鬼と兎の乙女心
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翌日、俺はロクに沖田くんに声をかけてやることも出来ないまま見送ってしまった
普段、気の抜けた歩き方ながらも自信の感じられた後ろ姿はない
神楽は時雨に月光鬼の事を伝えただろうが、俺は沖田くんにそれを伝えることができなかった
そんな沖田くんの背中を見送っていると、背中からズルズルと鼻水をすする音と共に、「ぎんぢゃぁーん!!」というダミ声が聞こえた
振り向くと、そこには新八とかつて見たことがないほどボロボロと涙を流す神楽の姿
「お、おい神楽、どうした!?新八、何か知ってるか?」
「わ、分かりません!」
「ごめんネ、ごめんアル時雨ーーー!!」
俺の質問にも答えず、何故か時雨に何度も謝っている神楽に俺は困惑するばかりだった
昨日の夜
時雨が真選組の屯所にいる時、銀ちゃんから電話があった
時雨が、サドやそして銀ちゃんを殺して喰ってしまう
白姫が言っていた事と、銀ちゃんの言葉で私は、白鬼もサドも銀ちゃんも勝手だと思った
だって、時雨は何も知らないんだ
サドを殺してしまう事も
銀ちゃんを殺してしまう事も
それを防ぐ為にサドか時雨を殺さなければいけない事も
何もかも、時雨は知らない
「あ、時雨、起きたアルか?」
「ん、あぁ神楽……ここは屯所……だな」
「うん
あのね、時雨、私、時雨に言わなきゃいけない事があるネ」
布団から上半身だけ起こした時雨が、神楽を見つめる
「時雨は、その、月光鬼に、なるアル」
「……」
「そしたら、時雨は……」
「いいよ神楽
知ってるんだ白姫から聞いた」
「え……?」
月光鬼の事を知っているという時雨に、神楽はポカンとした顔をする
「知ってる
いや……本当は自分で気付いてたんだと思う
僕が僕じゃなくなるって」
余りにも淡々と話す時雨に、神楽は開いた口が塞がらない
「それに、総悟が終わらせてくれるんだろう?
分かったんだ
シロや総悟が一番に助けてやるって言ってくれてた意味が」
「平気……アルか?死ななきゃならない、のに」
「平気…じゃないな、でも、僕のせいで総悟や銀時殿が死んでしまう事を思えば平気にもなるさ」
平気な訳がない
それは分かっているのに、神楽は「そうアルか」と返事をしてしまった
「なぁ神楽、総悟は僕が全部知ってるって知ってるのか?」
「銀ちゃんは知ってるヨ
でも、サドには言ってないと思うアル」
時雨は「そっか」というと力なく笑った
「どうせ殺されるなら、知らないフリをして最後にいい思いをしてもいいだろうか?」
「え?」
「デート、しようと思うんだ」
時雨はそう言って今にも何処かへ行ってしまいそうな程、儚げな笑顔で笑った
その後、時雨は屯所の門まで神楽を見送った
「ありがとう神楽
悪かったな、辛い事言わせることになって」
「そんなことないアル」
神楽がそう言って立ち去ろうとすると、時雨が神楽を呼び止める
「神楽」
「なにアルか?」
「銀時殿が死ぬことはないよ、総悟が全部終わらせてくれる
だから、そんな顔するな」
そんな顔って、どんな顔だろう?
神楽は時雨の言った意味がよく分からないまま、うんと言って銀時と新八の待つ万事屋へ帰って行った
神楽は遠回りをして万事屋へ帰った
なんとなく、沖田に会いたくなかった
「……銀ちゃん」
屯所から真っ直ぐ帰れば通る道を遠回りをした為反対から歩く
丁度、沖田が万事屋から出た所で、
頼りなく歩く沖田の後ろ姿を銀時が見つめている
そんな銀時の背中を見て、神楽はハッとしたように自分の口を押さえる
自分は時雨になんと言った?
『平気……アルか?死ななきゃならない、のに』
神楽の目に涙が浮かぶ
自分は言ってしまったのだ
時雨に、死ななきゃならないと
それは、時雨よりも付き合いの長い銀時を無意識に選んでしまっていたという事
時雨に、死んでくれと、殺されてくれと
銀時を殺さずに、1人で、
死んでくれと
「ぎんぢゃぁーーん」
ボロボロと流れる涙が止まらない
「ごめんネ、ごめんアル時雨ーー!」
銀時や新八が神楽を心配する声が聞こえるが、神楽は何度も何度も時雨への謝罪を口にする
時雨の事を大切に思っていない訳ではない
ただ、万事屋という地球で見つけたもう一つの家族を失うことの方が恐ろしいと、そう感じてしまったのだ
時雨は化け物にならないと言ったのは自分なのに
「ごめんアル時雨っ……ごめん」
時雨だけが知らないのを、心のどこかではズルいと感じていたのかもしれない
銀時や沖田や自分に罪悪感だけを残して時雨が死ぬことがズルいと
けれど、一番ズルいのは自分だった
時雨も分かってる、分かってて、仕方なく沖田に殺されるのだと
時雨が分かっていれば、仕方ないと思っていれば、自分や銀時達の罪悪感も減るのではないかと
(結局、私が考えてたのは、私のことだけアル)