口付けと名前の意味
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「食べますか?」
ドーナツの箱を持った佐々木異三郎がそう声をかけたのは、拠点からほど近い河川敷に1人座るハクだった
『異三郎』
「やれやれ、血は繋がっていなくとも貴女は本当に信女さんにそっくりですね」
佐々木はハクにドーナツを渡し、隣に腰を下ろす
「戻られてからゆっくり話せる機会もありませんでしたからね
黒縄島ではありがとうございました
信女さんも私も、貴女がいなければ助からなかったでしょう」
『信女の大切な人だから』
「信女さんのことも、思い出したのですが?」
『少しだけ……小さい時の信女の事を』
そう言いながら少しずつドーナツを口に運ぶハクの表情は決して明るいとはいえない
「盗み聞きは良くないと分かってはいるのですが、先程、ハクさんと土方さんが話しているのを聞いてしまいまして」
佐々木がそういうと、ドーナツを持つハクの手がピクリと動く
「土方ハクには……なりたくたいのですね?」
『………うん』
ハクの返事を聞くと、佐々木はクスリと笑った
「ハクさん、貴女は土方ハクになったら、土方さんの何になるとお思いですか?」
『………娘』
「やはりそうでしたか」
『だって、上の名前は親から受け継ぐものだって………』
「私の妻は、私と結婚して佐々木になりましたよ
まぁ今時は夫婦別姓ということもありますが」
『………え?』
「ハクさんは、土方さんが貴女を娘にしたいと思っていると思ったのですか?」
『だって、ずっと一緒にって』
「土方の名を名乗るというのは、なにも娘になるからではありません
私があまり口を出すのも野暮なので、私はこれで」
佐々木はそれだけ言うと、まだ数個のドーナツが入った箱をハクのそばに置いて立ち去った
1人残されたハクは夕日に照らされる川を見ながら、箱の中のドーナツに手を伸ばした
一方その頃、ハクにプロポーズを拒否されてしまった土方は、抜け殻のようになりながら仕事をこなしていた
「ふ、副長?大丈夫ですか?」
書類を持ってきた山崎が心配そうに声をかけるが、土方から返ってくるのは「あー」という力無い返事だった
「今のソイツはダメですぜィ」
「いきなりプロポーズなんてするからいけないのよ」
「お、沖田隊長!それに今井さん!って、え?プロポーズ?」
土方は3人の会話など耳に入っていないようで、最早読めたものではないミミズのような文字を書類に書き連ねるばかりだ
「土方ハクになって下さいだとよ」
「お付き合いも無しでそれは流石にハクもあり得ない」
「えーっと………それ、ハクちゃんに意味伝わってるのかな?」
「「「………え?」」」
山崎の言葉に、総悟と信女、そして書類に向かっていた土方までもが山崎の顔を見る
「いや、だって、結婚してくださいならまだしも、土方ハクになってくれって……一生味噌汁を作ってくれ、みたいなプロポーズの変化球のテンプレートというか…ハクちゃんが理解できるのかなって」
「確かに………」
「そう……かも」
総悟と信女が山崎の言葉に納得していると、土方がカタンと筆を置き、自分の荷物を漁って財布や通帳を取り出すと、バタバタと慌ただしく部屋を後にした
「次は大丈夫……かな?」
「だといいけど」
心配そうに土方を見送る山崎と信女とは裏腹に、総悟は面白いおもちゃが無くなったかのように、自室へと戻っていった
この辺りの土地にはまだ馴染みがない
江戸のようにどこに何があるのか手にとるようには分からない
ただそれでも、ハクに何を伝えたいのか、何を送りたいのか、それだけがハッキリしている俺は目当てのものを探して碁盤のような京の街を走り回る
先程の自分の言葉の意味がハクに正しく伝わっていたとしても、いなかったとしても、もう一度ハクに気持ちを伝えなければ