口付けと名前の意味
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俺とハクが京にやってきて早くも1週間が経った
「…………チッ」
荒れていた時ほどではないものの、灰皿いっぱいにあるタバコの吸い殻に新たな吸い殻を捩じ込みながら舌打ちが出る
不機嫌な理由は分かっている
ここのところハクとゆっくりする時間が全くといっていいほどない
もちろん、元真選組として倒幕の為の仲間を集める為に奔走しているせいで忙しいのはあるが、それに加えてハクの側には四六時中今井信女か総悟がべったりくっついている
総悟はともかく、今井信女をハクから引き剥がすのは気が引ける
なんせ彼女は何年もの間こうしてハクと過ごせる日々を願ってきたはずで、決して平和とはいえないものの、それが今やっと叶っている状態なのだ
ただ、真選組が解体されてからほとんどの時間をハクと2人で過ごしてきた俺は簡単に言ってしまえばハク不足に陥っていた
書類の整理なりなんなり、ハクを自分の側に呼びつける理由はいくらでもあるが、ハク自身も今井信女との時間を楽しんでいる様子を見れば、自分から行動するのも悪いと思ってしまう
『十四郎、今いい?』
そんなことを考えながら仕事に集中しようと筆をとると、部屋の外から声がかかる
自分の部屋を訪ねてきたハクの声に、自然と背筋が伸び、墨をつけたばかりの筆はまた筆置きに戻る
「お、おう、入れ」
静かに戸を開けて入ってきたハクの側には今井信女も総悟もいない
『この書類に十四郎の判子がいる』
「分かった、ちょっと待ってろ」
久々の2人きりの時間、子供のように浮き足立つ自分の目の前には絹糸のような白く細い髪を耳にかけるハクの姿
薄い桜色の唇にゴクリと喉がなり、俺の右手がハクの頬に吸いよせられるようにして触れる
『十四郎?』
ハクの瞳が俺の目と合い、その瞳に吸い込まれるまま、ハクへと顔をよせる
あと数センチで唇が触れる、そのとき
『十四郎、元気がないの?』
「…………は?」
ハクとの時間が持てないことに多少の不満はあるものの、元気がない訳では無い
ただ、ハクの言葉にすこし違和感を覚える
「元気が無いって、なんで?」
『口付け、しようとするから』
「…………………へ?」
俺がハクに口付けようとするのが、なぜ元気が無いことになるのかと、今までハクと交わした口付けの事を思い返す
初めては、真選組が解体され、荒れていた俺を慰める為にとハクが遊女の真似事をしてした口付け
そして2回目は記憶が無いことが辛いと泣くハクに俺が無理矢理口付けた
「……………」
『十四郎?』
ハクが言うように、俺達が今までしてきた口付けというのはどちらかが弱っている時で、今のようになんの前触れもなくしたことはない
ただ、俺がハクを想う気持ちは慰めや一時の気の迷いなどではない
ちゃんと、伝えなければ
ハクが好きだから、口付けしたいのだと、側にいて欲しいのだと
「ハク、俺は………」
ハクの頬に手を添え、目線を合わせたまま、俺が言葉を紡ごうとすると、部屋の戸がガラリと開く
「ハク、ここにい……………」
『あ、信女』
こちらを見てカッと目を見開く今井信女に、指先が冷えていくのを感じる
いつだったかハクを抱きしめたまま眠ってしまった朝、その状況を総悟に見つかった時と似た状況に、冷や汗をかく
今井信女はハクの頬に添えられたままの俺の手をハクからはたき落とすようにすると、ハクの手をとってさっさと部屋を出て行ってしまった