咎狗

咎狗/アキラ
※ほんのりBL要素みがありますのでご注意ください。
全年齢の話を書いているのにどうしてBL要素みがあるんだろうと思っていましたが、原作がそういう話だからですね…。
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【未開拓の末期中毒者】

「俺は、その力を持ったのがお前で良かったと思うけどな」

「お前の血を飲めば体内のラインは中和される。ってことは、綺麗に無くなるってことだろ」
 アキラは凝視した。狂っているのではないかと疑った。
 ——良かっただって?
 それをあろうことか、呪いのようだと苦しんでいる本人の目の前で言うなんて、気が触れているとしか思えなかった。コンクリート壁に凭れ掛かり肩で息をする男を見下ろして、アキラは責め立てた。
「あんた……俺が言ったこと聞いてなかったのか?馬鹿なのか?俺の血を飲んだ奴がどうなったのか、あんた見てたよな!?」
 彼は未だ額に大粒の汗を浮かべている。眉間に出来たいくつもの皺と相まって、苦痛が隠しきれていない。
「見てたな」
「それにあんた……今飲んだよな……」
「飲んだな」
 彼は苦笑していた。
 あれは、事故だった。怪我をしたアキラの身体を支えた時に触れた血液が彼の手についていて、そのまま口元を拭ったのがおそらくの原因だった。その結果彼もまたライン使用者であることが分かった。否、分かってしまった。
「だからなんだ、中毒死するか副作用で死ぬか拒絶反応で死ぬかの違いだろう。こんな得体の知れないもん口に入れた時点で分かりきってたことだ」
 アキラの懸念など大したことはないと、彼は笑い飛ばした。……その笑顔は、ただひたすら苦痛で歪んでいたが。
 けれども、彼はこれまで見てきた使用者達のように絶叫してのたうち回ることは決してなかった。苦しいことには変わりないはすだ。それでも彼は声を押し殺す。青筋が浮かんだ手で胸を押さえ、声を押し殺すために固く閉じた歯からは軋む音が聞こえた。息を荒げて只管耐える姿を見て、疑問さえも浮かんだ。
 ——どうしてそこまで耐えるのか、と。
「気持ち悪いと思われるかもしれねえけど」
 彼はまた苦笑した。
「お前の血を飲めば、楽に逝けそうなんだ」
 そんな苦しそうな顔で、か?
 言葉にはならなかった。ただ顔には出ていたようで、ははと乾いた笑いが彼の口から溢れていた。
「……狂ってるな、あんた」
「よく言われる」
 本当に狂っている。そうでなければ、全身が痙攣し呼吸すら奪われるような痛みの中で、何故笑って会話ができるだろう。
 彼は地面にへたり込んでアキラを見上げていた。背丈のある彼はいつもこちらを見下ろすばかりで、考えてみれば新鮮な状況だ。
 こちらを見る黒い目は、

「——————」
 僅かに、光を取り戻していた。

 もう一度確かめようとしたが、重たい瞼によって遮られてしまう。それまでうわ言のように吐き出していた言葉の数々も聞こえなくなり、事切れてしまったのかと慌てて彼の手を取った。
 温かく——死んでは、いなかった。
「はぁ……」
 激痛に意識を飛ばしただけのようだった。ギャラリーはいないとはいえ、アキラも仮にもイグラ参加者のタグ持ちなのだ。
 呑気な男を改めて諦観する。暫くは目を開けそうになかった。——意識を取り戻した時、次に目を見た時はあの黒い目は濁ったままなのだろうか。先程の僅かに光を宿した黒目を思い出した。……泥中に埋もれた黒曜石にも見えたが、彼の場合はもっと生々しいものだろう。冷たく固い無機物などではなく、もっとあたたかいもののはずだ。

 自分の血であれば、彼の瞳に再び光を取り戻せるだろうか。

 全身の血が沸き立つ気がして、彼からたまらず顔を背けた。
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