決断の刻
1
「……」
次の日、花音は久し振りに制服に袖を通していた。
そして、首から下げているペンダントと左手に付けていたブレスレットを外そうとしてやめる。
(付けたままでも、大丈夫だよね)
花音が通う学校には、何故かアクセサリーに関する校則がない。
それに暫く休学していて、いきなり復帰することが出来ることが不思議でもあったが、父のいう通り、学校へ行けば少しは気を紛らわせることが出来ると思った。
「おはよう。久し振りだね、花音」
「「えっ!?花音[ちゃん]!?」」
久し振りに教室へと入ると、一人の少女が気が付いて声を掛けてきた。
その少女の声で気が付いたのか、少女と話していた別の二人の少女が振り返り、目を見開く。
だが、二人もすぐに笑みを浮かべて、花音の近くへ来た。
「本当、久し振り!」
「なかなか出てこないから、心配してたんだよ」
「うん。ごめんね、梨沙ちゃん。未央ちゃん。飛鳥ちゃん」
三人の顔を見回しながら、花音はそう返す。
如月梨沙、高梨未央、星宮飛鳥。
それが彼女達の名で、三人共、花音と仲のよい友人だった。
キンコンカンコーン
授業終了のチャイムが鳴り、花音は溜め息をついた。
(……やばいな。授業もかなり進んでたから、全然わからなかった)
ずっと休んでいた花音に気を使ってか、当ててくる教師はいなかったが、それも数日間だけだろう。
(帰ったら、頑張らないと!)
「あれ?もう帰るの?」
荷物を纏め、立ち上がったところで、梨沙が声を掛けてくる。
「う、うん。暫く、学校に来てなかったから、頑張って追い付かないと」
「そっか。……ん?」
そこで何かに気が付いたように、飛鳥が声を上げた。
「どうしたの?」
「珍しいね。花音がそんなペンダントしてるの。それに……」
「そのブレスレットも、綺麗だねー」
「確かに。アクセサリーなんて、前はつけなかったのに」
飛鳥に続けて、未央と梨沙が言う。
「うん。……今の私にとって、御守りのようなもので、大切なものなんだ」
「……そう」
花音がそう答えると、三人はふと視線を交わしあう。
それに首を傾げた花音は、時計を見て、慌てて荷物を持った。
「ごめんね、寄りたいところもあるから、もう帰るね。……また明日」
「うん。また明日ね」
そう返してきた未央達に手を振ると、花音は教室を出た。
花音が出ていったのを確認して、三人はそれまで浮かべていた笑みを消す。
そこへ二人の男子生徒が近付いた。
「何か聞けたか?」
「……聞けるわけないじゃない。……聞ける状態じゃないよ」
「……うん。花音ちゃん、無理してた……」
口を開いた一人の男子に、梨沙と未央がそう返す。
「でも、わかったこともあるわ。……あの子は、間違いなく〈向こう〉の世界に行ってた。そして、〈向こう〉で彼処まで落ち込むほどの何かがあった。……今回の事態は、〈向こう〉の世界だけでは終わらない。……いずれにせよ、今は……」
「彼奴から目を離すな……か」
飛鳥ともう一人の少年が言い、五人は窓際に移動する。
五人が見下ろした視線の先には、校門へ向かっている花音の後ろ姿があった。
2
元の世界へと戻ってきて数日。
久し振りの学校にも慣れてきたある日、花音は暗い道を一人で歩いていた。
(わからない所を色々聞いてたら、こんな時間になっちゃった。急いで帰らないと)
近くにある時計が、もうすぐ八時になろうとしているのを見て、足を速めようとして、花音は足を止めた。
「!?」
目の前に黒いものが蠢いている。
「あれって、まさか……」
「ふふ、見付けましたよ」
「!!」
聞こえてきた声に振り返ると、聖が笑っていた。
「聖……ちゃん!?」
「お一人ですか?……ああ、脱出出来たのは、貴女だけでしたね。……ですが、残念でした。この世界に来たところで、私達から逃れられはしないんですよ」
クスリと笑う聖に、花音は少し後ずさる。
「……風夜達は?……皆は、どうなったの?」
「さぁ……、私の知るところではありませんね。それに、今は人の心配をしてる場合ではないですよ」
そう言った聖が放ってきた陰を消そうと力を使おうとして、それより早く身体の自由を奪われてしまう。
「っ……」
「ふふ、此処には風夜様達も、貴女の弟もいない。……誰も助けにはこない」
言いながら、近付いてくる聖の手に、細身の剣が現れる。
「これで終わりです」
身動きのとれない花音に、聖が剣を向ける。
その時、急激に周囲の温度が下がったように感じた。
「誰!?」
気配を感じたらしい聖が、花音に剣を向けたまま、声を上げる。
聞こえてきた足音に花音が視線だけを向けると、学生服姿の少年が少し距離をおいて立ち止まった。
「月城君!?」
それがクラスメイトである月城蒼だと気付いて、目を見開く。
「あら?知り合いですか?……悪いことは言わないわ。すぐに此処から去りなさい」
「それは出来ないな。俺は、そいつを助けるつもりで、此処に来たんだから」
蒼の言葉に聖が目を細め、次に笑い始めた。
「ふふふ、この子を助けるですって?……何も知らない、何の力もない、この世界の人間が、でしゃばった真似しないで!」
「っ……、駄目!逃げて!」
花音は叫んだが、蒼は逃げようとせず、聖の放った陰が彼をのみ込んだ。
「あっ……!」
「ふふ、馬鹿な人……」
そう聖が呟いた時、再び周りの温度が下がった気がした。
そのせいか、陰の動きが鈍くなり、聖が怪訝な表情になる。
「何……?」
聖が短く呟いた時、先程蒼をのみ込んだ陰の動きが完全に止まり、次の瞬間、その周りを氷が覆い尽くし、そのまま砕け散る。
かと思うと、気付いた時には聖の首に氷で作られた剣が突き付けられていた。
「悪いな。……俺も元々は〈この世界〉の人間じゃないんだよ。さぁ、そいつを解放してもらおうか」
「くっ……。今回は退くわ」
蒼の言葉に聖は悔しそうに剣を引くと、姿を消した。
聖がいなくなり、花音は拘束から解放されると、何処かへ氷の剣を消した蒼へと近付いた。
「月城君、だよね?」
「ああ……」
黒かった髪が、今は薄い水色になり、瞳の色も青みがかっていて別人のようにも見えたが、声は蒼のままだった。
「月城君は……」
「ストップ。その話は、明日だ」
問いかけようとした花音は、蒼に止められ、口を閉じる。
「……俺の、俺達のことは明日話す。此方にも聞きたいことがあるからな」
言って視線を外した蒼に、花音は溜め息をついた。
今、無理に聞き出そうとしたところで、蒼は話さないだろう。
なら、彼の言う通り、明日を待つしかなかった。
「明日か……」
家に帰り、夕食後、花音はベッドに横になり呟いた。
(俺達ってことは、他にもいるってことだよね。……それが誰なのかも、明日になればわかる)
「……此方の話を聞きたいってことは、私もある程度は話さないといけないんだよね」
明日、自分が何を話すことになるのか、何を知るのかわからない。
それが少し怖いような気もした。
3
授業終了のチャイムが鳴り、学生達が教室を出ていく。
(確か、屋上で待ってるって言ってたよね)
昼休みに花音の所へ来た蒼の言葉を思い出し、屋上へ向かう。
ギイイィッ
屋上へ出る少し重い扉を開いていくと、此方に背を向けている五人の姿があった。
「……来たか」
花音が来たことに気付いたのか、蒼が振り返る。
同じように振り返った四人は、全員花音がよく知るクラスメイトだった。
「梨沙ちゃん?未央ちゃん?飛鳥ちゃん?それに、日向君まで?」
友人である三人と、あまり接点はないはずのクラスメイト、日向彼方の姿に驚く。
「驚いたか?……でも、俺達も元は、向こうの世界の人間なんだよ」
「えっ?」
「氷・草・音・時・星読の一族。名前くらい聞いたことがあるんじゃないか?」
彼方に聞かれ、花音はいつかの老夫婦の話を思い出し、頷く。
それを確認すると、五人は頷きあい、まず蒼が一歩踏み出した。
「俺が氷の一族。向こうでの名は、凍矢」
「私が音の一族。向こうでは、琴音と呼ばれていたの」
「私は草の一族。美咲って名前だったよ」
「俺は時の一族。少しだけど、空間も操れたんだ。刹那って名だった」
「私は星夢って名前だったの。星読の一族で、未来を視ることが出来たの」
蒼に続いて、梨沙、未央、彼方、飛鳥が言う。
「俺達は、幼い頃この世界に来て、向こうへ戻ったことがないから、向こうでのことをほとんど知らない。……一体、向こうで何が起こった?」
蒼の言葉に花音は口を開いた。
異世界へ飛ばされてから、戻ってくるまでのことを順に話していく。
話が終わった時には、未央は涙ぐみ、あとの四人は難しい顔をしていた。
「色々、辛かったんだね……、花音ちゃん……」
「って、何で貴女が泣いてるのよ!」
涙を拭う未央に、梨沙が呆れたような視線を向ける。
「そうか、陰の一族がそこまで……」
「私、何も出来なかった。昨日だって、月城君が来てくれなかったら……」
「花音、これ見て」
「?」
不意に飛鳥が、ポケットから取り出したブローチを見せてきた。
「これは?」
「貴女のペンダントと同じものよ。私達は、この力を借りて、力を使っているの」
「私達って、他の皆も?」
頷いて、蒼が指輪、梨沙がイヤリング、未央が髪留め、彼方がブレスレットを見せる。
「そもそも、これには本来の俺達の力が封じられているんだ。この世界に来る際に、封じられた力が」
「これを持っていることで、力を使える。だが、本来の力には程遠いから、向こうで生活している奴等に比べたら、劣ってしまうんだ」
「どうすれば……」
「ん?」
花音が呟いたのに、五人の視線が集まった。
「どうすれば、本来の力が使えるの?私、今のままじゃ……」
そこまで言って、誰かに手を握られる。見ると、梨沙だった。
「焦っちゃ駄目。私達も協力するから」
「私も!私も頑張るよ!」
「花音、大丈夫だよ。……一人じゃないから」
順に声を掛けてくる梨沙達の後で、蒼と彼方も頷く。
「……ありがとう」
それに花音は泣きそうになりながらも、小さい声でそう返した。
「……」
次の日、花音は久し振りに制服に袖を通していた。
そして、首から下げているペンダントと左手に付けていたブレスレットを外そうとしてやめる。
(付けたままでも、大丈夫だよね)
花音が通う学校には、何故かアクセサリーに関する校則がない。
それに暫く休学していて、いきなり復帰することが出来ることが不思議でもあったが、父のいう通り、学校へ行けば少しは気を紛らわせることが出来ると思った。
「おはよう。久し振りだね、花音」
「「えっ!?花音[ちゃん]!?」」
久し振りに教室へと入ると、一人の少女が気が付いて声を掛けてきた。
その少女の声で気が付いたのか、少女と話していた別の二人の少女が振り返り、目を見開く。
だが、二人もすぐに笑みを浮かべて、花音の近くへ来た。
「本当、久し振り!」
「なかなか出てこないから、心配してたんだよ」
「うん。ごめんね、梨沙ちゃん。未央ちゃん。飛鳥ちゃん」
三人の顔を見回しながら、花音はそう返す。
如月梨沙、高梨未央、星宮飛鳥。
それが彼女達の名で、三人共、花音と仲のよい友人だった。
キンコンカンコーン
授業終了のチャイムが鳴り、花音は溜め息をついた。
(……やばいな。授業もかなり進んでたから、全然わからなかった)
ずっと休んでいた花音に気を使ってか、当ててくる教師はいなかったが、それも数日間だけだろう。
(帰ったら、頑張らないと!)
「あれ?もう帰るの?」
荷物を纏め、立ち上がったところで、梨沙が声を掛けてくる。
「う、うん。暫く、学校に来てなかったから、頑張って追い付かないと」
「そっか。……ん?」
そこで何かに気が付いたように、飛鳥が声を上げた。
「どうしたの?」
「珍しいね。花音がそんなペンダントしてるの。それに……」
「そのブレスレットも、綺麗だねー」
「確かに。アクセサリーなんて、前はつけなかったのに」
飛鳥に続けて、未央と梨沙が言う。
「うん。……今の私にとって、御守りのようなもので、大切なものなんだ」
「……そう」
花音がそう答えると、三人はふと視線を交わしあう。
それに首を傾げた花音は、時計を見て、慌てて荷物を持った。
「ごめんね、寄りたいところもあるから、もう帰るね。……また明日」
「うん。また明日ね」
そう返してきた未央達に手を振ると、花音は教室を出た。
花音が出ていったのを確認して、三人はそれまで浮かべていた笑みを消す。
そこへ二人の男子生徒が近付いた。
「何か聞けたか?」
「……聞けるわけないじゃない。……聞ける状態じゃないよ」
「……うん。花音ちゃん、無理してた……」
口を開いた一人の男子に、梨沙と未央がそう返す。
「でも、わかったこともあるわ。……あの子は、間違いなく〈向こう〉の世界に行ってた。そして、〈向こう〉で彼処まで落ち込むほどの何かがあった。……今回の事態は、〈向こう〉の世界だけでは終わらない。……いずれにせよ、今は……」
「彼奴から目を離すな……か」
飛鳥ともう一人の少年が言い、五人は窓際に移動する。
五人が見下ろした視線の先には、校門へ向かっている花音の後ろ姿があった。
2
元の世界へと戻ってきて数日。
久し振りの学校にも慣れてきたある日、花音は暗い道を一人で歩いていた。
(わからない所を色々聞いてたら、こんな時間になっちゃった。急いで帰らないと)
近くにある時計が、もうすぐ八時になろうとしているのを見て、足を速めようとして、花音は足を止めた。
「!?」
目の前に黒いものが蠢いている。
「あれって、まさか……」
「ふふ、見付けましたよ」
「!!」
聞こえてきた声に振り返ると、聖が笑っていた。
「聖……ちゃん!?」
「お一人ですか?……ああ、脱出出来たのは、貴女だけでしたね。……ですが、残念でした。この世界に来たところで、私達から逃れられはしないんですよ」
クスリと笑う聖に、花音は少し後ずさる。
「……風夜達は?……皆は、どうなったの?」
「さぁ……、私の知るところではありませんね。それに、今は人の心配をしてる場合ではないですよ」
そう言った聖が放ってきた陰を消そうと力を使おうとして、それより早く身体の自由を奪われてしまう。
「っ……」
「ふふ、此処には風夜様達も、貴女の弟もいない。……誰も助けにはこない」
言いながら、近付いてくる聖の手に、細身の剣が現れる。
「これで終わりです」
身動きのとれない花音に、聖が剣を向ける。
その時、急激に周囲の温度が下がったように感じた。
「誰!?」
気配を感じたらしい聖が、花音に剣を向けたまま、声を上げる。
聞こえてきた足音に花音が視線だけを向けると、学生服姿の少年が少し距離をおいて立ち止まった。
「月城君!?」
それがクラスメイトである月城蒼だと気付いて、目を見開く。
「あら?知り合いですか?……悪いことは言わないわ。すぐに此処から去りなさい」
「それは出来ないな。俺は、そいつを助けるつもりで、此処に来たんだから」
蒼の言葉に聖が目を細め、次に笑い始めた。
「ふふふ、この子を助けるですって?……何も知らない、何の力もない、この世界の人間が、でしゃばった真似しないで!」
「っ……、駄目!逃げて!」
花音は叫んだが、蒼は逃げようとせず、聖の放った陰が彼をのみ込んだ。
「あっ……!」
「ふふ、馬鹿な人……」
そう聖が呟いた時、再び周りの温度が下がった気がした。
そのせいか、陰の動きが鈍くなり、聖が怪訝な表情になる。
「何……?」
聖が短く呟いた時、先程蒼をのみ込んだ陰の動きが完全に止まり、次の瞬間、その周りを氷が覆い尽くし、そのまま砕け散る。
かと思うと、気付いた時には聖の首に氷で作られた剣が突き付けられていた。
「悪いな。……俺も元々は〈この世界〉の人間じゃないんだよ。さぁ、そいつを解放してもらおうか」
「くっ……。今回は退くわ」
蒼の言葉に聖は悔しそうに剣を引くと、姿を消した。
聖がいなくなり、花音は拘束から解放されると、何処かへ氷の剣を消した蒼へと近付いた。
「月城君、だよね?」
「ああ……」
黒かった髪が、今は薄い水色になり、瞳の色も青みがかっていて別人のようにも見えたが、声は蒼のままだった。
「月城君は……」
「ストップ。その話は、明日だ」
問いかけようとした花音は、蒼に止められ、口を閉じる。
「……俺の、俺達のことは明日話す。此方にも聞きたいことがあるからな」
言って視線を外した蒼に、花音は溜め息をついた。
今、無理に聞き出そうとしたところで、蒼は話さないだろう。
なら、彼の言う通り、明日を待つしかなかった。
「明日か……」
家に帰り、夕食後、花音はベッドに横になり呟いた。
(俺達ってことは、他にもいるってことだよね。……それが誰なのかも、明日になればわかる)
「……此方の話を聞きたいってことは、私もある程度は話さないといけないんだよね」
明日、自分が何を話すことになるのか、何を知るのかわからない。
それが少し怖いような気もした。
3
授業終了のチャイムが鳴り、学生達が教室を出ていく。
(確か、屋上で待ってるって言ってたよね)
昼休みに花音の所へ来た蒼の言葉を思い出し、屋上へ向かう。
ギイイィッ
屋上へ出る少し重い扉を開いていくと、此方に背を向けている五人の姿があった。
「……来たか」
花音が来たことに気付いたのか、蒼が振り返る。
同じように振り返った四人は、全員花音がよく知るクラスメイトだった。
「梨沙ちゃん?未央ちゃん?飛鳥ちゃん?それに、日向君まで?」
友人である三人と、あまり接点はないはずのクラスメイト、日向彼方の姿に驚く。
「驚いたか?……でも、俺達も元は、向こうの世界の人間なんだよ」
「えっ?」
「氷・草・音・時・星読の一族。名前くらい聞いたことがあるんじゃないか?」
彼方に聞かれ、花音はいつかの老夫婦の話を思い出し、頷く。
それを確認すると、五人は頷きあい、まず蒼が一歩踏み出した。
「俺が氷の一族。向こうでの名は、凍矢」
「私が音の一族。向こうでは、琴音と呼ばれていたの」
「私は草の一族。美咲って名前だったよ」
「俺は時の一族。少しだけど、空間も操れたんだ。刹那って名だった」
「私は星夢って名前だったの。星読の一族で、未来を視ることが出来たの」
蒼に続いて、梨沙、未央、彼方、飛鳥が言う。
「俺達は、幼い頃この世界に来て、向こうへ戻ったことがないから、向こうでのことをほとんど知らない。……一体、向こうで何が起こった?」
蒼の言葉に花音は口を開いた。
異世界へ飛ばされてから、戻ってくるまでのことを順に話していく。
話が終わった時には、未央は涙ぐみ、あとの四人は難しい顔をしていた。
「色々、辛かったんだね……、花音ちゃん……」
「って、何で貴女が泣いてるのよ!」
涙を拭う未央に、梨沙が呆れたような視線を向ける。
「そうか、陰の一族がそこまで……」
「私、何も出来なかった。昨日だって、月城君が来てくれなかったら……」
「花音、これ見て」
「?」
不意に飛鳥が、ポケットから取り出したブローチを見せてきた。
「これは?」
「貴女のペンダントと同じものよ。私達は、この力を借りて、力を使っているの」
「私達って、他の皆も?」
頷いて、蒼が指輪、梨沙がイヤリング、未央が髪留め、彼方がブレスレットを見せる。
「そもそも、これには本来の俺達の力が封じられているんだ。この世界に来る際に、封じられた力が」
「これを持っていることで、力を使える。だが、本来の力には程遠いから、向こうで生活している奴等に比べたら、劣ってしまうんだ」
「どうすれば……」
「ん?」
花音が呟いたのに、五人の視線が集まった。
「どうすれば、本来の力が使えるの?私、今のままじゃ……」
そこまで言って、誰かに手を握られる。見ると、梨沙だった。
「焦っちゃ駄目。私達も協力するから」
「私も!私も頑張るよ!」
「花音、大丈夫だよ。……一人じゃないから」
順に声を掛けてくる梨沙達の後で、蒼と彼方も頷く。
「……ありがとう」
それに花音は泣きそうになりながらも、小さい声でそう返した。