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決断の刻

1
「二つ目の……」
「ん?」
「二つ目の術者の術を打ち消すのって、どうすればいいの?」
「簡単な話だ。術者とは、また別の力をぶつけて、跳ね返せばいい。だけど」
「だけど?」
「さっきも言ったけどな。かなり強い術がかけられている。それを消すには、それと同じ強さ以上の力が必要だ。中途半端な力量だと、かえって苦しめることになる。……それでもやるのか?」
紫影に聞かれ、花音は頷く。
「……それでも、やるしかないよ。……私は助けたい。今度こそ」
そこまで言ったところで、紫影が呆気にとられたような顔をしているのに気付いた。
「どうしたの?」
「……お前、俺が言ったこと、信じるのか?……陰の一族は敵だろ?なのに……」
「紫影くんが嘘をついているようには見えないから。だから、信じるよ」
「……」
その時、風夜が襲ってきた辺りから、大きな音が聞こえてきた。
「!!……行こう」
「待って!花音!」
「!待てっ!俺も行く!」
音を聞いて走り出した花音の後を、飛鳥と紫影が追い掛けてくる。
元の場所へ戻った花音が見たのは、両手足を蔓のようなもので縛られ、何か透明な空間に閉じ込められている風夜と、肩を大きく上下させて、息を整えている蒼達だった。
「皆……!」
「「「「!!」」」」
駆け寄る花音に、蒼達が気付いて振り返る。
「花音ちゃん!?戻ってきちゃったの!?」
「……うん」
未央に頷いて、動きを封じられている風夜を見る。
(今、助けてあげるから)
「……拘束解いてあげて」
「はっ?何言って……。ようやく、動きを封じたところだったのに……」
「いいから!」
そう言った花音に、蒼と未央、梨沙、彼方が視線を交わしあった。
少しして彼方と未央が溜め息をついたと思うと、風夜を閉じ込めていた空間と縛っていた蔓が消える。
それを確認した次の瞬間、花音は地面に叩き付けられていた。
「「花音[ちゃん]!」」
「「っ!!」」
「大丈夫だから、手出さないで!」
紫影の話を一緒に聞いていた飛鳥以外の四人が動こうとするのを、花音は叫んで止める。
そして、自分を地面に叩き付け、上にのし掛かっている風夜を見上げる。
無表情で見下ろしてくる彼に向けて、手を伸ばすと意識を集中させた。
「……っ……!」
花音の翳した手から光が溢れ、それを浴びた風夜の表情が歪む。
(!?何か出てきてる……!)
それと同時に、風夜の背から黒いものが浮き出てくるのが見えた。
「やっぱり、陰を直接乗り移らせていたか」
紫影の声が聞こえて、花音はそれを追い出せば、風夜を助けられると確信する。
徐々に力を強めていくと、風夜の身体から段々と陰が出てくる。
「……花……音……?」
自分の意識を取り戻したのか、呟いた風夜に笑いかける。
「ごめんね。あと少しだから……」
そう返して、一気に終わらせてしまおうとした時、別の方向から禍々しい、強大な力が加わったのを感じた。
「ぅぐああぁ」
「っう……」
その瞬間、折角出せつつあった陰が風夜の中に戻り始める。
それに花音は、慌てて自分が出せる力を最大まで引き上げたが、それでも徐々に押し込まれていた。
再び目から光が消えた風夜が、剣を振り上げる。
「っ……」
「させないっ!」
それでも諦めたくなくて、手に意識を集中させていると、そう声がして花音の体に蔓が巻きつく。
そのまま、風夜から離すように引っ張られ、集中出来ず能力が中断される。
そのせいで、風夜の中に完全に陰が戻ってしまった。
「ああっ!?未央ちゃん、何するの!?」
「……もう無理だ」
答えたのは妨害してきた未央ではなく蒼で、その手には氷で造った剣を握っていた。
「無理って、何が……」
「彼奴を元に戻すのがよ」
「もう、彼奴を止めるには倒すしかない」
「そ、そんなことないよ!だから、もう一回……」
梨沙と彼方の言葉にそう返す。
「……いや、無理だ」
紫影の声がして、彼の方を見る。
「お前だって、わかっただろ?術を掛けた奴は、今のお前より遥かに強い力を持っている。元に戻すのは……」
「そんなことわかってるよ!でも!!」
(諦めるなんて出来ない!……諦めたくないよ!)
そう思いながら、風夜を見る。彼は、手に力を溜めているところで、花音はそれが放たれる前に走り出した。
(お願い!元に戻って!)
飛び付くように風夜を地面へ倒し、彼の胸に手を当て、そのまま力を注ぎ込む。
再び別の力が加えられてきて、花音はその力に押しきられそうになるのを堪える。
(……これじゃ。さっきと状況が変わらない。もっと強い力じゃないと、もっと……!)
その強い思いに反応したように、ペンダントが光り出す。
(もっと強く!もっと、もっと……!)
ペンダントの光が強く、大きくなっていく。
(まだ、足りない!これじゃ、まだ風夜を助けられない!)
更に力を強めた時、ピキッと何かが割れるような音が聞こえてくる。
それと同時に、少しずつだが、自分の中に力が流れ込んでくるのを感じた。
(これなら、いける!)
風夜の身体を通してせめぎあっていた力が、徐々に向こう側へ傾いていく。
「うああああっ!」
それに手応えを感じて、一気に力をはねあげる。
その時、ペンダントが砕け散ったようにも思えたが、それを気にしているような状況ではなかった。
「うぐっ……、あああっ!」
苦痛の声を上げた風夜から、黒いものが飛び出し、消えていく。
意識を失い、倒れてきた彼を抱き止めた時には、花音自身も限界で、段々と意識が遠くなっていった。
「……ん……?」
「花音!」
意識が回復し、目を開けた花音は、傍にいたらしい母に抱き締められて目を丸くした。
「お母さん?」
「よかった……、本当に」
「私……」
「帰ってきたら貴女の部屋は荒らされてるし、姿もないから心配してたの。そしたら、月城君と日向君が貴女と風夜君を連れてきてくれてね。……陰の一族に、襲われたんですって」
その言葉に花音は慌ててベッドから下りる。
「花音?」
「お母さん!風夜は!?」
「客間よ。どうしたの、一体」
「ちょっとね」
そう返し、客間に向かう。本当に元に戻ったのかが気になった。
「風夜!」
「……花音?」
意識が戻っているのかも確かめず、飛び込んだ花音を中にいた風夜が少し驚いたように見る。
その表情が、だんだんばつの悪そうなものへ変わるのを見て、花音は口を開いた。
「……覚えてるの?」
「……ああ。全部な。……悪かったな」
「ううん。でも、よかった。またこうやって、話が出来て……。……おかえり」
そう言った花音に、風夜は少し目を見開いて、直ぐにいつもの表情へ戻った。
「ただいま」
その言葉に花音は笑みを浮かべた。
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