鬼と無知
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時雨を探してかぶき町を駆け回る
沖田に時雨は任せろと言ったものの、時雨の脚が想像以上に早く、神楽はしらみ潰しにかぶき町を走っているのであった
「早く、早く見つけないと時雨が!」
沖田の部屋を開けた瞬間、目に入った必死に自分の腕に噛み付く時雨の姿
神楽はそれを見たことがあった
いや、正しくは ”そうなったことがあった”
それは吉原で阿伏兎と戦うことになった時のこと
新八を救う為に自分の中の夜兎という名の獣を解き放ってしまったこと
時雨はまだそこまでに至ってはいないが、早くしなければ理性を無くし、飲まれてしまうだろうということはハッキリと分かった
「時雨っ……どこにいるアルか!!」
神楽は足を止めず、かぶき町の外れの方へと走った
「相変わらず小汚い化け物ね
その何かに噛み付かれたみたいな腕はどうしたのかしら?ふふっ
まぁ、私はもう小汚いどころじゃ無いけれど……」
「用は……なんだ、早く言え」
自分で噛み付いた腕を押さえ、喰べてしまいたいという衝動を抑えるのに必死な時雨は、川沿いのベンチに座る白姫からある程度距離を置いて話す
「単刀直入に言いましょう
私はもう今日持つかどうかの命、その前に貴方を殺して差し上げても構いませんわよ?」
「……は……?」
「あらその顔……この申し出が貴方にとってどれほどありがたいことか分かっていないのですわね
月光鬼を殺してやると言っているのよ」
「月光鬼……僕、が……?」
沖田の口から一度だけ聞いたことがあった
月光鬼とはなにか知ってるかと
「あぁ全く、白鬼様といい、生まれ変わりの沖田総悟といい、この化け物に自分が何なのか教えていないのですわね
あなたはおかしいと思ったことがない?緑鬼にも関わらず金色の瞳を持っていること」
「それは、僕の先祖に黄鬼がいるからだってシロが……」
時雨がそう言うと、白姫は甲高い声をあげて笑い出した
「あは、あはははは!
とことん甘いのですわね白鬼様は!!
あなたのその目は黄鬼のそれではありませんわ!!
その瞳こそ、月光鬼たる証なのよ!
鬼の血を引く者全てを喰らう、同族殺しの月光鬼のね!!」
「なっ……」
”同族殺し”その言葉に時雨の表情が強張る
「おかしいと思わなかった?
最下級身分の緑鬼であるあなたが白鬼様に1番近い護衛役になるなんて
バカよね本当に、そうなったのは、月光鬼となったあなたを殺す為だっていうのに」
そう言う白姫に、時雨は呆然としつつも、月光鬼とは何なのかと尋ねた
「無知というのは酷いものね
周りの者ばかり不幸にして
月光鬼、それは月に呪われた鬼
月が満ち、欠けていくにつれて、その呪いは強くなる
あなたの様子を見る限り、もう数日後にはあなたという存在は消え去り、ただの化け物、月光鬼となるでしょう」
僕という存在が消える?
それは最近、僕がずっと感じていた事
元々多い食べる量がより増えるほど
飴を食べる量が増えるほど
総悟のことを見たとき、愛しいと思う気持ちが溢れて溢れて、それが逆にドス黒い何かに蝕まれていくように感じるほど
僕が、僕でなくなる
「数日後の新月の夜、あなたは月光鬼となって、白鬼様やこの時代に生きている全ての鬼を喰らう化け物になるのよ
月光鬼に喰われた鬼が生まれ変わることはない
あなたは一生、死ぬことも出来ずに1人で生きてゆくことになるのよ」
じゃあ総悟やシロが悩んでたのはそのせいだっていうのか
いつか僕でなくなってしまう僕を殺すため
あんなにも切なくて、泣きたくなるような表情で僕を見つめたのか
「そんな月光鬼を殺せるのは白鬼の一族だけ
沖田総悟というあの白鬼様の生まれ変わりの手をあなたの血で汚したくなければ私が殺してあげてもいいわ」
白姫の提案に時雨は息をのむ
が、時雨は先ほどの白姫の言葉を思い出した
「お前はそんな身体でどうやって僕を殺すつもりだ
第一、僕が月光鬼になった時、お前はもう死んでるんじゃないのか」
時雨の言葉に白姫が笑う
「なんだ、面白くないですわね
あなたが私に殺してくれと無様に縋る時に死んでいたら面白いと思いましたのに
じゃあどうしますの?沖田総悟に殺してくれと頼むのですか?
化け物となった自分をこの世から葬り去ってくれと」
時雨は白姫の言葉に強く拳を握りしめる
「僕はっ……月光鬼になんか、ならない」
「あらあらまあまあ
今更そんな事を言ってどうなりますの」
白姫はそう言って笑うと、短刀を取り出して自分の首元にスッと滑らせた
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