試練の刻
1
「そうか……」
王と王妃の寝室。そこで先程のことを話すと、王は少し考えてから雷牙を見た。
「雷牙、お前はこのままついていきなさい」
「!しかし、王……」
「私達は陰の一族側につくつもりはない。……お前達がこの国を脱出する時間は稼ごう」
「でも……」
その言葉に風の国でのことを思い出す。
『俺はこの国の第一皇子だ。国民を置いて逃げるわけにはいかない』
『またいつか、一緒にお茶を飲んだり、遊びに行こうね』
脱出する前の空夜と風華の言葉を思い出す。
あの二人はどうなったのか、今でもわからない。
そして、この国も風の国のように陰に覆われてしまうのか。
「……わかりました。行ってきます……父上、母上」
その時、聞こえてきた雷牙の声に花音ははっとする。
「ああ」
「気をつけて」
「父上、母上もどうか御無事で」
そう言って雷牙が踵を返す。
雷牙が脱出を決めた以上、花音に何も言うことは出来なかった。
「……で、どうするんだ?」
飛竜で雷の国を離れながら、夜天が問い掛ける。
「闇の国に行っても、すぐに追い付かれるだろうしな」
「……だったら、此処から西だ」
それまで黙っていた光輝が口を開く。
「西?」
「……遥か昔、光の一族がまだ国だった頃から俺が闇の国に隠れ住むまで、一族が生活していた場所がある。……そこに姉上達が向こうの世界へ行く時に使ったゲートがあるんだ」
その言葉に彼はそのゲートを使うつもりなのだと気付いた。
「つまり、お前はそのゲートを使って、花音の世界へ行くっていうのか」
「……ああ。時空を越えてしまえば、そう簡単には陰の一族も手が出せないはずだ」
「……確かに、身を隠すには今はそこに行くのが最善か」
雷牙が少し考えるようにして、そう呟いた。
2
「ここだ」
光輝が飛竜を着陸させる。
着いた場所は、かつては人が暮らしていたからか、他の国と同じ様な街並みがあった。
歩いていく風夜達を追いかけながら、辺りを見回す。
記憶にはないが、光輝と引き離される前までは住んでいたからか、懐かしい気がした。
周りを見回しながら歩いていくと、風夜達が足を止めた。
前へ視線を移すと、門のようなものがある。
それにも見覚えのあるような気がした。
「この門……」
「そう、これで姉上達は向こうの世界へ……」
そこまで言って、光輝が言葉を止める。
「「「!!」」」
それと同時に風夜、夜天、雷牙が何かを警戒するように身構えた。
「な、何?」
「ふふ、ここに来ると思っていたわ」
急に張りつめた空気に花音が声を上げた時、そう声が聞こえ、一人の女が現れる。
女の顔には不気味な笑みが浮かべられていて、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「……花音」
花音に背を向けたまま、風夜が小さく声をかけてくる。
「……先に行け」
「えっ!?先にって……」
「あいつ、何だかやばそうだ。……聖や前に一度だけ見たことのある男よりも」
言いながら視線を向けた先で、女の笑みが深くなる。
「何をこそこそ話しているのかしら?……逃げようとしているなら、無駄よ」
言った女の周りの空間が歪む。
「……!!」
それに反応した風夜が風を結界のように展開させたところで、そこに激しい衝撃が加わった。
「っ!!」
「ふふ、逃がさない」
女の放つ力を防ぐので精一杯らしい風夜とは違い、女は余裕のありそうな表情で笑う。
「ちっ!」
「させるかっ!」
風夜に向けて手を翳した女に、夜天と雷牙が闇と雷の球を放つが、女はそれを簡単に止めてしまった。
「姉上」
それを見ていた花音に光輝が声をかけてくる。
「今のうちに」
「ま、待って!光輝!」
彼に門の方へ引っ張られ、声を上げる。
「待ってよ!風夜達は……」
「姉上!」
拮抗状態で身動きのとれない風夜達を見て声を上げたが、強い口調で呼ばれて黙る。
光輝の表情は口調とは違い、どこか優しかった。
「光輝?」
「大丈夫。……俺と姉上はまた会えたじゃないか。……次もまた会えるよ」
「えっ?」
次という言葉を疑問に思うと同時に、光輝に身体を押される。
門が光り出して、その中に引っ張られるような力を感じ、慌てて手を伸ばしたが、それより早く時空の中へ吸い込まれていく。
「風夜!光輝!夜天くん!雷牙くん!」
次第に彼等の姿は遠くなっていく。
精一杯叫んだ花音の声に彼等が振り返ったのを見たと同時に、彼等の姿は消え、気が付いた時には見覚えのある家の前にいた。
「此処……、私の家……」
呆然と呟いた時、家の扉が開いた。
「えっ!?花音!?」
「お母……さん」
「どうして、花音が……。向こうに残ったんじゃ……」
戸惑ったように口を開いた母の声を聞いた途端、張りつめていたものが切れた気がして、その場に座り込む。
「ちょっ、花音!どうしたの!?」
「お母さん……、私……、私……何も出来なかった。……光輝を…皆を……、見捨ててきちゃったよ」
そう言い泣き出した花音を、母がそっと抱き締めてくる。
そのせいで余計に涙が溢れてきた。
能力を使えるようになり、向こうに残ることにした。
何か出来ることがあるんじゃないかと思っていた。
それなのに何も出来なかった。
何も守れなかった。
風の国も雷の国も
一緒にいた仲間も
守りたかったのに、守られたのは自分の方で
「……ううっ……、うわああぁん……」
悔しくて暫く涙を止めることは出来そうになかった。
「そうか……」
王と王妃の寝室。そこで先程のことを話すと、王は少し考えてから雷牙を見た。
「雷牙、お前はこのままついていきなさい」
「!しかし、王……」
「私達は陰の一族側につくつもりはない。……お前達がこの国を脱出する時間は稼ごう」
「でも……」
その言葉に風の国でのことを思い出す。
『俺はこの国の第一皇子だ。国民を置いて逃げるわけにはいかない』
『またいつか、一緒にお茶を飲んだり、遊びに行こうね』
脱出する前の空夜と風華の言葉を思い出す。
あの二人はどうなったのか、今でもわからない。
そして、この国も風の国のように陰に覆われてしまうのか。
「……わかりました。行ってきます……父上、母上」
その時、聞こえてきた雷牙の声に花音ははっとする。
「ああ」
「気をつけて」
「父上、母上もどうか御無事で」
そう言って雷牙が踵を返す。
雷牙が脱出を決めた以上、花音に何も言うことは出来なかった。
「……で、どうするんだ?」
飛竜で雷の国を離れながら、夜天が問い掛ける。
「闇の国に行っても、すぐに追い付かれるだろうしな」
「……だったら、此処から西だ」
それまで黙っていた光輝が口を開く。
「西?」
「……遥か昔、光の一族がまだ国だった頃から俺が闇の国に隠れ住むまで、一族が生活していた場所がある。……そこに姉上達が向こうの世界へ行く時に使ったゲートがあるんだ」
その言葉に彼はそのゲートを使うつもりなのだと気付いた。
「つまり、お前はそのゲートを使って、花音の世界へ行くっていうのか」
「……ああ。時空を越えてしまえば、そう簡単には陰の一族も手が出せないはずだ」
「……確かに、身を隠すには今はそこに行くのが最善か」
雷牙が少し考えるようにして、そう呟いた。
2
「ここだ」
光輝が飛竜を着陸させる。
着いた場所は、かつては人が暮らしていたからか、他の国と同じ様な街並みがあった。
歩いていく風夜達を追いかけながら、辺りを見回す。
記憶にはないが、光輝と引き離される前までは住んでいたからか、懐かしい気がした。
周りを見回しながら歩いていくと、風夜達が足を止めた。
前へ視線を移すと、門のようなものがある。
それにも見覚えのあるような気がした。
「この門……」
「そう、これで姉上達は向こうの世界へ……」
そこまで言って、光輝が言葉を止める。
「「「!!」」」
それと同時に風夜、夜天、雷牙が何かを警戒するように身構えた。
「な、何?」
「ふふ、ここに来ると思っていたわ」
急に張りつめた空気に花音が声を上げた時、そう声が聞こえ、一人の女が現れる。
女の顔には不気味な笑みが浮かべられていて、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「……花音」
花音に背を向けたまま、風夜が小さく声をかけてくる。
「……先に行け」
「えっ!?先にって……」
「あいつ、何だかやばそうだ。……聖や前に一度だけ見たことのある男よりも」
言いながら視線を向けた先で、女の笑みが深くなる。
「何をこそこそ話しているのかしら?……逃げようとしているなら、無駄よ」
言った女の周りの空間が歪む。
「……!!」
それに反応した風夜が風を結界のように展開させたところで、そこに激しい衝撃が加わった。
「っ!!」
「ふふ、逃がさない」
女の放つ力を防ぐので精一杯らしい風夜とは違い、女は余裕のありそうな表情で笑う。
「ちっ!」
「させるかっ!」
風夜に向けて手を翳した女に、夜天と雷牙が闇と雷の球を放つが、女はそれを簡単に止めてしまった。
「姉上」
それを見ていた花音に光輝が声をかけてくる。
「今のうちに」
「ま、待って!光輝!」
彼に門の方へ引っ張られ、声を上げる。
「待ってよ!風夜達は……」
「姉上!」
拮抗状態で身動きのとれない風夜達を見て声を上げたが、強い口調で呼ばれて黙る。
光輝の表情は口調とは違い、どこか優しかった。
「光輝?」
「大丈夫。……俺と姉上はまた会えたじゃないか。……次もまた会えるよ」
「えっ?」
次という言葉を疑問に思うと同時に、光輝に身体を押される。
門が光り出して、その中に引っ張られるような力を感じ、慌てて手を伸ばしたが、それより早く時空の中へ吸い込まれていく。
「風夜!光輝!夜天くん!雷牙くん!」
次第に彼等の姿は遠くなっていく。
精一杯叫んだ花音の声に彼等が振り返ったのを見たと同時に、彼等の姿は消え、気が付いた時には見覚えのある家の前にいた。
「此処……、私の家……」
呆然と呟いた時、家の扉が開いた。
「えっ!?花音!?」
「お母……さん」
「どうして、花音が……。向こうに残ったんじゃ……」
戸惑ったように口を開いた母の声を聞いた途端、張りつめていたものが切れた気がして、その場に座り込む。
「ちょっ、花音!どうしたの!?」
「お母さん……、私……、私……何も出来なかった。……光輝を…皆を……、見捨ててきちゃったよ」
そう言い泣き出した花音を、母がそっと抱き締めてくる。
そのせいで余計に涙が溢れてきた。
能力を使えるようになり、向こうに残ることにした。
何か出来ることがあるんじゃないかと思っていた。
それなのに何も出来なかった。
何も守れなかった。
風の国も雷の国も
一緒にいた仲間も
守りたかったのに、守られたのは自分の方で
「……ううっ……、うわああぁん……」
悔しくて暫く涙を止めることは出来そうになかった。