらは水の国で捕まっている。俺も操られ利用される前は、そこにいた」
「なら、雷の国は?どうなったの?」
「今のところは大丈夫らしい。光の一族と闇の国が、介入してきたことで、陰の一族もやりにくいみたいでな」
「そっか。よかった」
花音は、安堵の表情で呟く。雷の国が風の国と同じように、完全に陰の一族の手に堕ちてないということだけでもよかった。
「とはいえ、あまり状況はよくないことに変わりはない。火・水・地の一族が奴等についたうえ、夜天、雷牙、光輝の身柄は、向こうの手中にある。奴等は、雷、闇の国と光の一族をおとすのに、水の国を拠点にしているが、その三ヶ所を制圧したら、今は奴等の本拠地になっている風の国へ戻るはず。そうなれば、……あの三人を助け出すのは、難しくなる」
「となると、水の国にいるうちに、三人を助け出さないと」
言って、花音は少し考え込む。
三人を助け出すには、また向こうの世界へ行かなくてはならない。
それを両親が許してくれるのか。
そして、三人を助けるには風夜と二人では厳しい。
理由を話せば、梨沙達は協力してくれるかもしれないが、そうすれば完全に巻き込んでしまうことになる。
それで本当にいいのか。
その二つが気掛かりだった。
「……駄目よ」
「どうして!?」
夕食後、もう一度向こうの世界へ行きたいと言った花音に母が言う。
それに納得出来ず、声を上げると、父が口を開いた。
「花音。私達は、お前が向こうでも安全に暮らせることを条件に残ることを許したんだ。なのに、風の国が制圧されたうえ、火・水・地の一族が陰の一族と共に、残りの国へ侵攻しようとしているそうじゃないか」
「そんな状況なのに、いかせるわけないでしょう」
「でも!」
「でもじゃないの!……花音、私達は、貴女を心配してるの。私達の気持ちもわかってちょうだい。……さぁ、この話はもうおしまい」
そう言った母と父がテレビでやっていたニュースの話を始める。
それを聞きながら、花音はそっとその場を離れた。
「……いいのか?」
両親が眠ってしまってから、そっと家を抜け出した花音に、風夜が声を掛けてくる。
「うん。何を言っても、今はきっと許してくれないから」
「……そうか」
「でも、どうしようか?お父さんとお母さんに内緒で出てきたから、どうすれば向こうに行けるか……」
「それなら、大丈夫よ」
「「!!」」
聞こえた声に、花音と風夜は振り返る。
そこには、蒼、梨沙、未央、彼方、飛鳥の五人の姿があった。
2
「皆……、どうして?」
「どうしてって、行くんでしょ?私達もついていくよ」
「えっ、でも」
「言ったでしょ?協力するって」
言って、梨沙が風夜を見る。
「それで、彼は元に戻ったの?」
「ああ。おかげさまでな」
「ところで、さっき大丈夫って言ってたけど、向こうに行く方法があるの?」
花音の言葉に、彼方が笑みを浮かべる。
「前に言っただろ。俺は、時と空間を操れるって」
「そうそう。日向君は、何処にでも空間を繋げることが出来るから、何処にでも出られるんだよ」
「問題は、何処に繋げるかだけど」
「それなら」
蒼の言葉に、また別の声がした。
「紫影君!?」
「お前が此方に来るときに使った門がある場所。そこにするといい」
「ってそこ、花音達が変な女に襲われて、ばらばらになった場所でしょ。大丈夫なの?」
「ああ。……陰の一族の上層部は、風の国に撤退済みだ。それに、光の一族の地に、下位の者は入れないから、行って直ぐに襲われることはない」
「その言葉、信じていいんだな?」
蒼が、紫影を見る。それに答えたのは、目を閉じ、能力を使っていた飛鳥だった。
「……大丈夫。嘘はついてないみたいよ」
「じゃあ、行こ……」
「「花音!」」
花音の声を遮るように、男女の声がする。
見ると、花音がいないことに気付いたのだろう両親が此方に向かってきていた。
「!!日向君、お願い!」
「いいのか?」
「早く!お願い!」
「……わかった」
彼方が目を閉じて、気を集中させると同時に、花音達の足下に魔方陣が現れる。
そこから花音を引きずりだそうと、両親が手を伸ばしてきたが、それより先に早く視界が光に包まれた。
(お父さん、お母さん、行ってきます)
もう聞こえないだろうと思い、花音は心の中で呟いた。
光がなくなると、そこは花音が元の世界へ戻るときにいた門のある場所だった。
(戻ってきたんだ)
「ねぇねぇ、これからどうするの?」
辺りを見回していた花音に、未央の声が聞こえてくる。
「?」
その声に反応して、振り返った花音は、首を傾げた。
「なんか皆、違くない?」
「まぁ、こっちが本来の姿だからな」
少し雰囲気の違う蒼達の姿に、花音が言うとそう返ってきた。
「それと此方の姿では、この世界の名で呼んでくれ」
「えっと確か……、月城君が凍矢、梨沙ちゃんが琴音、未央ちゃんが美咲、日向君が刹那、飛鳥ちゃんが星夢……だったよね」
思い出しながら、言った花音に五人が頷いた時、何かが羽ばたく音が聞こえてきた。
「何、この音……、あっ!」
そう呟いて、空を見上げた花音は、声を上げた。
此方に向かって、四匹の飛竜が飛んでくる。
そのうちの一匹が、風夜にすりよるのを見て、花音はその四匹が自分達が乗っていた四匹だと気付いた。
「この子達は無事だったんだ」
「ああ。危険を感じて、逃げたんだろうな」
「そっか」
「飛竜か。……懐かしいな」
「そうだね。飛竜の里に返した私の飛竜、元気かな?」
「移動手段は必要だし、行ってみる?」
「飛竜の里?」
美咲と星夢の言葉に花音は聞き返した。
「そう。飛竜達の故郷よ。この世界から出る時に、パートナーだった飛竜達をそこに戻したの。でも、これからは必要になるから、助けに行く前に、飛竜の里へ行きたいんだけど」
琴音に言われ、花音は風夜を見た。
「飛竜の里か。そうだな。夜天達を助けたら、飛竜の数も足りなくなるし」
「決まりだな」
「そこに行くまでは、二人ずつだな」
「私達は、いつも通りでいいかな」
そう言うと、風夜は頷く。
そして、組み合わせが決まった後、二人ずつ乗せた飛竜は、空へと飛び上がっていった。
「花音」
表情を引き締めた風夜に、花音はそれまで浮かべていた笑みを消す。
「前に他の三人とは、別々に逃げたって話したよな」
「……うん」
「あれは、本当のことじゃない。嘘なんだ」
「嘘?」
「本当は今、あいつらは水の国で捕まっている。俺も操られ利用される前は、そこにいた」
「なら、雷の国は?どうなったの?」
「今のところは大丈夫らしい。光の一族と闇の国が、介入してきたことで、陰の一族もやりにくいみたいでな」
「そっか。よかった」
花音は、安堵の表情で呟く。雷の国が風の国と同じように、完全に陰の一族の手に堕ちてないということだけでもよかった。
「とはいえ、あまり状況はよくないことに変わりはない。火・水・地の一族が奴等についたうえ、夜天、雷牙、光輝の身柄は、向こうの手中にある。奴等は、雷、闇の国と光の一族をおとすのに、水の国を拠点にしているが、その三ヶ所を制圧したら、今は奴等の本拠地になっている風の国へ戻るはず。そうなれば、……あの三人を助け出すのは、難しくなる」
「となると、水の国にいるうちに、三人を助け出さないと」
言って、花音は少し考え込む。
三人を助け出すには、また向こうの世界へ行かなくてはならない。
それを両親が許してくれるのか。
そして、三人を助けるには風夜と二人では厳しい。
理由を話せば、梨沙達は協力してくれるかもしれないが、そうすれば完全に巻き込んでしまうことになる。
それで本当にいいのか。
その二つが気掛かりだった。
「……駄目よ」
「どうして!?」
夕食後、もう一度向こうの世界へ行きたいと言った花音に母が言う。
それに納得出来ず、声を上げると、父が口を開いた。
「花音。私達は、お前が向こうでも安全に暮らせることを条件に残ることを許したんだ。なのに、風の国が制圧されたうえ、火・水・地の一族が陰の一族と共に、残りの国へ侵攻しようとしているそうじゃないか」
「そんな状況なのに、いかせるわけないでしょう」
「でも!」
「でもじゃないの!……花音、私達は、貴女を心配してるの。私達の気持ちもわかってちょうだい。……さぁ、この話はもうおしまい」
そう言った母と父がテレビでやっていたニュースの話を始める。
それを聞きながら、花音はそっとその場を離れた。
「……いいのか?」
両親が眠ってしまってから、そっと家を抜け出した花音に、風夜が声を掛けてくる。
「うん。何を言っても、今はきっと許してくれないから」
「……そうか」
「でも、どうしようか?お父さんとお母さんに内緒で出てきたから、どうすれば向こうに行けるか……」
「それなら、大丈夫よ」
「「!!」」
聞こえた声に、花音と風夜は振り返る。
そこには、蒼、梨沙、未央、彼方、飛鳥の五人の姿があった。
2
「皆……、どうして?」
「どうしてって、行くんでしょ?私達もついていくよ」
「えっ、でも」
「言ったでしょ?協力するって」
言って、梨沙が風夜を見る。
「それで、彼は元に戻ったの?」
「ああ。おかげさまでな」
「ところで、さっき大丈夫って言ってたけど、向こうに行く方法があるの?」
花音の言葉に、彼方が笑みを浮かべる。
「前に言っただろ。俺は、時と空間を操れるって」
「そうそう。日向君は、何処にでも空間を繋げることが出来るから、何処にでも出られるんだよ」
「問題は、何処に繋げるかだけど」
「それなら」
蒼の言葉に、また別の声がした。
「紫影君!?」
「お前が此方に来るときに使った門がある場所。そこにするといい」
「ってそこ、花音達が変な女に襲われて、ばらばらになった場所でしょ。大丈夫なの?」
「ああ。……陰の一族の上層部は、風の国に撤退済みだ。それに、光の一族の地に、下位の者は入れないから、行って直ぐに襲われることはない」
「その言葉、信じていいんだな?」
蒼が、紫影を見る。それに答えたのは、目を閉じ、能力を使っていた飛鳥だった。
「……大丈夫。嘘はついてないみたいよ」
「じゃあ、行こ……」
「「花音!」」
花音の声を遮るように、男女の声がする。
見ると、花音がいないことに気付いたのだろう両親が此方に向かってきていた。
「!!日向君、お願い!」
「いいのか?」
「早く!お願い!」
「……わかった」
彼方が目を閉じて、気を集中させると同時に、花音達の足下に魔方陣が現れる。
そこから花音を引きずりだそうと、両親が手を伸ばしてきたが、それより先に早く視界が光に包まれた。
(お父さん、お母さん、行ってきます)
もう聞こえないだろうと思い、花音は心の中で呟いた。
光がなくなると、そこは花音が元の世界へ戻るときにいた門のある場所だった。
(戻ってきたんだ)
「ねぇねぇ、これからどうするの?」
辺りを見回していた花音に、未央の声が聞こえてくる。
「?」
その声に反応して、振り返った花音は、首を傾げた。
「なんか皆、違くない?」
「まぁ、こっちが本来の姿だからな」
少し雰囲気の違う蒼達の姿に、花音が言うとそう返ってきた。
「それと此方の姿では、この世界の名で呼んでくれ」
「えっと確か……、月城君が凍矢、梨沙ちゃんが琴音、未央ちゃんが美咲、日向君が刹那、飛鳥ちゃんが星夢……だったよね」
思い出しながら、言った花音に五人が頷いた時、何かが羽ばたく音が聞こえてきた。
「何、この音……、あっ!」
そう呟いて、空を見上げた花音は、声を上げた。
此方に向かって、四匹の飛竜が飛んでくる。
そのうちの一匹が、風夜にすりよるのを見て、花音はその四匹が自分達が乗っていた四匹だと気付いた。
「この子達は無事だったんだ」
「ああ。危険を感じて、逃げたんだろうな」
「そっか」
「飛竜か。……懐かしいな」
「そうだね。飛竜の里に返した私の飛竜、元気かな?」
「移動手段は必要だし、行ってみる?」
「飛竜の里?」
美咲と星夢の言葉に花音は聞き返した。
「そう。飛竜達の故郷よ。この世界から出る時に、パートナーだった飛竜達をそこに戻したの。でも、これからは必要になるから、助けに行く前に、飛竜の里へ行きたいんだけど」
琴音に言われ、花音は風夜を見た。
「飛竜の里か。そうだな。夜天達を助けたら、飛竜の数も足りなくなるし」
「決まりだな」
「そこに行くまでは、二人ずつだな」
「私達は、いつも通りでいいかな」
そう言うと、風夜は頷く。
そして、組み合わせが決まった後、二人ずつ乗せた飛竜は、空へと飛び上がっていった。