咎狗
咎狗/アキラ
ソリドで盛り上がってるだけの話。
原作はガツガツのR18BL作品ですが、この話は全年齢内容になっています。オムライスも隠語とかではないです(オムライスに失礼)。
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【本物も作り方も知らない俺たち】
――本物のオムライスも好きなのか?
そう尋ねた時、口数も反応も少ない銀髪の少年が、この時は僅かに首を傾げた気がした。
大戦が終わり二つに分断したニホンという国。争い事の後に愛を高く掲げたはずの故郷は、戦うために幼少期を費やされた子どもたちにとっては延長線上の地獄のようなものだった。
あれだけ戦えと命じられてきたのに、次の日には戦うなと教え込まれた。
他人を憎めと叩き込まれたのに、次の日には他人を愛せと抑え込まれた。
若者がこの土地トシマに、そしてトシマで開催されているゲーム・イグラに惹きつけられるのは、ある意味自然現象だったのかもしれない。たったいくつかのルールさえ守れば、殺しも嬲りも許された世界。一般常識的には……狂っている無法地帯だろう。だが大戦時に幼少を過ごした若者にとっては、外の世界にはあった抑圧がトシマにはないのだ。欲するなら、己の力で掴み取る。そこに他人がいるなら殴ればいい。殴って斬って、背中を地面につけさせて首の飾りものを奪い取ればいい。
それは昔散々教え込まれたことそのもので、“俺たち”が再現するにはそう難しいことじゃなかった。
けれども、いくらか狂っていると自覚がある俺にも――気の合う同世代と飯を食べる時間は楽しいと、感じられる人間性は残っているようだった。
「食欲がないのか? まあ無理もないけどな、食える時に食わねえとこの先やっていけないぞ」
「そうそう。どっかの誰かさんみたいに、処刑人にいつ追い回されるか分かったもんじゃないからね」
「うるさいな……」
中立地帯のひとつである廃ホテル。その一画のソファとテーブルを陣取っている。テーブルにはブタタグで交換した水とソリドを並べた。共にいた顔見知り、かつ同じくイグラ参加者のリンも、珍しく同様にタグを消費していた。
よほど彼ら、この二人の新入りが気になるのだろう。
「もしかして、さっき交換してたタグがルール違反で奪ったものだったとか……」
「オイ、冗談はよしてくれ。全部ちゃんとルールに則って取ったやつだ。向こうが難癖つけてくるんだよ。お前らも見ただろ、あの二人が話を聞かねえところ」
「きっと難聴なんだよ」
う、と新入りの片方が顔を顰める。先程処刑人が“処罰”した参加者の光景を思い出したのだろう。食べろと進めた矢先、食欲を無くすようなことを思い出させてしまうとは我ながら失策だが、どのみちその様子では前途多難だ。この土地でやっていくには、早めに慣れておいた方がいい。隣の少年のように悪態をつけるほどに心臓に毛が生えるくらいが丁度いいのだ、ここでは。
そういう意味では青ざめた友人の隣で黙々とソリドを口にしているもう一人の新入りの方が、まだ望みはあった。
「アキラを見習え、ケイスケ。ここでは死体を見た後に飯だなんて日常茶飯事だ。それが嫌なら、そうならない状況でやっていけるように死に物狂いでやるしかない」
我ながらスパルタだろうと苦笑した。未だ青白い顔をしつつも下がり眉の新入りーーケイスケは頷く。一方、黙々と咀嚼する新入りの方はじっと床を見つめていた。
「……アキラ、またオムライス味食べてる」
そうぽつりと呟いたのはケイスケだった。
彼はよくアキラを気に掛けていた。気に掛けていたというより、正直なところ、よく目で追っていた。彼らは同じ孤児院で育った幼馴染と聞いている。ーー心配、なのだろう。口数も少なければこんな容姿であるし、彼よりも少し体格の良いケイスケが案じるのは理解に苦しむことはなかった。
だからなのか、ケイスケからアキラの事を間接的に聞くことはこれまで何度かあった。アキラがBl@ster個人戦優勝経験者であること、腕にそれなりに自信があること、孤児院で育ったこと。
それから、オムライス味のソリドが好きらしいということ。
「好きなのか?」
答えはない。それも予想していた。
俺はリンのように愛嬌良く振る舞えない。かといって、嗜好について脅すように聞き出す気もなかった。ただ世間話のように、ごく自然な会話に努めただけだ。ブタとはいえ生命維持のためにはあって困らないタグを使い彼らに分け与えたのだから、喜んでもらった方がこちらとしても気分がいい。とはいえ、これは俺が自己満足でやっただけのことなのだが。
「ま、見た目はどう見ても似てないけど、味はそれなりに再現できてる方だよな。本物の方も好きなのか? 俺はあのドロドロの卵がどうも苦手なんだけど……」
そう言いかけたところで、言葉を紡いでいた舌が止まった。今まで視線を合わせなかった銀髪の少年がこちらを見ていたからだ。
それも、どうにも解せないような顔で。
「…………」
「もしかして、料理の方のオムライスを見たことがないのか」
彼がそう言ったわけではない。
だが、その表情が物語っていた。
「——そうだな。今や飯屋で出してるようなもんじゃねえしな」
リンは、その場にはいなかった。写真を撮りに行ったのだろう。
「ケチャップで味付けした飯の上に卵焼きを乗せた料理、って言えばいいのかな。好みによって乗せる卵焼きはしっかり焼いたものだったり、半熟のものだったりする。半熟の場合はオムレツ……っと、オムライスの飯無しだ、アレを上に乗せて、食べる時に割って食うって形が一般的だな」
「……何言ってんだあんた」
「うるさいな、見た事ない奴に説明すんのは難しいんだよ。俺は食べ専だし。兎に角もっと美味いんだよあれは。俺は半熟は苦手だけど」
優しい幼馴染がへえと感嘆を漏らした。
俺も長い間トシマにいる。こうして料理の話をしたのはいつぶりだろうか。
「食わせてやりたいなあ。本物の味ってやつ」
「あんたさっき食べ専って言っただろ」
つい数分前まで一言も発さなかった少年が鋭い突っ込みを入れてくる。
彼は本物の味を知らないが、俺は作り方を知らないのだ。
ソリドで盛り上がってるだけの話。
原作はガツガツのR18BL作品ですが、この話は全年齢内容になっています。オムライスも隠語とかではないです(オムライスに失礼)。
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【本物も作り方も知らない俺たち】
――本物のオムライスも好きなのか?
そう尋ねた時、口数も反応も少ない銀髪の少年が、この時は僅かに首を傾げた気がした。
大戦が終わり二つに分断したニホンという国。争い事の後に愛を高く掲げたはずの故郷は、戦うために幼少期を費やされた子どもたちにとっては延長線上の地獄のようなものだった。
あれだけ戦えと命じられてきたのに、次の日には戦うなと教え込まれた。
他人を憎めと叩き込まれたのに、次の日には他人を愛せと抑え込まれた。
若者がこの土地トシマに、そしてトシマで開催されているゲーム・イグラに惹きつけられるのは、ある意味自然現象だったのかもしれない。たったいくつかのルールさえ守れば、殺しも嬲りも許された世界。一般常識的には……狂っている無法地帯だろう。だが大戦時に幼少を過ごした若者にとっては、外の世界にはあった抑圧がトシマにはないのだ。欲するなら、己の力で掴み取る。そこに他人がいるなら殴ればいい。殴って斬って、背中を地面につけさせて首の飾りものを奪い取ればいい。
それは昔散々教え込まれたことそのもので、“俺たち”が再現するにはそう難しいことじゃなかった。
けれども、いくらか狂っていると自覚がある俺にも――気の合う同世代と飯を食べる時間は楽しいと、感じられる人間性は残っているようだった。
「食欲がないのか? まあ無理もないけどな、食える時に食わねえとこの先やっていけないぞ」
「そうそう。どっかの誰かさんみたいに、処刑人にいつ追い回されるか分かったもんじゃないからね」
「うるさいな……」
中立地帯のひとつである廃ホテル。その一画のソファとテーブルを陣取っている。テーブルにはブタタグで交換した水とソリドを並べた。共にいた顔見知り、かつ同じくイグラ参加者のリンも、珍しく同様にタグを消費していた。
よほど彼ら、この二人の新入りが気になるのだろう。
「もしかして、さっき交換してたタグがルール違反で奪ったものだったとか……」
「オイ、冗談はよしてくれ。全部ちゃんとルールに則って取ったやつだ。向こうが難癖つけてくるんだよ。お前らも見ただろ、あの二人が話を聞かねえところ」
「きっと難聴なんだよ」
う、と新入りの片方が顔を顰める。先程処刑人が“処罰”した参加者の光景を思い出したのだろう。食べろと進めた矢先、食欲を無くすようなことを思い出させてしまうとは我ながら失策だが、どのみちその様子では前途多難だ。この土地でやっていくには、早めに慣れておいた方がいい。隣の少年のように悪態をつけるほどに心臓に毛が生えるくらいが丁度いいのだ、ここでは。
そういう意味では青ざめた友人の隣で黙々とソリドを口にしているもう一人の新入りの方が、まだ望みはあった。
「アキラを見習え、ケイスケ。ここでは死体を見た後に飯だなんて日常茶飯事だ。それが嫌なら、そうならない状況でやっていけるように死に物狂いでやるしかない」
我ながらスパルタだろうと苦笑した。未だ青白い顔をしつつも下がり眉の新入りーーケイスケは頷く。一方、黙々と咀嚼する新入りの方はじっと床を見つめていた。
「……アキラ、またオムライス味食べてる」
そうぽつりと呟いたのはケイスケだった。
彼はよくアキラを気に掛けていた。気に掛けていたというより、正直なところ、よく目で追っていた。彼らは同じ孤児院で育った幼馴染と聞いている。ーー心配、なのだろう。口数も少なければこんな容姿であるし、彼よりも少し体格の良いケイスケが案じるのは理解に苦しむことはなかった。
だからなのか、ケイスケからアキラの事を間接的に聞くことはこれまで何度かあった。アキラがBl@ster個人戦優勝経験者であること、腕にそれなりに自信があること、孤児院で育ったこと。
それから、オムライス味のソリドが好きらしいということ。
「好きなのか?」
答えはない。それも予想していた。
俺はリンのように愛嬌良く振る舞えない。かといって、嗜好について脅すように聞き出す気もなかった。ただ世間話のように、ごく自然な会話に努めただけだ。ブタとはいえ生命維持のためにはあって困らないタグを使い彼らに分け与えたのだから、喜んでもらった方がこちらとしても気分がいい。とはいえ、これは俺が自己満足でやっただけのことなのだが。
「ま、見た目はどう見ても似てないけど、味はそれなりに再現できてる方だよな。本物の方も好きなのか? 俺はあのドロドロの卵がどうも苦手なんだけど……」
そう言いかけたところで、言葉を紡いでいた舌が止まった。今まで視線を合わせなかった銀髪の少年がこちらを見ていたからだ。
それも、どうにも解せないような顔で。
「…………」
「もしかして、料理の方のオムライスを見たことがないのか」
彼がそう言ったわけではない。
だが、その表情が物語っていた。
「——そうだな。今や飯屋で出してるようなもんじゃねえしな」
リンは、その場にはいなかった。写真を撮りに行ったのだろう。
「ケチャップで味付けした飯の上に卵焼きを乗せた料理、って言えばいいのかな。好みによって乗せる卵焼きはしっかり焼いたものだったり、半熟のものだったりする。半熟の場合はオムレツ……っと、オムライスの飯無しだ、アレを上に乗せて、食べる時に割って食うって形が一般的だな」
「……何言ってんだあんた」
「うるさいな、見た事ない奴に説明すんのは難しいんだよ。俺は食べ専だし。兎に角もっと美味いんだよあれは。俺は半熟は苦手だけど」
優しい幼馴染がへえと感嘆を漏らした。
俺も長い間トシマにいる。こうして料理の話をしたのはいつぶりだろうか。
「食わせてやりたいなあ。本物の味ってやつ」
「あんたさっき食べ専って言っただろ」
つい数分前まで一言も発さなかった少年が鋭い突っ込みを入れてくる。
彼は本物の味を知らないが、俺は作り方を知らないのだ。
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