鬼と渇き
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「おばちゃん!今日はいつもよりご飯大盛りにしてくだされ!」
他の隊士より頭一つ分以上小さい時雨が元気よく食堂のおばちゃんに注文する
「あらあら時雨ちゃん
最近よく食べるわねーでも全然太らないから羨ましいわ
はい、ご飯大盛り!可愛いから唐揚げもオマケしちゃう!」
「ありがとう!」
ニコッと笑って食事を受け取る時雨は食堂のおばちゃん達にも大人気である
元々可愛らしい顔だった為に人気だったのだが、女であると分かってからはまるで娘のような可愛いがられ方になっている
「あらおはよう土方さん
土方さんもまだ若いんだからいっぱい食べなきゃだめよ?」
時雨に続いて食堂にやってきた土方に、おばちゃんが大盛りのご飯を差し出す
「若いっつってもそれはおばちゃんと比べたらだろ?
俺はもう30近いんだよ」
「それにしても最近本当に食べる量が多いわ時雨ちゃん
ねぇ、何かあったの?
まさか時雨ちゃんにとんでもない量の仕事押し付けたりしてないだろうね?」
「いや、仕事の量はむしろ減ってると思うんだがな……」
土方と食堂のおばちゃんはそんな会話をしながら、沖田の前で美味しそうにご飯を食べる時雨の後ろ姿を見ていた
「んんーー!今日の唐揚げも最高だな!」
「お前は本当に飯を美味そうに食いやすねィ」
「美味しいからすぐにお腹が空くんだ」
時雨はそう言いながら唐揚げを口に運ぶ沖田の手をじっと見る
「…………ったく、そんなに見られたら穴が空きまさァ
ほら」
「え、いいのか?」
沖田はそう言って唐揚げを時雨の口元に差し出す
「あーん」
大きな口を開けた時雨の口からキバが覗く
沖田は一瞬、この前の夜のことを思い出したが、美味しそうに口の端にご飯粒をつけながら唐揚げを頬張る時雨にそんなことはすっかり忘れて、餌付けするようにもう一つ唐揚げを時雨に食べさせた
「ちょっと総悟!朝からイチャイチャしないの!」
「そうですよ沖田隊長
局長が可哀想じゃないですか」
「ザキィ!!?
お前には言われたくないんだけど!!」
「おっ、俺は局長とは違いますよ!
俺はただたまさんの事を見守っているだけで……」
「俺と変わんないじゃん!!」
朝からイチャつく2人に、ストーカー2人は朝から泣いたという
「総悟ーお腹空かないか?」
「まだ10時ですぜ?
12時になったら昼になりまさァ」
「うーー」
沖田の部屋で2人で書類を書いていく
殆どが沖田の始末書なのだが、時雨と一緒であれば沖田がある程度、あくまでもある程度、真面目に書類をするということが分かった土方は時雨と一緒に書類が出来るように見回りの時間帯を組んだ
もちろん、それは時雨といる時間を増やそうという沖田の策略にはまった結果でしかないのだが、土方は知るよしもない
「いてっ」
「ん?どうした総悟?」
文机に時雨と向かい合わせで座る沖田が手を押さえる
どうやら紙で指を切ったらしい
「大丈夫か総悟?
あぁ、血が出てる」
「大丈夫でさァ
これくらい平…………っ……」
時雨は沖田の手をとり、指先から出た血を舐める
「………」
「っ、時雨……時雨?」
「ん、ん……」
「時雨!」
指先を舐めるではなく口にくわえる時雨に、沖田が大きな声を出す
「え、あ……」
「もう傷は塞がってまさァ」
時雨は沖田の手を離し、手で口を覆う
「なんでィ、そういう気分になりやしたか?」
「……………」
ニヤついてそう尋ねる沖田だが、時雨からの返事はなく、口を押さえ、目を泳がせて固まっている
「時雨……?」
沖田が時雨の肩に触れようとすると、時雨はパッと立ち上がった
「ば、絆創膏とってくるな!ちょっと待っててくれ!」
「時雨?傷は塞がって……」
時雨は沖田の話も聞かず、部屋を出て救護室に向かってしまった
沖田の身体は鬼に近づきつつある
時雨の血を飲んだ直後程ではないにしろ、傷の治りは常人よりかなり早くなっており、ましてや小さな切り傷なんて数秒もあれば跡形もなく消えてしまう
時雨が、その事を知らないはずはない
沖田はつい先程まで時雨の口の中にあった傷一つない指先を1人見つめていた
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