hust

hust/羅浮世界観
地衡司狐お兄さんと男開拓者がソシャゲ体験版で遊んでる話。
金人港実装あたりの内容になります。

(夢主設定)
然玉
地衡司を務める狐族男性。長楽天や金人港周辺を主に担当している。薬王秘伝の取締中に開拓者と出会い、それ以降開拓者のことを「灰牡丹」と呼んでは依頼を吹っかけている。
---------------------------------------------------

【最終幻戯曲】

「灰牡丹くん、折り入って頼みがあるんだが」

「俺への折り入りは高くつくぞ」
「ああ、分かってる。今回は耳でも尻尾でも触り放題だ。金人港で使える金券もオマケでつけてやってもいい」
「よし話を聞こう」
 そのオマケの付け方は、仙舟の法に引っかかるのではないか――そんな疑念は破格の報酬によって塵のように吹き飛んだ。こんなにも極上の触り心地をもつ部位を普段からちらつかされているのに、この狐族の男ときたら1ミリたりとも触らせてくれないのだ。……もちろん穹とて親しい友人たちの嫌がるようなことはしない。だが、彼は触られるのが嫌というわけではない。むしろ、耳や尻尾に興味津々だった穹に「触ってみるか?」と声を掛けてきたのは彼の方からだった。彼は実に度量の広い狐族なのである。
 一つ、タダでは触らせないという点を除いて。
「長楽天にいる知り合いで幻戯……所謂、お前のやってるスマホゲームみたいなやつのことなんだが、それを作ってる奴がいてな。近々テスト段階に入るらしい。結構込み入った内容らしくて、熟練のプレイヤーを探してる」
「俺の出番だな」
 その言葉を待っていたと言わんばかりに、彼がにやりと笑んだ。百年以上生きているはずだがどこか茶目っけを残した、悪戯そうな笑みである。
「で、実はあと二人必要なんだ。とりあえず一人は俺の方で確保したから、もう一人誰か連れてきてくれないか? 勿論、そいつにも報酬をやるから」
「えっ、然玉おにいさんの尻尾を他の誰かにも触らせるってこと?」
「心配しなくても、狐族の尻尾を触ることを報酬として要求するのはお前だけだ。報酬はまた別のものを用意するに決まってるだろ。そうだな、金人港で使える金券を……」
 だから、それは法に引っかかるのではないか。先程抱いた疑念をぶつけてみると、「面白いことを知ってるな」と笑われた。
 彼と話していると、天舶司にいる夕葵のことを思い出す。彼女のように、彼もまた穹のことを幼子のように扱うのだ。同じく天舶司にいた御空や停雲はそのようなことがなかったから、狐族の皆が皆そういうわけではないのだろう。ただ、穹が思うに、然玉という男は地衡司という立場上、そして彼の性格上、殊俗の民と接触する機会が多い。困った短命種を見て手を差し伸べ助けること、そんな変わった趣味を持っている。彼はそれが仕事だと言うが、それなら毎回穹に依頼を持ちかけてくる必要はないはずだ。地衡司がいくら忙しいとはいえ、彼には幅広い人脈というものがあるのだから。
「丹恒を誘ってみるよ。彼なら尻尾を触らせてもいいから」
「おいおい。何も知らない善良なナナシビトを、お前の変な趣味に付き合わせるんじゃないぞ」
「失敬な! 俺も善良なナナシビトだ」
 この仙舟羅浮でも、気付けば様々なことを体験してきた。様という肩書きがつくような身分の人達にも出会い、新たな敵とも対峙し、そして身近な友人の経歴を知った。然玉もまたその忙しない日々の中、長楽天での薬王秘伝の一件で遭遇した。知り合ってからこれまで、変わらず自分の戯れに付き合ってくれる貴重な友人の一人である。そのかけがえのない関係はずっと変わらないのだろうとさえ思った――少なくとも、この極上の触り心地を開拓しきるまでは。

「ところでその幻戯、なんて名前なんだ?」
「まだ仮らしいが『最終幻想』とかなんとか」
「よく分からないけど今すぐ変えた方がいいと思う」
「だよなあ」



「助かったよ。制作者も喜んでたぞ、凄腕のプレイヤーのお陰で隠れバグも見つかって、ストーリーの論理的齟齬までも指摘してくれるなんて、ってさ」
「ゴミ箱を開けるとステータスに全バフがかかるなんてバグ、まさか誰も見つけなかったのか?」
「見つけなかったということは、多分お前が初めてなんだろうな」
 然玉からの依頼を受け、穹は丹恒をつれて長楽天に滞在していた。依頼内容は大した内容ではないし――これを然玉の知人に言ったら怒られそうではあるが――、羅浮という場所自体もこの友人にとっては様々な感情を思い起こさせる場所に違いない。ただ丹恒は少し考えた後、「分かった」と短答してくれた。こちらの予想がすべて杞憂だったのではと思いくらいにあっけらかんとしていた。
「大した内容ではない依頼だったからこそ気分転換にいいと思ったんだ。それから、今羅浮で流行っているものに触れる良い機会でもあったからな」
 後から聞いたが、そういうことだったらしい。

「じゃあ早速報酬を……」
「待て待て、まさかこんな公衆の面前でやるつもりか?俺の体裁も考えてくれよ。そんなんだからお前、いつまでたってもガキ扱いなんだぞ」
「誰がいつ俺のことをガキ扱いなんてしたって言うんだ?夕葵おねえさんも俺に優しくしてくれた」
「それだよそれ」
 テストプレイを終え、長楽天の屋外茶席で一服する。羅浮の茶に慣れてきたこの頃だが、積み重ねてきた年数が桁違いなせいかその奥深さも桁違いだ。一文字違うだけで全く別の味がする茶もあれば、違う名前なのに同じ味がする茶もある。さらには茶と名のつく酒のようなものまで存在する。ちなみにこの狐族の友人はその|茶《・》を好んでいるらしく、「烈炎濃茶は燃えれば燃えるほど良い」と店主と同じことを言うのだ。どうやらその他の|茶《・》には強いらしい。
 然玉は茶を飲み干すと己の膝を叩いた。穹の要求の目についに耐えかねたらしい。
「全くせっかちさんだな。分かったよ。今から列車にお邪魔させてもらうから、そこでならいいぞ――っとその前に、丹恒くん」
「いや、これは受け取れない」
「やれやれ、義理堅いなお前。こういうのはな、何事もなかったかのように財布に入れておけばいいんだよ。いつか役に立つから」
 彼は約束の金券を丹恒へと差し出した。勿論、この生真面目な友人が首を縦に振って受け取るわけがない。一度列車を離れても尚再び自らの意志で戻ってきた彼には、ナナシビトとしての尊厳が十二分に備わっている。それは狐族たった一人が崩せるものではない。
 そう、たとえ極上の触り心地の尻尾を持っていたとしても。
「気持ちは有難いが、ナナシビトは見返りを求めて行動しているわけじゃない」
「はあ……」
 穹の期待通り、この友人は模範回答で切り返した。ナナシビト検定で言うところの100点満点。これには然玉も付け入る隙がないらしく、耳を揺らしてため息をついた。

「聞いたか? 聞いてたよな。反省してるか? 穹」
「ああ今すごく反省してる。今のうちに尻尾触っておけばよかったなって」
2/3ページ
スキ