ただいまもドーナツ
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真選組と見廻組の面々が京での拠点としている大きな寺
その寺の柱に力無く頭を預けて座っているのは元見廻組副隊長である今井信女だった
ハクが見つかったらしいという情報は信女も知っていた
土方がそこに向かうということも
きっと自分も行きたいと言えば、土方は断ることはしなかっただろう
ただ、それでも行きたいと言えなかったのは記憶のないハクに会いたくなかったからだ
怖かったのだ、またハクに忘れられたまま、0から何もかもをスタートするのが
なにより、ハクの居場所を奪おうとした自分自身を、ハクはもう思い出してくれないのではないか?思い出したくないのではないか?
悪い方へ悪い方へと考えてしまううちに、土方についていくことも出来ないまま、目的を持って京へ向かう近藤達の後ろをただただついてきてしまった
するとふと、懐から振動を感じる
佐々木異三郎しか、登録されていないはずの携帯
しかし、そこに表示されているのは記憶にない番号からの着信で、メールしか送ってこない異三郎のものではない
若干警戒しながらも、信女は通話ボタンを押す
「……もしもし」
『信女』
携帯から聞こえる声に、信女の息が止まり、携帯を落としそうになる
『信女、聞こえる?』
もう、思い出してはくれないのではと思っていたハクが、自分の名前を呼んでいる
“聞こえているよ”と、そう返したいだけなのに、口から漏れるのは嗚咽ばかりで、目から溢れる雫が次から次へと頬を伝って顎から床へと落ちていく
信女の返事を待つハクの耳に届くのは、ただただ涙を流す信女の声だけ
『信女、泣いてるの』
「……っ、ぐす、…だって、私、もう思い出してくれないんじゃ、ないかって」
『信女がいたから、思い出せたの』
「……え?」
思っても見なかった答えに、驚いた信女の涙が止まる
『信女がくれた名前を十四郎がいっぱい呼んでくれた、みんなが、何度も何度も呼んでくれたこの名前が私の記憶を戻してくれたの』
「………っ!!!」
驚きで止まった筈の涙がまた溢れ、ハクの耳にはまた信女の泣き声が届く
『信女、泣かないで』
「う、ん、うん」
『信女の好きなドーナツ買って、すぐにそっちに帰るから』
「……っ、うん、うん!」
ハクとの電話を終え、着物の袖で涙を拭い立ち上がった信女の表情は明るく、目には力が戻っていた
その様子を柱の影から見ていた佐々木異三郎は懐から携帯を取り出し、万事屋の口座へ請求額に色をつけた報酬を振り込む
これだけできっと全て伝わる
佐々木もまた少し微笑むと、自分と同じく口下手な部下の代わりに近藤や沖田にも報告せねばと歩き出した
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