泡沫に口付けを
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地下に閉じ込めた連中を地元の警察に任せ、俺達は囚われていた娘達を1人ずつ家へと送っていた
あとは最後の1人、この街に流れ着いたハクを助けたという夫婦の元に彼女を送り届ければ、ハクがここにいる理由もなくなり、俺と京に向かってくれるはずだ
「本当になんと言ったらいいのか!!娘を取り戻して下さってありがとうございます!!!」
『いや、俺を助けてくれた礼がしたかった、それだけだ』
「本当にありがとう!!!」
ふと、助けた娘が俺のことをジッと見つめていることに気付く
「……?なんだ?」
「あ、あの、貴方様はどなたか心に決めた方はいらっしゃるのですか?」
「は?」
「も、もしそういうお相手がいなければ、私と……」
顔を赤らめそういう娘の言葉に、俺は未だ娘の両親に感謝の言葉を受けているハクに目線を向ける
「悪いな、心に決めた相手はいるんだ」
荒屋に戻って来た頃、夜空には少しだけ朝の気配が漂っていた
部屋の小さな行灯が照らし出すハクの表情はなぜか暗い
「あの夫婦に恩返しが出来たってのに、随分浮かねえカオしてるな」
『………そう……見えるか?』
「あぁ、どうした、何かあったか?……まさか京に行くのが嫌とか……」
『京には行く、他に目的もないしな。ただ…………』
ハクはさっきの戦いで破れてしまったらしい真選組の隊服のベストを撫でる
「まさか怪我したのか!?見せてみろ」
『……違う』
ハクの肩を掴むと、ハクは俯いたまま小さく返事をした
『手ぬぐい……』
「あの落とした手ぬぐいか?まさか、大事なもんだったのか?」
『……いや、その中身だ』
「中身?」
『深い青の中に金の粒が散りばめられたような、綺麗な石だ。
まぁ元々ひび割れてたし、付いてた金具も壊れてたがな』
「大事な……もの、だったのか?」
『分からない、でも………』
記憶を消されたというのに、大事に大事に持っていてくれたのかと、じわりと胸が熱くなる
俺は自分の懐から小さな箱を取り出し、ハクの手に乗せる
『………これは?』
「開けてみろ」
俺の言葉に、ハクはゆっくりと箱を開く
『っ!!!これ………!なんで……?』
「元々2つあったからな」
『え………』
「ちょっとジッとしてろよ」
『お、おい!!』
イヤリングを箱から取り出してハクの右耳に触れると、ハクは一瞬ギョッとした顔をしたものの、やがて耳についたイヤリングにそっと指先で触れる
「やっぱ似合うな」
『これ……は、記憶を無くす前の俺の物だったのか……?』
「あぁ、俺がお前に似合うと思って、プレゼントした」
俺の言葉に、ハクは何故か信じられないというような顔を浮かべる
「なんだよ、その顔」
『い、や、だって………おかしいだろ、俺にこんな、綺麗なもの』
「…………は?」
“土方十四郎”としての返事なら、なんら違和感はない
しかし、今目の前にいるのは“俺”を完璧に演じるハクとは違う、“俺の声”で話しているだけのハクに見える
「おかしいってなんだ、どうしてそう思う?」
『だって俺……は………』
ハクは俺の言葉に答えようと言葉を詰まらせたまま、自分の身体をさするような仕草をする
『俺、は、醜くて、汚い、のに』
俺の声で、そんなことを言うなと言葉より先に身体が動いて、ハク腕の中に閉じ込めた
「お前は醜くも汚くもねぇよ、ハク」
『なんだよ……見たことでも、あんのか?』
「ある」
『………っ………だったら分かるだろ、俺がどんなに醜くてきたな………っ!!!!』
またも言葉より先に動いてしまう身体が、ハクの後頭部に手をやり、唇を塞ぐ
腕の中で悲痛な表情で俺の声でハクのようなことを話すこいつのチグハグな様子が俺の心を締め付ける
『テメェ、なにす、んん!!!?』
唇を離すと聞こえるハクから出る自分の声など全く気にならないほど、腕の中と唇で感じるハクの感触に酔いしれる
「醜くも汚くもねぇって、どうやったらお前に伝わる?」
『っ……はぁ……?』
ふとハクの首元を見ると、普段の隊服ではスカーフをしている為に見えなかった首筋の傷痕が目に入る
俺はその傷痕にも顔を寄せて口付ける
『っな、なにすんだよ!』
ハクの質問に答えずに、俺はハクの隊服のボタンを外しながら現れる傷痕に次から次へと口付ける
ハクが記憶を無くそうとも“醜い、汚い”と自虐するその言葉に、今までハクに傷を負わせた者や、そこへ向かわせた者達へ腑が煮え繰り返るのを感じると同時に、自分も怪我を負わせる場所へ向かわせた1人であるという悔しさが心の中を占める
ただ、その傷痕の一つ一つがハクを形作っていると思えば愛しいという少し歪な感情もある