汚くとも醜くとも
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『いらっしゃい、あら、初めての方?』
「おぉ、なんて美しい!!ほかの客たちが噂していた通りだ」
『まぁ、嬉しい』
(わ、笑ってる……)
『白百合』という源氏名で吉原へ潜入することになったハクちゃんの部屋の屋根裏から、俺は息を潜めて様子を伺う
遊女になりきっているハクちゃんは怖いくらい美しく、自然に微笑む
(屯所じゃ笑ったとこなんて見たことなかったのに……)
「その白銀の髪に白い肌、そしてなんと美しい、黒真珠のような瞳か!!」
ハクちゃんの瞳は目立ち過ぎるということで、急遽黒のカラーコンタクトをすることになった
が、それはそれで評価は上々だ
「なんでも客を選ぶそうじゃないか」
『あら、遊女にだって好みはあるわ
私、秘密がありそうな人がいいのよ命に関わるような秘密
その秘密を私にくれたら、相手を私の物に出来るでしょう?』
目を細めながらターゲットの手の甲をすっと指でなぞる
ハクちゃんの観察眼は凄まじく、ターゲットが吉原に来るまでの3日間で他の遊女達の仕草を完全に自分の物にしていた
「……っ、ゴホン、秘密か」
『えぇ、秘密』
(吉原に通い慣れてる男があれだもんな……)
俺は予想以上の成果に冷や汗をかきつつも笑ってしまう
この調子なら次に来た時にでも全てを話しそうだ
『今日はいいのよ、初めてだもの、お酒呑んで帰ってくれれば
でも、今度会うときには秘密を教えて頂戴ね?私もとっておきの秘密を用意しておくから』
ターゲットはその後酒をたらふく呑むと、名残惜しそうにハクちゃんの手を撫でて帰った
「お疲れ様、ハクちゃん」
俺が屋根の板を外し、ハクちゃんの元へ降りると、ハクちゃんの顔はいつもの無表情に戻り、肩の力を抜いたのが分かった
「大丈夫?」
『……大丈夫』
「ハクちゃん、最近全然眠れてないんじゃないの?枕が違うと眠れないとか?」
そう、ハクちゃんはこの3日間、一睡もしていない
毎晩布団に横になってはいるのだが、眠っている様子がないのだ
お白いで隠してはいるが、その下にはクマができてしまっている
『この前、横になっても眠れたから……でも上手くいかない』
「そっか……体調が悪くなったら言うんだよ?副長の命令だからね」
『………分かった』
と、鳴らないようにしていた俺のケータイの画面が光る
「あ、副長だ
もしもし、どうしましたか?」
『ハクは』
「今ターゲットが帰ったところで、一緒に居ますよ
代わりますね」
俺はハクちゃんにケータイを手渡す
『どうだ、調子は』
『…悪くないと思う』
「悪くないどころじゃないよ
完璧すぎて怖いくらいです」
『ならいい
だがな、本当にどうしようもなくなったら蹴って殴って逃げろ』
『分かってる大丈夫』
『そうか
帰ってきたらまたドーナツ買ってやる』
『!……うん』
そうして短い会話をした後、副長が電話を切ったのか、ハクちゃんが俺にケータイを返した
「副長、なんだって?」
『帰ったらドーナツくれるって』
「そっか頑張ろうねハクちゃん」
『うん』
当初の予定では、ハクちゃんである白百合という遊女の話はターゲットである攘夷志士にしか伝わらないようにと店にお願いしていたのだが、人の噂とは怖いもので白百合という白銀の髪を持つ美しい遊女がいるという噂は瞬く間に広まってしまった
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