hust

hust/幻朧
名もなき戦士の独白。
メインストーリー羅浮編・第二章終盤の内容を含みます。

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【金剛】

「己は傷付かぬ頑強なものであると?――はは、おかしなことを言うではないか。お前の同胞達は皆形すら残さず砂のように崩れ去ったというのに」

 それは女の声をしてせせら笑う。それこそ姿形を持たぬというのに、それはただ形のない指を弾いただけで、この星にごまんといた戦士達を自滅に導いた。亡骸は反物質レギオンという勢力により踏み倒され、荒れ果てた故郷の大地に横たわる砂となり、そして大地までもが形を失った。
 この身も、同じようになるはずだった。しかし身体の一部が金砂になりかけたところで、突然肉体の崩壊は止まった……正確には、止まっていると思う程に緩やかになった。
「この星でただひとり、お前は生き残った。どのような感情だ? 歓喜か、それとも妾への憎悪か。故郷を失った絶望からくる虚無感か」
 これは単なる戯れなのだと、それが口にせずとも理解できた。姿形のないそれは確かにこちらを見下ろし声を降り注ぐ。あるいは背後から囁かれているかもしれない。
 どのような感情か。その問いかけには、正直なところ全てが肯定だった。無惨な死からの猶予を与えられた喜び。同胞を失わせる状況を招いたそれへの憎しみ。そして全てを失ったにも関わらずただひとり生き残ってしまったことへの、虚しさ。……頷くことは簡単だ。だが。
「お前は僅かな投石で山崩れを起こしたと思っているだろう。確かに我々はその土砂で埋もれて死んでいった。だがたとえ山がなくなったとしても、その痕跡は無くならない。我が矛があるかぎり」
 この星の戦士は、皆誇り高い者たちだった。いくら甘言を囁かれたとて、首を縦に振ることはないのだ。
 それは女の声をしてせせら笑った。
「虚勢を張るか。だがまあ、良いだろう。この星は些か退屈だった……大役を賜るがよい。最早その命、我が壊滅の下よ」
 途端、おさまっていた肉体の崩壊が再び始まり……否、それは新生でもあった。埋め込まれた因子が血管に沿って全身を這い回り、細胞を侵し、作り替えようとする。輪郭だけを残した手足はすでに元の体の面影はなく、名状し難い姿に成り果てた。こんなにも不安定で歪であるのに、まるで万能を与えられたかのように力を感じた。まるで神のような優越感すらあるのに、この姿形のないそれに釘一つ刺すことすら叶わない。

 それは女の声をしてせせら笑い、俺をこう呼んだ。
 ――金剛、と。



「覚悟せよ。幻朧」
 雷を纏う神将を顕現させ、一人の歴将が槍を振るった。妖花を次々と薙ぎ払い、それに一人また一人と味方の攻撃が続いていく。
 智将と名高い仙舟羅浮の将軍。輪廻を遡るように飲月の名を体した龍尊。数多の星を駆け巡る、亡き星神を乗せた星穹列車。
 役者は出揃った。頭数こそ少ないが、おそらくは最近の戦闘としては最も勝機があるだろう。
 地に肘をつきそれは微笑む。その瞬間だけは他の誰でもないただ一人、自分へと視線が注がれていた。

「この姿は美しいか? 金剛」
「ああ。その美しさのまま、俺が斃そう」

 この中の、誰の凶器に斃れても構わない。
 ただ叶うならば、その凶器が我が手であることを——。
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