大切なもの
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「ハク!佐々木!」
爆風による土煙で後ろから来ていた筈のハクの姿が見えない
『十四郎!私達は大丈夫!先に行って!!』
土煙の中から聞こえる、珍しいハクの大きな声に土方は内頬の肉を噛む
「ハク!命令だ!すぐ追いついてこい!」
『早く行って!』
“分かった”と答えてくれなかったハクに嫌な予感を覚えながらも、土方は脱出する船へ向けて歩みを進め始めた
爆風に煽られ、倒れた佐々木と信女の側でハクは土方の声のした方へと目を向けていた
「異三郎起きて…こんな所で死ぬなんて許さない…約束したじゃない…あなたは私が殺すってだから私はまだ死なない、あなたも死なせない」
もう一度立ち上がった信女と佐々木に、ハクがまた肩を貸す
「そんな古い約束、とうの昔に忘れちゃいましたよ、錆びた鎖に繋がれていたら貴女も死んじゃいますよ」
「家族を殺した敵がどうなろうと貴方の知ったことじゃないでしょう」
「敵なんて、本当はここにはいないんじゃないんですか?」
佐々木の言葉に信女が目を見開きながら佐々木の方へ目線を向ける
「あの時おかしなものがありました。あの場から逃げ去ったような血痕…妻を襲撃したのはあなただけじゃありませんね
従者は皆殺しでした。だとすればあの血は襲撃者のもの、ならば一体誰が刺客達に深手を負わせたのか
死神の子……いや、死神の子“達”しかいない
私はその可能性に気づいていました、あなたは私の妻子を殺したのではない、守ろうとしていたんじゃないかということに
気づいていながらあなたを敵と呼び復讐のために利用したんです、私に命をかけて守る価値はない。ハクさんと離れ、あなたがこれ以上利用される理由も…」
「異三郎、私はあなたの敵、それでいいの
私もあなたと一緒、たとえ敵であっても誰かに隣にいてほしかった、たとえ敵と呼ばれても誰かの隣にいたかった
独りぼっちにさせたくなかった、私と貴方が隣にいる理由なんて、それっぽっちで足りるじゃない
だからお願い、立ち上がって、足を止めないで、私達はまたすべてをなくしてしまったけれどあの時とは違う
あなたが私にくれた名前は決してなくならない、今井信女はあなたの隣から決していなくならない、何度何かを失おうと自らその目を閉じないかぎり…私たちは1人じゃない」
佐々木と信女の言葉を聞いたハクはポツリと口を開く
『やっぱり、信女の家族なんだ』
「……え?」
『だって、十四郎が言ってたから、名前は家族から貰うんだって
……私の名前も、そうだったら……』
ハクがそう呟くと、佐々木が口を開く
「……ハクさん、貴女の名前を考えたのは、ここにいる信女ですよ」
「ちょっ、異三郎!」
『………え?』
「私の家族を守ろうとしてくれた信女さんと同じように、貴女も信女さんを守ろうと動いたのでしょう
薬でその時の記憶は無いと聞きましたが、謝らせてください
私の勝手で貴女の大切な妹をこんなところまで連れて来てしまって申し訳ありません」
佐々木の言葉に、ハクは驚いた顔をしたものの、歩く足は止めない
『ハクって名前をくれたのは、信女なの?』
「……うん、ごめんなさい、私っ」
『……嬉しい』
ふわりと花が咲くように笑ったハクの笑顔は、血と火薬の匂いのするこの場には酷く不釣り合いだったが、信女と佐々木の目を奪うには十分だった
「信女さん、貴女もこんな風に笑ったらどうですか」
「……早く歩く」
「はいはい」
『もう少し、みんなの声がする』
片栗虎が撤退の為に着陸させた船に、次々と隊士達が乗り込む
搭乗口のすぐそばでハク達を待つ土方の目に、佐々木に肩を貸すハクと今井信女の姿が映る
「……急げ!!」
“分かった”とは答えてくれなかったが、命令だと言った通り、追いついて来てくれたハクに土方はホッとする
「出せ!!」
ハク達3人がハッチに乗ったと同時に土方の声で船が離陸する
その時、ハクは背後に敵の気配を感じ、咄嗟に佐々木と信女の2人を突き飛ばし、背後の敵を斬り伏せる
「「ハク!」」
『……っ!』
土方と信女の声がした瞬間、虚の船からの攻撃がハッチを直撃し、ハクの足場が崩れ落ちる
「ハク!ハク!!!」
「やだ、ハク!ハク!」
土方と信女の目には暗い島の森の中へ瓦礫と共に落ちていくハクの姿が映っていた
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