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GE3/ユウゴ
ユウゴがクリサンセマムの先輩AGEに弟子入り(?)する話。
感応能力とエンゲージを、こう…とろくろを回しています。
シリーズものにする予定でしたが、再履修が後回しになっている為、とりいそぎ単発扱いとしております。

(簡易夢主設定)
ロイ・クリサンセマム
クリサンセマム所属のAGE。イルダやリカルドよりは少し年下で、AGEの中では初期世代にあたる。口の悪い皮肉屋。
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【ようこそ、子犬たち】

「よう、お前が新入りか?」

 初めは、昔の記憶を思い出して夢を見ているのかと思っていた。
 薄暗い牢獄。左右一対の腕輪で拘束された両腕。そして同じような境遇の子ども達。一目見て、自分と同じAGEであると分かった。だからこそあのミナト、ペニーウォートにいた時の頃を夢に見ているのかと思ったのだ。
 だが、子ども達のうちの一人に声を掛けられて、明らかな違いに気がついた。

(——ここは、どこだ?)

「大変だったな。けど、もう大丈夫だ」
 自分がミナトに連れてこられた時は、そう言ってくれた人はいなかったはずだ。

「腕は大丈夫?痛かったらすぐに言って頂戴。看守に薬を持ってこさせるから」
 ……俺たちに、そんな力はなかったはずだ。

 確かに、ペニーウォートのAGEとして何とか生きながらえていた頃は、同じAGE達と意気投合する場面はあった。ただそれは互いに励ますというよりも、諦めに近いものだった。「どうせここから出られないのだから、まあ適当にやろう」と。……一度、脱出を試みてつるんだ二人組もいたが、それまでだった。
 確かに、俺と相棒の実力がそれなりに認められてからは、以前より看守に強く出ることもできるようになった。だが、それは手枷が自由になる戦場での一時だけのことだ。まして、薬などという上等な物を恵んでもらった記憶はない。ミナトに戻れば再び自由を奪われ、さらには懲罰房行きなんてのはしょっちゅうだった。「また飯抜きだったのか?」、戻るなり同室のAGEによく呆れられていた。
 そして。

「そうそう。オレらのリーダーは強くて、看守達にも手を出させないんだぜ!」

 ペニーウォートに、俺たちに。
 リーダーは、いなかったはずだ。
 そんな存在がいてくれたなら……とっくに縋っていたはずだ。

 瞬くこちらを不思議そうに見つめていたAGE達が、遠くの方で開く扉の音に振り返った。それまで大人しかった牢獄の中の子ども達は、みな立ち上がって扉の方へ駆け寄っていく。
 ここから逃げ出すためじゃない。彼らの目的は、扉の向こうから牢獄へ入ってきた人影にあった。
「おかえりなさい、リーダー!」
 話しかけていた二人のAGEも人影に駆け寄っていく。
 人影は、AGEの青年だった。背丈や口調からみるにおそらくはこの牢獄での年長者だろう。ウェーブがかった髪はところどころ砂埃で汚れ、全身に独特のにおいがこびりついている。彼は外で荒ぶる神々と戦ってきたのだろう。それも、おそらくは相当な数だ。そうでなければここまでの匂いはしない。
「こいつが新入りの……えっと、なんて言ったっけ?」
「ははっ、駄目だろ。新しい仲間の名前は覚えないと」
 先程までこちらに話しかけていたAGEが頭を捻る。彼はそのAGEの髪を軽くかき乱して通り過ぎると、こちらへ歩み寄る。「はじめまして」片膝をつき目線を合わせてそう言った。

 彼の声は、どこまでも真っ直ぐに俺に届く。
 彼の手は、どこまでも優しく俺の頭を撫でる。

 これは、俺の願望なんじゃないか?
 そう自覚してしまうくらいに、あの頃の俺が欲していたものを、彼が全て与えてくれたような気がした。

「よろしくな、ユウゴ」







 飛び起きたせいなのか、額を何かに強打した。

「ッ……いっ、てぇ……」
 いくらAGEという化け物に近い存在になったとはいえ、痛いものは痛いらしい。情けない程細々とした声が出て頭を抱えた。
 視界に散っている星々が消えるのを待つと、ようやく頭がクリアになってくる。どうやらぶつけたのは三段ベッドの天井部分で、寝る前に散々ぶつけないように気をつけようと自分に言い聞かせたそれそのものだった。
 ユウゴ達ペニーウォートのハウンドがキャラバン・クリサンセマムに保護されてから、数日が経とうとしている。母艦クリサンセマムは小型船の部類らしく最低限の装備しか備わっていないというが、それでもこのベッドは十分すぎる快適さだ。三段式ということもあり誰がどこで寝るかは相当揉めに揉めたが——主に原因はジークにあるが本人はきっと認めないだろう——、おそらくどの段であっても快適さはペニーウォートのそれを圧倒的に上回る。まったく、寝台とも最早呼べないクソったれなアレはなんだったのか。
「ユウゴ」
「あ……」
 酷い悪態を胸中で吐いていると、上の段から覗き込んでくるのが一人。寝起きのせいかいつもより乱れた髪を逆さにして、ルカがこちらを見つめついた。
「悪い……うるさかったか?」
「ううん。随分いい感じの音がしたけど、大丈夫?」
「ああ、派手に打った」
 開き直ってそう言うと、相棒は口元を緩ませた。つられてユウゴも口元が緩む。
 部屋をぐるりを見渡す。まだ時計はそう遅い時間を指しているわけではないが、それでも男子部屋にいるのはユウゴ達だけだった。クリサンセマムに属するゴッドイーターの男性も、そしてあのAGEの姿もない。小型とはいえこの船を回している数少ない人員だ、本来の業務以外にも仕事が山程あるのだろう。
 以前オーナーのイルダにロイヤリティの交渉を持ちかけたが、航海士以外にももっと受け持つべきだっただろうか。だが、本来の目的を忘れてこの船の雑務にかまけては元も子もない。それに、未だユウゴ達の所有者はペニーウォートだ。任せてほしいとイルダに頼んだところで承諾を得られていたかは、正直怪しいところではある。
 自分達は、結局のところ適度な距離を保つべきなのだろう。
「今日はミッションは無かったはずだ、まだ寝てていいだろ。まあ、ジークはまだ寝てるしな。キースは……いないみたいだが、どこ行ったんだあいつ」
「たぶん神機保管庫だよ。ユウゴもどこか行くの?」
「そっか。俺ももうちょっと寝てたいんだけど、そのまえに頭を冷やしたいんだ」
 額が痛むのは本当だ。
 ベッドフレームに掛けていた上着を引っ掴んで立ち上がる。……立ちくらみがした。ちゃんと冷やさないとまずそうだと反省した。痛みを堪えながら、ルカの方を見上げる。
「お前はうちのエースなんだから、しっかり休んでおけよ」
「ユウゴもうちのリーダーなんだから、しっかり頭冷やしてよ」
 振り返りうるさいなと口答えをしようとしたところを、顔目がけてタオルが投げつけられた。この距離でよく見事に当てるものである。顔から剥がして文句を言おうとしたが、ルカはすでに布団を被り直していた。疲れているはずだ、少しでも安心できる場所で寝かせてやらなければ。ぐっと言葉を飲み込み、タオルを片手に男子部屋を出る。
(リーダー、か……)
 部屋を出た後も、ルカの言葉が頭の中で反響していた。上着に袖を通しながら、ユウゴは道中ぼんやり考える。
 夢の中の彼は、まるであの牢獄の希望のような存在だった。リーダーとは、本当は彼のような者のためにある言葉なのだろう。少なくとも、今のユウゴには何もかもが足りなかった。
 あれが俺の願望なら、また会えるだろうか。
 夢の中の人物というぼやけた存在でも構わない。彼からリーダーというなんたるかを学べるなら、その姿に少しでも近づけるなら彼が何者かなどということは些細な問題でしかない。
 自分でも驚く程に貪欲だった。




「あっ、おはようございます。お早いんですね」
「そうでもないさ。現にここの二人はもう活動してるんだろう」
 ペニーウォートにいる以上、キャラバンの船内をお目にかかれる日はそうないだろう。空き時間に様子を見ておこうと、ユウゴは文字通り頭を冷やした後船内を散策していた。無論機密上入れない区画はある。しかしハウンドが航路上のアラガミ討伐を受け持つに加え、航海士としての役割を担うようになったことで、ユウゴ達が自由に行き来できる範囲は増えていた。お陰で医務室や神機保管庫にも入れるようになっている。各所にはよくキースが入り浸り「アレもコレも使えるもんばっかじゃん!」と目を輝かせているが……見なかったことにしよう。ユウゴの目が黒いうちは皆の行動に気を配ろうと思っているが、専門外なのだから、仕方ない。
 居住区画からエレベーターで上がり、ミッションカウンターへと向かう。カウンターではクリサンセマム所属のオペレーターである少女、エイミーが働いているのが見えた。忙しそうにしており声を掛けるのも憚られたが、こちらに気がついた彼女は真っ先に声を掛けてくれた。未だ短期間の付き合いはないが、彼女は非常に気の回るオペレーターであるようだ。
 エイミーにクリサンセマム所属の二人の動向をそれとなく聞いてみる。すると意外なことに、彼女はすんなりと答えた。
「そうですね。リカルドさんは船内の清掃、ロイさんは航路上の小型アラガミの討伐に向かいました」
「小型アラガミの?」
「はい。ハウンドの皆さんも招集しようとしたですが、ロイさんがこのくらいなら自分だけでいいと」
 ——話が違うじゃないか。
 喉元までその言葉が出かけたが、なんとか飲み込んだ。
 航路上のアラガミ討伐はハウンドの仕事だったはずだ。確かに彼はクリサンセマムのAGEであり、その船の進路を阻むアラガミの掃討を行うことには何の不都合も不自然もない。だがオーナーであるイルダとハウンドが交わした取り決めを無視して行ったのだとしたら、ハウンド側としては獲物を横取りされた気分だ。今後の為の重要な資金がこんな簡単に横から掻っ攫われるのはたまったものではないし、面白くない。
「もう終わったのか」
「はい。先程帰還して、今はロビーにいると思いますよ」
 エイミーに礼を言い、ユウゴはその場を後にする。兎にも角にもあの仏頂面に文句のひとつを言わねば気が済まない。
 この時のユウゴはいつになく頑固だった。



「ロイ」
 彼はエイミーの言う通りロビーにいた。クリサンセマム御用達の気だるげな商人から携行品を購入する代わりに、戦地で拾った換金アイテムを渡していたらしい。
 ユウゴの声に振り返った彼の髪は、何処かで見たような埃被ったウェーブだった。……しかしながら、今は彼のウェーブ髪がどうのこうのという話は二の次である。

「小型アラガミの討伐に一人で行ったんだってな。どうして俺達を呼ばなかった?」

 向かい合って開口一番、ユウゴは直球で尋ねた。彼のような人間はその方が答えが返ってくるだろう。そんな予想があったのだ。
「小型だったからだ」
「小型だろうとなんだろうとアラガミである以上、俺達ハウンドの取り分もあるはずだ。それをアンタの独断で決められちゃ困る。それに、そんな権限はアンタにもないはずだよな」
 そしてその予想を裏切らず、すぐに答えは返ってきた。しかし勿論それが納得できるかどうかはまた別の話である。やや意固地になりつつあったユウゴが彼の答えに納得できるはずもなく、一歩距離を詰めて問いただした。果たして彼はどう出るだろうか?
 結論から言うと、彼は全く動じなかった。それどころか目下の剣幕を一蹴し、いかにも不機嫌そうに眉間に皺を寄せこうも言った——「子犬が吠えるな」と。
「この船はお前達の保護のほかに仕事を抱えているんだ。俺の仕事が減る分には儲けものだが、お前達の出動にはいかんせん時間がかかりすぎる。よその子犬共の為に船を止めるわけにはいかん」
「なんだって……!」
「その腕についているのはなんだ、お飾りか」
 それは、想定外の反撃だった。口答えをしそうになっていたユウゴは己の両手首を見る。彼が言っているのは十中八九、一対の赤い腕輪のことだ。AGEである証拠であり、この世界の奴隷のような立場を運命づけられたクソッタレな手枷だ。今でこそ拘束は解かれているが、いつまた強制的に繋がれるか知れたもんじゃない。
 自分だけならまだいい。問題は、同じくペニーウォートから保護されている仲間達である。彼らまで同じ目に遭わせてしまうのは、正直もう耐えられない。
「俺達AGEの価値は戦力だ、残念ながらな。自分達の価値を商売道具にするというなら、もっと腕を磨いてこい」
 残酷にも、若干の哀れみが込められているように感じた。
 彼も同じAGEだからなのか。似たような経験があるからなのか。しかし彼は少なくとも、AGEにとってはこれ以上にない楽園のようなミナトに所有され、自由に行動しているではないか。何を苦労などすることがあるというのか。
 半ば八つ当たりのような感情が渦巻いた。同時に、その複雑な感情は痛いところを突かれたからだとも自覚していた。……ずっと分かっていたことだ。甲判定のルカが見せしめの如く売り飛ばされそうになった時も、そうしない方が良いメリットを証明する為に難易度が高い任務をこなしてやってきた。散々生意気だと罵倒されてもあのミナトで使われていたのも、懲罰房では比較的大人しくしていたからだ。
 あの時の屈辱に比べれば、今俺がしようとしていることはなんて事ないんじゃないか?
 不思議と、人をイラつかせるような彼の言動がユウゴの背中を強く押していた。

「俺達の教官になってくれないか」

 僅かに目が見開かれた気がした。少しでも反応があったということは何かしらこちらの言葉が響いているのだろう。
 話を切り出した以上断られるわけにいかない。ユウゴは一度は伏せた顔を上げて、さらに二歩距離を詰める。彼はその場を動かなかったが、こちらの勢いを受けて小さく身じろいだ。
「……時間がねえんだ。俺は、あそこに戻される前に何とかして力をつけないといけない。その為には俺は、いや俺達にはもっと戦力が必要だ。俺達は何が足りないか分かっていないかもしれないが——アンタには、分かるんだろう?」
 そう言って、少し高い位置にある彼の目を見据える。視線が逸されることはなかった。受けて立つように目が合ったまま、彼はこちらを見下ろしていた。
「俺のメリットはなんだ」
 徐に彼が口を開く。
「討伐したアラガミのコア、取り分は五分五分でいい。勿論レアものでも構わないし、目当てがあるなら聞く」
「……感応種」
「感応種?」
「ペニーウォートにはいなかったかもしれんが、マルドゥークというデカブツのアラガミだ。奴は灰域にはまだ適応しきれていないようだが、周囲のアラガミを呼び寄せる感応能力に近い力を持っている」
 その素材が必要だと彼は言った。
 感応種、名前自体は聞いたことがある。キースが解析したペニーウォートのデータベースでも閲覧できた、アラガミの分類カテゴリのひとつだ。感応能力に似た力で周りのアラガミに影響を及ぼす、まるでエンゲージみたいな能力だ。アラガミ同士でも何か思うところがあるのだろうか。そんな馬鹿げた疑問が一瞬頭をよぎり、馬鹿らしいとすぐに消えていった。
 兎も角、彼は話に乗った。であればユウゴの賭けはとりあえず成功したと言っていいだろう。

「よろしく。教官」
「フン、まずはそのクソ生意気な挨拶からだな」

 早速の悪評だが、不思議と悪い気はしなかった。
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