土方十四郎を名乗る者
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海沿いの街の外れにある古びた空き家
その家には数週間前から他所からやってきた白髪の女が住んでいた
割れた鏡に映る人物は誰なのだろうか
頭にある『土方十四郎』という名前と鏡に映る白髪の女の顔が言いようのない違和感を感じさせる
『俺は、土方十四郎』
自分の口から出たこの低い声も、自らの口から出たその声が耳に入ることにも違和感を感じる
『………俺は……土方十四郎、なのか?』
見知らぬ島で目覚めた時、握りしめていたひび割れた青い宝石のイヤリング
金具も折れ曲がり、イヤリングとしての役割はもう果たせない
白髪の女はそのイヤリングを暫くじっと見つめた後、手拭いに包んで懐にしまうと、
空き家の入り口に立てかけてあった刀を手に出て行った
京に行く仲間たちとは真逆の方向に進んで早3日
万事屋に貰った『土方十四郎を名乗る白髪の人物』が目撃されたという街が近づくにつれて、だんだんと歩く脚が大股になり、ハクにもう一度会えるということだけでこんなにも景色が色づいて見える
ただ、それと同時に自分の予想しうる最悪のパターンでない事を願っていた
目的の街までもう少しと言うところで商人らしき男が浪人に絡まれているのを発見する
将軍が天人の傀儡となってしまってから、治安は悪化の一途を辿っていて、ここに来るまでにもこういった状況に何度も出くわした
「ったく、またか」
俺が刀に手をかけ走り出すと、俺より早く商人を助けに走る人物が目に入る
「………っ!!!」
靡く白髪に、息が止まる
ハクだ
言いたいことは沢山あったはずなのに、浪士に次々と峰打ちをくらわせ気絶させていくハクの姿をただただ見つめることしかできない
その太刀筋に若干の違和感を覚えながらも、俺は足がもつれそうになりながらハクの元まで走り、後ろから思い切りハクを抱きしめた
「……っ、ハク!ハクっ!!」
『………誰だテメェ』
抱きしめた腕の中から聞こえる、普段は俺から聞こえるはずの声に違和感を覚えた途端、鳩尾にハクの肘打ちがクリーンヒットし、俺はその場に蹲る
「っ、ぐっ、お、おいハク、なにすんだ!」
『ハク?知らねぇな。誰かと勘違いしてんじゃねぇのか?』
「………は?」
『俺は、土方十四郎だ』
「………っ!!!」
万事屋に「土方十四郎を名乗っている」という情報を聞いた瞬間から、もしかしたらと考えていた最悪のケース
今井信女から聞いた、ハクは元々あの奈落にいたと言うこと、そしてあの場にはハクの過去の上司に当たる人間がいたということ
そして、あの日、泡沫石のイヤリングをプレゼントしたあの日交わした、命令でも約束でもない、「俺を忘れないでくれ」という女々しい俺の願い
想像していた、最悪のケース
先程の浪士達を気絶させる時の太刀筋はハクのものではなかった
ハクから聞こえる声は、ハクの声では無かった
ハクという名前には、本当に覚えがないようだった
尻餅をつく俺を見下げるハクの目つきはお世辞にも良いとは言えない
ハクは今、『土方十四郎』になっている
記憶を、消されたにも関わらず
「土方十四郎は俺だ!!」
俺がそういうと、ハクは驚いたように目を丸くする
『お前……が?』
「あぁ」
ハクは暫く考えるようにすると、俺に背を向けて歩き出す
『………ついてこい』
この状況、逃げられなかっただけでも御の字だと思おうと、俺は大人しくハクについていくことにした
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