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決断の刻

1
元の世界に戻って来て、二週間。
花音は、自宅へと全力で走っていた。
昼休みに届いた母からのメールを見てから、授業終了を今か今かと待ちわび、終わると同時に飛び出してきたのだ。
家が見えてくるにつれて、思わず笑みが浮かんでくる。
「ただいま!」
「あら、おかえ……」
「お母さん!メールに書いてあったこと、本当!?」
言い終わる前に聞くと、母は苦笑を浮かべた。
「ええ、本当よ。客間に寝かせているから、そろそろ気が付くんじゃないかしら?」
「ありがとう!」
そう言って、着替えることもしないで、制服のまま花音は客間に向かった。
客間について、扉を開ける。すると、中にいた銀髪の少年がちょうど身を起こしたところだった。
「風夜!」
その姿を見て、花音は彼の近くに駆け寄る。
「よかった。無事だったんだね」
「……ああ」
「で、他の皆は?」
風夜しかいないことに、後の三人はどうなったのか気になり、問い掛ける。
「あの後、一度ばらばらで逃げたんだよ。それでまた戻って、此方に来たんだ。でも、まだ三人は来てないみたいだな」
「そっか。うん、でも逃げたなら、三人も無事だよね」
花音は安心したように笑う。
一人で此方に来てしまい、あの後、どうなったのかわからなかった為、無事がわかっただけで安心出来た。
「そうだ。あのね、風夜に紹介したい人達がいるんだ」
「紹介したい人達?」
「うん。私のクラスメイトなんだけど、元々は向こうの世界の人だったんだって」
「……ふぅん」
「風夜のことも紹介したいし、明日、皆に都合のいい日を聞いてみるね」
「……ああ」
そこまで話して、花音は首を傾げる。
何だかいつもと様子が違う気がした。
「風夜?」
「……ああ。悪い。……まだ少し怠くてな」
「そっか。疲れてるよね。夕食出来たら、また来るから休んでていいよ」
そう言って、花音は部屋を出た。
2
「何だか、今日は機嫌がいいね。何かいいことあった?」
「えっ?」
次の日、未央に唐突に言われ、花音は目を見開く。
「確かに、何だか嬉しそうだよ」
「うん。実はね」
梨沙にも言われて、花音は昨日、風夜と再会したことを話した。
「そうだったんだ。よかったね、花音ちゃん」
「うん!」
話し終わると、未央が嬉しそうに笑って、声を掛けてくる。
「いろいろあって、疲れてるみたいだから、今度紹介するね」
「楽しみにしてるよ」
梨沙もそう返してきて、花音も笑って返す。
その横で、飛鳥が難しい表情をしていたことには、気が付かなかった。
「花音」
帰ろうとして、飛鳥に呼び止められる。
「何、飛鳥ちゃん」
「気を付けて。……周りに貴女を狙う影が見えたの」
「それって、聖ちゃん?それとも」
風夜達と別れる原因になった謎の女を思い出し、首を振る。
「詳しくはわからないけど、貴女の近くにいる。油断しない方がいいよ」
「うん。わかった。ありがとう。でも、大丈夫だよ。今は風夜もいるし」
そう返すと、飛鳥はクスリと笑った。
「信頼してるのね」
「うん!あ、でも、風夜だけじゃないよ。皆のことも」
「そんな風にとってつけたように言わなくてもいいよ。それより、ほら、早く帰るんでしょ?」
言われて、花音は急いで教室を出る。
「……まさかね」
花音がいなくなった後、飛鳥がそう呟いたことは、知らなかった。

「それでね、未央ちゃんと梨沙ちゃんが……」
「……っ……」
家に帰り、学校でのことを話していると、急に風夜が頭に手を当て、息を詰めた。
「どうしたの?具合悪い?」
「いやっ……、何でもない……」
「でも、此方で再会してから、よく押さえてるよね」
「本当に、何でもない。……悪いけど、今日は……」
「……うん」
頷いて部屋を出る。
何故かはわからなかったが、再会してから、風夜の様子が何処かおかしい気がした。
「フフフ……」
同時刻、花音の家の外にいた聖は、聞こえてきた笑い声に視線を動かす。
そこには、花音達のことを襲ってきた女がいた。
「楽しそうですね」
「フフ、正直、此処まで抵抗してくるとは、思わなかったわ」
「……まだ堕ちていなかったんですか?!」
女の言葉に、聖は驚いたような表情をする。
「ええ、でも……」
「でも?」
「そろそろ限界の筈。……フフ、楽しみね。早くゲームを始めたいわ」
そう言いながら、女は本当に楽しそうな笑みを浮かべていた。
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