愛しい名前
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ーー数年後ーー
新政府軍や虚との戦いを終え、江戸が復興に伴う進化とともに以前のようなドタバタの日常を取り戻し始めたある日のこと
「えっと、どうするんだったっけ、ハクちゃんと腕組んで、トシの前まで一緒に行くんだよね!足ってどっちから出すとか決まってるのかな!左?右?ねぇ、トシ!聞いてる!?」
タキシードに身を包み、決して広いとは言えない部屋の中を忙しなく歩き回る近藤のそばで、同じく正装に身を包んだ土方は今日という大切な日の段取りを改めて頭に叩き込む
「トシ!ねぇちょっと!トシ!」
「あぁぁぁ!うるせぇ!!足なんざ右でも左でもどっちでもいいんだよ!ドアのとこで待ってろ!!!」
土方は部屋から近藤を締め出し、改めて今日の段取りを再確認する
今日に至るまで何度も何度も頭の中でシミュレーションしてきたはずなのに、いざ当日になってみるとソワソワとして落ち着かない
チラリと鏡を見た時に映る自分の顔は前髪を上げてセットしているせいか眉間の皺があらわになり、いつにも増して険しく見える
「こんな新郎がいるかっての」
眉間に寄った皺を消すように親指をぐりぐりと押し当てていると、部屋のドアがノックも無しに開かれ、入って来たのは総悟だった
「なんて顔してんでィ、こんな晴れの日だってのに」
「ノックぐらいしろ……何の用だ」
総悟は入ってきたドアにもたれるようにして腕を組む
「ハクのこと幸せに出来てねぇって判断したら、俺か今井がアンタの首取りにいきやすんで」
「ハクのことになると随分仲良しだな、お前ら」
「そこだけは共同戦線なんでさ」
「……心配すんな、幸せにしてみせる」
「……………」
鏡越しに総悟にそう言うと、総悟は満足したように会場へと戻って行った
「行くか」
「ハク、綺麗」
『ありがとう、信女』
新婦の控え室で、ハクのウェディングドレス姿を見た今井信女は目に涙を浮かべながらパシャパシャと携帯でハクの晴れ姿を写真に収める
『撮りすぎ』
そう言いながらも柔らかく微笑むハクは、携帯を構える信女の頭をゆっくりと撫でる
「……ハク?」
『信女がいなかったら、私はとっくの昔に死んでた』
「ハク………」
『ハクになることもなく、朽のまま、道具として死んでた。きっと、死にたくないとかそんなことすら思わずに』
ハクの言葉を待ちながら、信女の瞳には涙の膜が張っていく
『ありがとう、信女
私に心をくれて、生きる理由をくれて、名前をくれて
信女がくれた全部のおかげで私は今日、こんなに幸せな日を迎えられた
真っ白な服なんて、目立って仕方ないから少し落ち着かないけど』
花が咲くような笑顔ともまた違う、いたずらっ子のような笑みに、信女もつられて笑顔を浮かべる
「私も、幸せなハクを見られて、幸せ」
、