副長と従順な子供
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とっつぁんに押し付けられた身元不明、その上記憶喪失の少女、ハクは俺の小姓になった
が、本当にこいつは記憶喪失になる前は何をしていたのかと思う
「……あーおい、ハク」
『なに』
「この書類、コピーしてきてくれ
昨日教えた通りにやって、10枚コピー頼む」
『分かった』
最初に真選組に来た日、こいつは言った
『私は、"土方十四郎の言うこと"を聞けばいい?』
近藤さんには考え過ぎだと言われたが、俺にはまるで、自らの行動全てを相手に任せるかのように感じた
おまけにとっつぁんに呼ばれて部屋に入ってくる時も変だった
俺も近藤さんも仕事柄人間の気配には敏感な方な筈なのに、とっつぁんがハクを連れてきていたことすら気付かなかった
しかも、俺たちよりも気配に敏感な総悟ですら、とっつぁんが帰って俺と近藤さんしかいないと思って部屋に入ってきたのだ
つまり、気配の消し方を知っているのだ
それも、俺たちが気付かないほどに気配を消す消し方を
そして仕事覚えもすこぶる良い
一度教えれば、というより見れば、間違える事なく完璧にその仕事をやってのける
正直、鉄には悪いが、上司と部下からの仕事(本当は俺の仕事ではないのだが)が山とくる俺にとって仕事が出来るのはありがたい
きっと、こいつは只者ではなかった
それははっきりと分かるのに、どうも調子が狂う
『コピーしてきた土方十四郎』
「だからそのフルネームで人を呼ぶのやめろ」
こいつが来て一夜明け、
とっつぁんから敬語では話せないと聞いてはいたが、なぜかこいつは俺の事をフルネームで呼ぶ
『ふるねーむ?』
「お前……」
こいつ、苗字がある事を知らない?
確か、とっつぁんにもハクと紹介されただけで苗字は無かった
「俺は土方十四郎だ」
『分かってる土方十四郎』
多分、俺がこいつをハクと呼ぶのと同じ意味に捉えてるんだろう
「いいか?普通は苗字と名前があって、俺の苗字は土方、名前は十四郎だ」
『名前が2つあるの?』
ハクの質問に俺は前髪をかきあげぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、どう説明したものかと頭を悩ませる
こいつは物覚えはいいのだが、この年頃の女が持っているはずの知識がない
とっつぁんは子供だとか記憶と一緒に抜け落ちたとか言っていたが、これは元からその知識が無いのではと思う
「苗字は家族から受け継ぐ名前で、名前は自分の名前だ」
『じゃあ私は土方十四郎の事を名前で呼べばいい?』
「あーうんそうだなそうしてくれ」
正直、説明するのが面倒くさい
何も知らない子供に教えるのと、考える頭のある子供に教えるのとでは訳が違う
『分かった十四郎。これコピー』
ハクは俺にコピーしてきた書類を渡すと俺の後ろに姿勢正しく正座する
もちろんこの時も、意識していないと気配が感じられないほどだ
「お前のハクって名前は覚えてたのか?とっつぁんに付けてもらったのか?」
俺は出来るだけ、得体の知れないこいつが知り得る限りの自分の情報を聞き出そうと、質問を重ねる
大体は分からない、覚えていないだが、この質問は違った
『松平片栗虎に付けてもらったんじゃない
私に名前を教えてくれたのは顔に傷のある男』
「顔に傷……?」
『名前は分からない、けどその男が私の名前はハクなんだと言った』
こいつの今ある数少ない記憶の中から顔に傷のある男というものが出てきた事で、こいつの存在が一層不思議さを増す
「……お前、また休憩しないのか?」
『十四郎がしろっていうならする』
「お前昨日もそう言ってずっとそこに座ってたろ」
『休憩は何をしていいか分からない』
そう答えたハクに、俺は目を丸くする
(こいつ、本当に記憶喪失になる前は何してやがったんだ)
「ったく、面倒クセェな」
俺が筆を置きハクの方を見ると不思議そうにこちらを見つめる宝石みたいな2つの瞳と目が合う
「俺と休憩だ、いくぞ」
、