決断の刻
1
「ん……?」
両親が仕事で遅くなると言っていた日、眠っていた花音はふと人の気配を感じて目を覚ました。
(お父さん?お母さん?)
帰ってきた両親が何か用があってきたのかと思い、すぐにそうではないことに気付く。
殺気を感じて、身を起こすと、寝ていた位置に剣が突き刺さる。
「嘘っ……」
襲ってきた人物の顔を見て、呟く。
此方を光を失った目で見る風夜が、剣を構え直すのを見ても信じられなかった。
「どうして?風夜……」
「……げろ」
襲ってきたのが彼とは信じたくなくて、茫然と呟いた時、そう声が聞こえて花音ははっと彼を見た。
剣を持つ右手を左手で抑えている風夜の目には、僅かに光が戻っていたが、表情は苦しげに歪められている。
「……逃げろ。……長くは……もたない……っ」
「っ……」
その言葉に、風夜が自分を逃がそうとしてくれているのだと気付き、花音は部屋を飛び出した。
「!!」
家を出たところで、花音は足を止める。
目の前には、聖と襲ってきた女がいて、楽しそうな笑みを浮かべていた。
「聖ちゃん!?それに……」
「フフ、いいの?足を止めて。此処じゃ、すぐに追い付かれてしまうわよ」
女の言葉に花音は後ろを振り返る。だが、まだ追ってきている様子はなかった。
それに気づいて、女が顔をしかめる。
「……まだ抵抗するだけの力があるみたいね。だけど」
言葉と共に、女が何かを握り潰すようなしぐさをする。
「うわああぁ!」
「風夜っ……!」
聞こえてきた声に戻りそうになる。
だが、その前に何かが壊されるような音を聞いて、戻るのをやめ、花音は走り出した。
2
「っ……」
再び襲ってきた風夜から走って逃げる 。
どうしてこんなことになっているのかわからない。
でも、風夜のことを攻撃することだけはしたくなかった。
そんなことを思いながら、走っていたが、不意に足元へ風の刃が打ち込まれて、花音は足を止める。
気付いた時には、花音の頭上を飛び越えた風夜が前に立ち塞がっていた。
「風夜?ねぇ、どうしちゃったの?」
冷たい表情のまま、花音を見ている風夜に声を掛けるが、返事は返ってこない。
それどころか、剣の周りに風を纏わせて、それを花音に振るおうとする。
その時、何かのメロディーのようなものが聞こえてきた。
「何、この音……」
「ぅぐっ……」
聞こえてきた音に花音が呟いた時、風夜が呻いて、膝をつく。
「な、何……」
「「花音[ちゃん]!!」」
それを訳もわからずに見ていると、声と共に、両側から手を引っ張られた。
「今のうちに逃げるよ!」
「ほら、早く!」
声を掛けてきたのは未央と飛鳥で、花音は抵抗できないまま、引っ張られていく。
いつの間にかメロディーは聞こえなくなり、立ち上がった風夜の前に、蒼と彼方が立ち塞がっているのが見えた。
「さてと、この辺りで大丈夫かな。……じゃあ、私は向こうを手伝ってくるね」
そう言い、未央が来た道を戻っていく。それを見ながら、花音はその場に座り込んだ。
「ちょ、花音!?」
「どうして……、何で風夜が……私のこと……」
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
飛鳥がそう声を掛けてきたが、花音はいつもどおりに振る舞うことは出来なかった。
火焔達が寝返ったことにはショックを受けても、まだ立ち直ることが出来た。
だが、風夜は絶対に自分の味方だと、危害を加えることはしないと信じていたからか、今の状況が受け入れられなかった。
その時、誰かが近づいて来る気配がした。
「!!……誰っ!?」
困ったような表情で花音を見ていた飛鳥が、はっとしたように振り返る。
その先には、いつの間にか一人の少年が立っていた。
「俺は、紫影。……陰の一族さ」
「!!」
その言葉に空気が張り詰める。
「そう警戒しないでくれ。俺はただ、あの風夜って奴の状態と、どうすればいいかを教えにきたんだ」
「陰の一族の者が、そんなことしていいの?」
警戒したまま、飛鳥が問い掛ける。
「俺は、今回みたいなやり方は嫌いなんだ。……それに、陰の一族全ての者が、他国を制圧しようとしているわけじゃないってことを、知ってほしい」
そう言った紫影の表情は真剣で、嘘をついているようには見えなかった。
3
「教えて。風夜は一体どうしちゃったの?」
「ちょっ……、花音!?」
問い掛けた花音に、飛鳥が慌てて声を掛けてくる。
「いいの?このタイミングで現れるなんて、怪しいじゃない」
言われて、花音は紫影を見る。
何故かはわからなかったが、彼のことは信用していいと思った。
「お願い、教えて」
その言葉に紫影は頷き、話し始めた。
「今の彼奴は操られている。それも抵抗したせいで、かなり強く術をかけられたな」
「抵抗?もしかして……」
紫影の言葉に、花音は心当たりがあった。
再会してから、少し様子がおかしかったこと。
襲ってきた時に言われた「逃げろ」という言葉。
あれらは、風夜が術に抵抗していた時なのだろうと。
「どうすればいいの?」
「術を破るには、幾つか方法がある。一つ目は術者を倒す、二つ目は術者のじゅつを打ち消す、三つ目は掛けられた本人が、自分の意志で術に打ち勝つ、四つ目は掛けられた奴を倒す」
「た、倒すって」
「術を掛けられた奴の死と同時に術は解けるってことだ。ちなみに、三つ目の方法も、余程強い意志を持っていなければ、恐らく……自滅する」
「!?だ、駄目だよ!そんなの!」
咄嗟に花音は声を上げた。そこに、飛鳥の冷静な声が聞こえてくる。
「三つ目と四つ目が駄目なら、一つ目か二つ目のどちらかってことね」
その言葉に、家の前で会った女を思い出す。
恐らく、術者はあの女で間違いない。
だが、今、あの女と対峙したところで、勝てるとは思えない。
となると、もう方法は一つしかなかった。
「ん……?」
両親が仕事で遅くなると言っていた日、眠っていた花音はふと人の気配を感じて目を覚ました。
(お父さん?お母さん?)
帰ってきた両親が何か用があってきたのかと思い、すぐにそうではないことに気付く。
殺気を感じて、身を起こすと、寝ていた位置に剣が突き刺さる。
「嘘っ……」
襲ってきた人物の顔を見て、呟く。
此方を光を失った目で見る風夜が、剣を構え直すのを見ても信じられなかった。
「どうして?風夜……」
「……げろ」
襲ってきたのが彼とは信じたくなくて、茫然と呟いた時、そう声が聞こえて花音ははっと彼を見た。
剣を持つ右手を左手で抑えている風夜の目には、僅かに光が戻っていたが、表情は苦しげに歪められている。
「……逃げろ。……長くは……もたない……っ」
「っ……」
その言葉に、風夜が自分を逃がそうとしてくれているのだと気付き、花音は部屋を飛び出した。
「!!」
家を出たところで、花音は足を止める。
目の前には、聖と襲ってきた女がいて、楽しそうな笑みを浮かべていた。
「聖ちゃん!?それに……」
「フフ、いいの?足を止めて。此処じゃ、すぐに追い付かれてしまうわよ」
女の言葉に花音は後ろを振り返る。だが、まだ追ってきている様子はなかった。
それに気づいて、女が顔をしかめる。
「……まだ抵抗するだけの力があるみたいね。だけど」
言葉と共に、女が何かを握り潰すようなしぐさをする。
「うわああぁ!」
「風夜っ……!」
聞こえてきた声に戻りそうになる。
だが、その前に何かが壊されるような音を聞いて、戻るのをやめ、花音は走り出した。
2
「っ……」
再び襲ってきた風夜から走って逃げる 。
どうしてこんなことになっているのかわからない。
でも、風夜のことを攻撃することだけはしたくなかった。
そんなことを思いながら、走っていたが、不意に足元へ風の刃が打ち込まれて、花音は足を止める。
気付いた時には、花音の頭上を飛び越えた風夜が前に立ち塞がっていた。
「風夜?ねぇ、どうしちゃったの?」
冷たい表情のまま、花音を見ている風夜に声を掛けるが、返事は返ってこない。
それどころか、剣の周りに風を纏わせて、それを花音に振るおうとする。
その時、何かのメロディーのようなものが聞こえてきた。
「何、この音……」
「ぅぐっ……」
聞こえてきた音に花音が呟いた時、風夜が呻いて、膝をつく。
「な、何……」
「「花音[ちゃん]!!」」
それを訳もわからずに見ていると、声と共に、両側から手を引っ張られた。
「今のうちに逃げるよ!」
「ほら、早く!」
声を掛けてきたのは未央と飛鳥で、花音は抵抗できないまま、引っ張られていく。
いつの間にかメロディーは聞こえなくなり、立ち上がった風夜の前に、蒼と彼方が立ち塞がっているのが見えた。
「さてと、この辺りで大丈夫かな。……じゃあ、私は向こうを手伝ってくるね」
そう言い、未央が来た道を戻っていく。それを見ながら、花音はその場に座り込んだ。
「ちょ、花音!?」
「どうして……、何で風夜が……私のこと……」
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
飛鳥がそう声を掛けてきたが、花音はいつもどおりに振る舞うことは出来なかった。
火焔達が寝返ったことにはショックを受けても、まだ立ち直ることが出来た。
だが、風夜は絶対に自分の味方だと、危害を加えることはしないと信じていたからか、今の状況が受け入れられなかった。
その時、誰かが近づいて来る気配がした。
「!!……誰っ!?」
困ったような表情で花音を見ていた飛鳥が、はっとしたように振り返る。
その先には、いつの間にか一人の少年が立っていた。
「俺は、紫影。……陰の一族さ」
「!!」
その言葉に空気が張り詰める。
「そう警戒しないでくれ。俺はただ、あの風夜って奴の状態と、どうすればいいかを教えにきたんだ」
「陰の一族の者が、そんなことしていいの?」
警戒したまま、飛鳥が問い掛ける。
「俺は、今回みたいなやり方は嫌いなんだ。……それに、陰の一族全ての者が、他国を制圧しようとしているわけじゃないってことを、知ってほしい」
そう言った紫影の表情は真剣で、嘘をついているようには見えなかった。
3
「教えて。風夜は一体どうしちゃったの?」
「ちょっ……、花音!?」
問い掛けた花音に、飛鳥が慌てて声を掛けてくる。
「いいの?このタイミングで現れるなんて、怪しいじゃない」
言われて、花音は紫影を見る。
何故かはわからなかったが、彼のことは信用していいと思った。
「お願い、教えて」
その言葉に紫影は頷き、話し始めた。
「今の彼奴は操られている。それも抵抗したせいで、かなり強く術をかけられたな」
「抵抗?もしかして……」
紫影の言葉に、花音は心当たりがあった。
再会してから、少し様子がおかしかったこと。
襲ってきた時に言われた「逃げろ」という言葉。
あれらは、風夜が術に抵抗していた時なのだろうと。
「どうすればいいの?」
「術を破るには、幾つか方法がある。一つ目は術者を倒す、二つ目は術者のじゅつを打ち消す、三つ目は掛けられた本人が、自分の意志で術に打ち勝つ、四つ目は掛けられた奴を倒す」
「た、倒すって」
「術を掛けられた奴の死と同時に術は解けるってことだ。ちなみに、三つ目の方法も、余程強い意志を持っていなければ、恐らく……自滅する」
「!?だ、駄目だよ!そんなの!」
咄嗟に花音は声を上げた。そこに、飛鳥の冷静な声が聞こえてくる。
「三つ目と四つ目が駄目なら、一つ目か二つ目のどちらかってことね」
その言葉に、家の前で会った女を思い出す。
恐らく、術者はあの女で間違いない。
だが、今、あの女と対峙したところで、勝てるとは思えない。
となると、もう方法は一つしかなかった。