貴方といれば大丈夫

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土方達の乗った船が黒縄島から飛び立って数分後

『……っ』

信女と佐々木を庇い、船から落ちたハクはかなりの高さから落ちたにも関わらず無事だった

どうやら木が上手くクッションになったらしい

ハクはゆっくりと呼吸しながら、その場で仰向けになり土方達が飛んで行ったであろう明るくなって来た空を見上げる

少し前までの土方はそばに居なければ消えてしまうのでは無いかと思ってしまうほど不安定だった

だがこの黒縄島に来て真選組、万事屋の面々と共に近藤を助けることが出来た土方に、もうそんな不安は感じない

『……十四郎はもう大丈夫』

自分がおらずとも、近藤や沖田、頼れる真選組の仲間たちがいる、だから土方はもう大丈夫。
そう思うとホッとすると同時に鼻の奥がツンとする

『………私……は』

ハクは襟元に手を伸ばし、黒縄島に来る前に、片方だけを手拭いでくるんで持って来ていた泡沫石のイヤリングを空に向かってかざす

『あ………』

手拭いにくるんでいたにも関わらず、激しい戦いのせいで石には少しヒビが入っていた
傷がつくかもしれない、そう思いながらもここに持ってきてしまったのは本能的にこうなることが分かっていたのだろうか

ハクはギュッとイヤリングを握りしめ、ゆっくりと起き上がる

『十四郎はもう大丈夫、でも私は、十四郎がいないと……』

イヤリングをまた手拭いで包み襟元にしまうと、指にコツンと何かが当たる
それを取り出してみると、いつか土方から取り上げたタバコの箱だった

それを見た瞬間、ハクの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる

いつもいつも、ハクは自分が涙を流す理由がハッキリと分からなかった
だが今ははっきりと分かる
土方が側にいないことで、自分は泣いているのだと

まだ残党狩りを任された奈落の連中がいるかもしれない、ハクがなんとか声を押し殺し泣いていると少し離れた茂みからうめき声が聞こえる

ハクさ……ん」

聞き覚えのある声にハクが走り出していくと、そこには5名程の真選組隊士

全員酷い怪我をしており、船に乗り遅れてしまったのだろうということが分かった

『今、傷の手当てを』

ハクは自分の隊服や、隊士達のスカーフを借りて怪我をした者の処置をしていく

ハクさん、俺たちの事はもう放っておいて下さい、局長や副長達が無事にここを出られたと聞けただけで十分です

俺達に構ってちゃハクさんも脱出出来なくなってしまう」

1人の隊士の言葉にハクは全く耳を貸す事なく、次から次へと怪我の処置をこなしていく

『全ての局中法度を破ることになっても生きろって、十四郎は言ってた
だから、死んじゃダメ』

ハクがそういっても隊士達の目は暗く、諦めの色に満ちている

なんとかしなければと思うハクの脳裏に、土方のタバコのことを思い出す

ハクは隊士達に背を向けるようにして立ち、声帯模写で発したタバコに火をつけるライターの音とともに、土方のタバコを口に咥える

その仕草は真選組隊士達なら誰もが見たことがある真選組副長、土方十四郎の姿

『立て、お前ら』

低く、腹の底に響く声に、隊士達の朧げな目がハクの後ろ姿を捉える

『帰るぞ、俺達の真選組に
諦めるだのなんだの情けねぇこと言うやつは士道不覚悟で切腹だ!!』

こちらを振り向いたハクは、そこにいる隊士達にはもうハクに見えてはいなかった

外見に変装を施したわけでもないのに、声と仕草、それだけでもう彼らには土方十四郎にしか見えなくなっていた

隊士達の目に僅かながら力が戻り、なんとか力を合わせて立ち上がる

『行くぞ、島の裏手に来た時の船がまだ何隻か残ってる筈だ』

「「「はい!!」」」

そうしてハクを先頭に黒縄島に残された隊士達は進み始めた

途中、同じく逃げ遅れた真選組、見廻組の隊士達を発見しては手当てをし、船のあるところに着いた頃には20人近くの大所帯になっていた

幸い船は全員が乗るには十分な数が残っていた

ハクは漕ぎ手になれる怪我の軽い者をそれぞれの船に振り分け、歩けない怪我人達を船に運んでいく

「全員乗りました!副長!!」

その時にはもうハクハクと呼ぶものはいなかった

それもそのはず今までハクが変装して来た人間達とは見てきた時間が違うのだ

声はもちろん歩き方、呼吸のリズム、ふとした時の手や首、表情のクセ、ハクにとってそれは意識ぜずともできるほどの情報量だった

ハクは火のついていないタバコを口から離し、ふーっと煙を吐く仕草をする

『テメェらは先に行け』

「な、なんでですか副長!!」

『あそこからここに真っ直ぐ来るだけでもこんなに逃げ遅れた奴らがいたんだ
まだきっと生き残ってる奴がいる』

「だ、だったら俺たちも一緒に!」

『副長命令だ!さっさと行け!!』

ハクはそう土方の声で叫ぶと、土方らしく隊士達の乗った船を足で蹴って送り出す

隊士達は戻って来ようとはせず、泣きながら船を漕いで行った

ハクはその船を見送ると、すぐさま他に生き残りがいないか黒縄島の中を走り回った

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