ご褒美はドーナツ
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「……もしもし、とっつぁんか」
『聞いたぞトシ、大変だったらしいな今回の食事会は』
「あぁ……俺が電話した意味、分かってんだろ」
腹に撃ち込まれた弾丸を取り出す手術を終えたハクの病室の前で、俺はとっつぁんへと電話をかけた
未だ眠っているハクの側には近藤さんが付いている
『………全部は話せねぇ、が、お前ももう分かってるだろ
あいつは元は表の人間じゃねェ』
「……忍……か?」
『ただの忍なら可愛いもんだ
あらゆる毒に耐性を持つ身体に常人ならざる身のこなし……』
「記憶喪失って話も嘘か」
『………それは嘘じゃねェ』
「任務中の事故かなんかが原因か」
『……違う』
それからしばらくの沈黙の後、とっつぁんが言葉を発した
『消されたんだよ主の手によってな』
「は………?」
消された?……記憶を?
それも人為的に……?
『天人の作った薬だ
投与された者は一切の記憶を無くし、その記憶が戻ることはない』
「っ……じゃあなんであいつはあんなに命令されることに慣れてんだよ」
『……その薬は繰り返し使うことが可能だ』
「……っ、まさか!!」
『ハクちゃんが記憶を消されたのは一回や二回じゃねェってこった
何度も記憶を消されるうち、残ったのは毎度求められる主への忠誠心だけ……
まぁあれを忠誠心と言っていいのかは微妙だがな
命令…それをもたらす人物に固執してやがる』
とっつぁんとの電話を終え、俺がハクの病室へと入ると、近藤さんがぐちゃぐちゃの顔で鼻をすすりながら振り返った
「なんて顔してんだよ近藤さん」
「だって、ハクちゃん、俺を庇って……っ」
「俺が言ったんだよ、近藤さんを守れって
悪いのは俺だ」
「………とっつぁんはなんて」
「ハクの記憶は天人の薬で人為的に消されたものらしい
……それも一回や二回じゃない」
近藤さんは目を見開くと、血が出そうになる程拳を強く握りしめ、歯を食いしばり俯いた
「近藤さんは屯所に帰って休め
ハクが目覚めたら俺も屯所へ帰るから」
「……あぁ」
近藤さんが病室から出て、病室の中がシンと静まり返る
ハクの穏やかな寝息だけが俺の耳に届く
「何が問題ねぇだよ……」
こいつは言ったのだ
俺と近藤さんが無事ならば問題ないのだと
自分が手傷を負っていようとなんの問題も無いのだと
まだ20になったばかりかそこらのハクが、今までに何度も記憶を消されては道具として使われてきた
それも多分、殺しの道具に
止血のために下着以外の服を脱がせて見えた身体には刀傷や銃傷が所狭しと並んでいた
それぞれの傷はちゃんとした治療を受けたようには見えず、雑な応急処置でなんとか塞がったような傷だというのははっきりと分かった
俺はハクの顔にかかった髪を左右に分け、そのまま頭を軽く撫でる
きっと、道具として使えなくなる度に、記憶を消されてしまったんだろう
ハクがハクという人間になる前に
『と、しろ……?』
小さく聞こえたその声にハッとする
「ハク、目覚めたか
具合はどうだ?」
『具合……?普通……ここは?』
「病院だ」
『倒れてごめん』
「なに謝ってんだよ
ったく、心配させんな」
俺がそう言うと、ハクは不思議そうに俺を見る
『心配?十四郎が?どうして?』
「お前が怪我したからに決まってんだろ」
ハクは相変わらず訳がわからないと言うような顔をしてはいるが、瞳は何となく喜んでいるようにも見えた
「ホラ、ドーナツ
病院の売店で買ったから、そんなに美味しくねェかもしれねぇが」
『ドーナツ……』
俺が袋を差し出すと、ハクはゆっくりとベットから起き上がり、ドーナツを頬張った
と、ハクの目がずっと俺の右手を見ていることに気がつく
「………なんだ?」
『さっき、十四郎、私の頭触ってた?』
「あ、悪りぃつい、嫌だったか」
ハクはドーナツをくわえたまま、首を傾げ、飲み込んでから答えた
『もう一回』
「は?」
『もう一回やって』
ハクはずいっと頭を俺の方に差し出してそう言った
なんだかよく分からないが、俺はハクの頭に手を乗せ、さっきみたく軽く撫でる
「……こうか?」
『ん』
今の返事は同意なのかなんなのか
頭を避けようとしないからこれで合っているのだろうか?
『ありがとう』
ハクはそういうと俺の手から離れ、またドーナツを口に運んだ
(な、なんだったんだよ一体)
『ドーナツもありがとう』
「お、おう」
『……………』
「……………」
俺が何か話さないとすぐこうだ
どうしようもない沈黙に、俺は話題を探して頭を回転させる
いや、そもそもなんで俺が話題探さなきゃなんねんだよ
、