知らない傷
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日中外出していた為、仕事の残っていた俺が夕方から夜に仕事を片付け遅めの風呂に入った後、
真夜中にも関わらず、万事屋から屯所へかかってきた電話に、俺は受話器を落としそうになった
「………」
『オイ、聞いてんのか、大串くん?』
「……っあぁ、聞いてる」
『言っておくが絶対そうだって訳じゃないからな、2人とも目しか見てねぇってんだから
……とりあえず、俺の方でも調べてみっから』
「あぁ」
ガチャンと受話器を置き、電話台に手をつく
ハクと同じ目の色をした忍が、徳川定定の護衛をしていた
万事屋は瞳の色でしか判断していないからまだ確定ではないと言っていたが、ハクのような瞳をした人間がそういる筈がない
加えて、以前ハクが不逞浪士をいとも簡単に片付けてしまったことも知っているのだ
万事屋は御庭番の女と吉原の女が見た二色の瞳を持つ忍をハクだと思って調べるだろう
俺だってそうだ
ロクに水分を拭き取っていない髪からはポタリポタリと雫が落ちる
それに合わせて今まで起きたことを一つ一つ確かめるように考えを巡らす
ハクが真選組に来たのは、徳川定定が暗殺された僅か1ヶ月後だった
それも、あの時直接江戸城城内に入った見廻組からとっつぁんを経由してやって来た
気配の消し方、読み方
異常な身のこなし
何者かに変装するにはピッタリな声帯模写
複数の毒薬に耐性を持つ身体
そして命令に忠実な性格
敵の多いあの狸ジジイが護衛として側に置きたがる理由としては充分だ
今もし、まだ江戸城の牢の中で定定が生きているとしたら、俺が暗殺しに行ったかもしれない
あいつの記憶を何度も消したのはあの狸ジジイだからだ
そう思うと次はここに来てからハクの言った言葉、一つ一つが蘇る
『私は、"土方十四郎の言うこと"を聞けばいい?』
『私に、今、やることをくれるのは十四郎、だから、その人は守らないとダメ
そう思ったら、身体が勝手に動いた』
『やることをくれる人は守らなくちゃ、ダメ
じゃないと私は……いる意味がないの』
『勲を守るのが命令だったから
何も問題ないでしょう?』
『私、信女に抱きしめられた時、辛かった』
『私の中に、何にもない感じがした
信女に抱きしめられたとき、暖かいと思ったけれど、私の中のどこにも、それが入る所が無かった
信女にあるものが、私には、無くて、でもそれが何なのかも、私には分からなくて
分からないのに、それが無いのが、辛い』
ハクに、
記憶を消された筈のハクに、そんな事を思わせ、させるようにしたのはアイツなのだと、電話台に置いた手にグッと力が入る
普段から短く切っているはずの爪が、プツリと手のひらを裂く感覚がする
、