口付けと名前の意味
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総悟が外の用事から帰ってくると、柱の影から何かを覗き見る今井信女の後ろ姿が目に入る
「オイ、なにしてんでィこんなところで」
総悟が声をかけると、今井信女は静かにしろと口に指を当てシーっとジェスチャーをすると、視線を元に戻す
その視線の先には、縁側に腰掛ける土方とハクの姿
「なんでィ、いつもみたいに邪魔してやりゃいいじゃねェですかィ」
何をするでもなく並んで座る2人を何故こんな物陰からみているのかと疑問に思いながら総悟が足を踏み出そうとすると、首元に触れる冷たい感覚
「邪魔したら殺す」
首に当てられた刀と以前、真選組と見廻組が揉めたときとは比べ物にならない程の本気の殺気に、総悟は大人しく信女の後ろから土方とハクの様子を伺うことにする
『どうしたの十四郎、話って』
「あーうん、その、だな」
いざ伝えようとすると、ガラにもなく緊張してしまう
俺が次の言葉を言い淀んでいると、ハクが先に口を開く
『さっきの続き?』
「え」
俺がハクの方へと顔を向ければ、俺を真っ直ぐに見つめるハクと目が合う
先程口付けようとした下心が顔を出すが、それより先に片付けなければならない問題がある
「そうじゃない、そうじゃないんだハク」
『?』
キョトンとしたハクの両肩を持ち、正面から向き合って言葉を紡ぐ
「ハク、お前と初めて会ってからいろんなことがあったよな
正直、最初はお前の事を警戒してた。真選組を潰すために送り込まれた刺客なんじゃないかって」
『……うん?』
「でも、近藤さんを身を挺して助けてくれたろ?それから先も、遊女として吉原に潜入したり、近藤さんが捕まって弱ってた俺を元気付けてくれたり」
『うん』
「ずっと、伝えなきゃならねぇって思ってた」
肩に添えていた手を離し、ハクの手を握るようにしてから、深く呼吸して息を整える
「ずっと、そばにいて欲しい。土方ハクになってくれないか」
俺の言葉に、ハクは数回目を瞬くと、なぜかみるみるうちに眉間に皺が寄っていく
「ハク?」
『………だ』
「え?」
『嫌だ』
怒っているのか、悲しんでいるのかよく分からない表情のハクはそれだけ呟くと、逃げるようにその場を去っていった
「……………え?」
一世一代の告白を通り越したプロポーズの後、縁側にポツンと1人残された土方は石のように固まってしまった
「ずっと、そばにいて欲しい。土方ハクになってくれないか」
ハクの手を取りハッキリとそう言った土方に、遠くからその様子を見ていた信女と総悟は目を見開く
まさか告白をすっ飛ばしてプロポーズをすると思っていなかった信女と、まさかそんな場面を目撃することになるとは思っていなかった総悟はそれぞれに驚きながらもハクの返答を固唾を飲んで見守る
こちらに背を向ける形で土方に向き合っているハクの表情は信女と総悟の位置からは伺うことができない
「ハク?」
『……だ』
「え?」
『嫌だ』
「……………え?」
「「え?」」
ハクの返答に、間抜けな声を上げた信女と総悟は思わず顔を合わせる
信女自身は土方とハクは両想いであることを知っているし、総悟も名前のある関係になっていないだけで真選組内ではほぼ公認カップル状態だった2人の思わぬ展開に驚きを隠せない
「ハクの“好き”はそういう“好き”じゃない………?」
「いや、でもハクのやつ土方の元カノに会ったとかなんとか言ってる時、明らかに嫉妬してたはず………」
普段は顔を合わせるだけでバチバチと火花を散らす2人だが、今回ばかりは持ちうる情報を交換する
そんな2人の姿をモノクル越しに見ていた男は、土方を置いて去って行ったハクを追うべくその場を後にした